日本が世界に誇る自動車産業。輸出台数もトップかと思いきや、実は去年の首位は中国。その勝敗を左右したのが「電気自動車(=EV)」だ。また、EUではEVの販売が初めてディーゼル車を上回った。
ここまでシフトが進む理由は、“環境へのやさしさ”。CO2など温室効果ガスの排出が少ないことから、“脱炭素社会”を目指して各国がしのぎを削り開発に力を入れている。
しかし、この流れに一石を投じる人物がいる。EVに使われているレアメタルの研究者・東京大学生産技術研究所の岡部徹教授だ。「環境にやさしい」は本当なのか? 『ABEMA Prime』で聞いた。
各国のEVシフトについて、岡部氏は「遠い将来、車は二酸化炭素や有害なものを出さずに走り、運転手もいない方向にいくのは確かだろう」とした上で、「かなり前から言っているのが、必ずしもEVは環境に良くないということ。何百キロものバッテリーを作るには膨大な量のレアメタルを使い、モーターに使うレアアースを作るにはいろいろな所で環境破壊が起こる。電気仕掛けの装置を作るにはけっこうな環境負荷がかかっていることを認識しなければいけない」と指摘。
パックンは「製造工程における環境への負担は意識すべきだと思う。しかし、今まで読んだ記事や研究結果では、例えばガソリン車とEV車を10年走らせた時の環境負担は、EV車のほうが少ないと。これはどちらを取るべきか?」と投げかける。
岡部氏は「二酸化炭素の排出量のみで判断したら、長いこと乗ればEVがあるところで逆転するのは確か。ただ、環境破壊やコストというのは必ずしもCO2だけではないことを考えてほしい」と回答。「今の環境評価は人間の価値を数学の点数のみで評価する、と言っているのと同じ」「全ての環境負荷を考慮した評価の仕組みを作ることも不可能。CO2何トンと有害物質何トンが同じ環境負荷なのか?」と疑問を呈している。
また、「いろんな資源を使うメリットを受けるのは、お金を払える人たち。例えば日本やヨーロッパでは害悪を出さない」とも述べる。
「鉱石から採掘して精錬する中で、レアアースの場合はウラン、トリウム、銅だったらヒ素、カドミウム、水銀といった有害物は落とされ、きれいになったものを持ってくる。“Not In My Back Yard(世の中に必要だが自分の居住地域にはあってほしくない施設)”、NIMBYというが、そちら側にヨーロッパは舵を切ったと言える。
レアアースは地上だけでも1000年分あるが、中国で9割以上生産している。アメリカにもオーストラリアにも良い山がたくさんあるが、それを精錬しようとすると環境ペナルティを払わなければならず、アメリカは精錬所をシャットダウンしたし、オーストラリアは掘っても自国では精錬しないというオプションを取っている。日本も環境コストが高いからできない。結局、“それでも成長戦略を取る”と言っている所で生産され、その周りの環境が破壊されていく。そうしてできてきたものはCO2の発生量を大幅に減らす、という構図になっているだけだ」
パックンは「CO2で燃料が作れるようになったり、レアアースやレアメタルをよりクリーンな工程で採掘できるようにする技術発展の可能性はある。レアメタルを使わない電池の開発も考えられるという時、今のEV車は最終目的地ではないと思う」「レアアースの環境被害は、軽視するつもりは全くないが部分的だ。CO2による温暖化は地球全体の問題であって、臨界点を超えてしまうと取り返しがつかなくなる。まずそれを減らしてから、部分的な被害を減らそうという考え方はあるのではないか」との見方を示す。
これに岡部氏は「その考えはあるが、厳しい質問をすると、じゃあ原発をガンガン進めるのか? と。核物質の分裂を使い、あまりCO2を出さないので、日本でCO2を削減しようと思ったらとにかく原発だとなる。しかし今度は、放射性廃棄物がたまり、事故が起これば巻き散らしてしまうという、別の問題が生じる。このような環境インパクトをどう考えるのか。CO2の足し算じゃ進まないわけで、それはEVでも同じだということだ」とした。(『ABEMA Prime』より)
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