アメリカでは11月の大統領選挙に向けて各党の候補者選びが始まっている。
民主党の候補者選びの初戦は南部サウスカロライナ州で行われ、現職のバイデン氏が圧勝。共和党ではトランプ氏が2連勝を飾っている。
4つの刑事裁判を抱えながらもなぜトランプ氏は強いのか? 関西大学客員教授 会田弘継氏は「2016年にトランプ氏、あるいはサンダース氏を押し出した状況に変化がないからだ。様々なアメリカ社会の矛盾が全く解決されてない」と述べた。
トランプ現象が巻き起こった2016年、対する民主党の候補者選びで健闘したのが、「民主社会主義」をアピールしたサンダース氏。富裕層との格差是正など、社会主義的な政策が若者らの支持を集め「サンダース旋風」とも呼ばれる流れを作り出した。
この2人が躍進した背景には、「貧富の差の拡大による中間層の崩壊」があったと会田氏は振り返る。
「中間層はリーマンショックが起きたことで本格的に崩壊し、資産を手放すことになったが、この時オバマ政権は手を打たなかった。そして、IT系など富裕層だけがどんどん豊かになった」
その結果、失業者や政策に不満を抱いた人々によってティーパーティー運動やウォール街占拠運動といった大規模な抗議活動が発生。
「格差は広がる一方で左右からの激しい突き上げによって大衆運動となった。しかしその後、トランプ政権が生まれてこれが緩和される。トランプ氏による保護主義的な政策が若干功を奏し、バイデン政権もトランプの政策をある意味で継承しているようなところがある。その結果、ずっと格差が固定されている」(会田氏)
そして、今もなお熱狂的な支持を誇るトランプ氏について合田氏は「“怒りの受け皿”としてある限り、トランプ氏が犯罪者と呼ばれようが全く無関係に人々は票を投じる」と言う。
会田氏は階級社会化したアメリカの根本的な問題を解決しない限り、トランプ現象のような混乱が繰り返され続けると指摘する。
「『Qアノンやディープステート(闇の政府)を信じるバカな人達がトランプ氏に票を入れて困ったものだ』なんて捉え方はしない方がいい。ディープステートとは『自分たちは政治から疎外されている』という意味だ。我々の見えないところで物事が決まっている。表の世界で投票した結果、選ばれた人が物事を決めるのではなく、どこか別のところで決まっているのでは…そう思わざるを得ないくらい自分たちの声が通らない。『自分たちがいくら叫んでも激しい格差社会の底辺に置かれたままじゃないか』と。トランプ氏はそんな時に現れた受け皿だ」
現代アメリカ政治外交が専門の前嶋和弘教授は「ブッシュ政権時に起こったリーマンショックを解決するためにオバマ政権が誕生し、大型景気刺激策、オバマケア(医療保険制度改革)、金融が格差を生むとしてウォール街改革を行なったがその結果『アメリカの格差は簡単じゃない』ことが明らかとなった。会田教授はトランプ政権時に格差は少し是正されたと話されたが、実際はほんの少し変わったか変わらないか…むしろブラック・ライヴズ・マター運動を見ると格差は広がり続けているとも見れるだろう。自由貿易を重視し、雇用はメキシコ・インド・中国に出ていってしまった」と分析した。
アメリカでは富の不平等が深刻となっており、上位1%の富裕層の資産は増える一方、中間層の資産が減っていることはデータを見ても明らかだ。
前嶋教授は両政党の支持者の分断について「例えば、民主党支持者であれば『インフレではあるものの今は景気も株価もいい。バイデン大統領はなかなかよくやってる』と見る。一方、共和党支持者からすると『バイデン大統領はコロナ対策で不平等をなくそうとしたのではなく、自分の支持層である人口密度が高い都市部にお金をばらまいた。バイデン大統領が招いたインフレだ』と見る。景気の刺激策や環境保護対策を実施しても満足する人と不満を感じる人がおり、分断が加速する。さらにアメリカは分断に加えて拮抗した状態にあり、民主党・共和党のどちらかが喜ぶ政策をすると残りが嫌がる」と説明した。
11月の大統領選のカギを握る無党派層について前嶋教授は「共和党は全体の3割、民主党は3割、無党派は4割もいるため選挙ではとても重要だ。そんな無党派の中を見ると民主党寄りが3分の1、共和党寄りも3分の1とグラデーションがある。そこで陣営はボランティアを駆使して『もし、トランプが来たらあなたの権利は取られる』あるいは『バイデンがまた当選したら移民がいっぱい来て、あなたの職が奪われる』など無党派層を脅すことで無理やり選挙に連れて行こうとしている」と説明した。
さらにティーパーティー運動やウォール街占拠運動について前嶋教授は「『我々は取り残された』というコアのメッセージは同じだが、ティーパーティー運動は『移民に対して政府はお金を出しているが、俺たちからお金を取るなと』いう減税の主張であるのに対し、ウォール街占拠運動の方はできれば政府のリーダーシップで所得の再分配をして世の中を変えていこうとしており、全く別の主張だ。こういった違いが分断の難しいところだ」と解説した。
誰が大統領になろうとも、アメリカの問題の解決は難しいのだろうか?
前嶋氏は「相当難しい。民主主義という言葉が万能ではなくなっている。『民主主義=俺たちと違う意見を聞く』であり、否定的に捉える世論調査の結果も増えている。さらに『俺たちのことを考えてくれない大統領が就任したら武力で変えていいんだ』という世論調査の結果も出ている。今後も当分の間、この分断と拮抗が続いていく。大統領が代わったからといってすぐ変わるものではない」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)
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