5ラウンドにわたって壮絶に打ち合うまさに激闘だった。3ラウンドには至近距離での打ち合いの末にスリップであわや場外転落、大流血で再三のドクターチェックに「大丈夫!」とレフェリーに猛アピールもむなしく、TKO決着となったが、手に汗握る攻防に終止符を打ったレフェリーストップに「ドクターいい判断」と共感の声が殺到。解説席で試合を見守った前王者は「自分にはあのような試合はできない…アツくなった。選手生命を考えて賢明なストップ」とレフェリーの判断を支持した。
典型的なハードパンチャー同士の対決は文字通りの死闘となった。2月16日に後楽園ホールで開催された「Lifetime Boxing Fights 19」で、坂晃典(仲里)と鯉渕健(横浜光)による東洋太平洋スーパーフェザー級王座決定戦が行われた。試合は5ラウンド、有効打での出血によるTKOで坂が勝利。執念で新王者を戴冠した。
元日本スーパーフェザー級王者で、22勝19KOの坂。タイトル初挑戦の鯉渕も10勝のうち9KOと圧倒的なKO率の両者は、序盤から前のめりで強打の応酬となった。身体全体で振り回すスタイルの鯉渕に対して、足を使いながら要所でアッパーをみせる坂と互いに積極的な立ち上がり。
2ラウンドに入ると足を止めて打ち合い。坂がコンパクトなパンチをまとめれば、一方の鯉渕は荒っぽく頭を合わせながら渾身のアッパーを返す。激しい攻防のなかで両者バッティングで出血がみられるが意に介さず、ラウンド終了間際には鯉渕がボディの連打を効かせた。
序盤から続く激闘は3ラウンド以降さらに激しさを増す。坂がボディと連動させたアッパーを連続で効かせ、鯉渕は有効打で左目尻をカットして出血が激しい。試合再開後も坂のペースは落ちずにコンパクトなアッパー、さらには単発の重い右ストレートをまとめ鯉渕にさらなるダメージを与える。
大出血の鯉渕は頭を下げながら前へ前へとゾンビモードで猛進するが、下がりながらテンポよく確実に当てる坂のペースが続く。するとラウンド終了間際、鯉渕もフルスイングの右を振り抜いて相手をグラつかせる。たまらず前のめりに崩れた坂は、リング外へ飛び出しそうな勢いで前転気味に吹っ飛ぶも、ここはスリップの判定。その後も右左のパンチを被弾するがゴングに救われる。
大逆転が見えてきた鯉渕に会場から「鯉渕コール」の大合唱。歓声を背に受けた鯉渕は4ラウンドも強いフックを当てるが、坂は冷静に距離を取りながらのパンチをまとめる姿勢を崩さない。ラウンド中盤にはジワジワとボディショットを効かせ、鯉渕の体力を削り、アッパーをまとめる。
被弾が増えるにつれ出血が激しい鯉渕にレフェリーからドクターチェックが入るが、鯉渕が「大丈夫!!」と声を荒げる場面もみられ、そんな死闘の様子にファンからは「止めてもいいんじゃないか」「ストップした方がいい」「続行不可能」といった声も聞こえるが、試合は続行となる。
オープン・スコアリング・システムにより前半4ラウンドは“ジャッジ2人がドロー、1人が鯉渕優勢”とアナウンスされるが、実況の西達彦アナウンサーは、その激しさゆえに「もはやポイントどうこうの試合じゃない…」とコメント。
壮絶な試合は5ラウンドに突入。まず鯉渕がアッパー連打で効かせると、すかさず坂がストレートを追撃で連打。ここで出血が止まらず防戦が続く鯉渕に3度目のドクターチェック。有効打によるダメージにより、レフェリーはTKOを宣告した。
あまりに激しい出血と、危険な両者のパンチの応酬。さらにレフェリーやドクターの判断にファンも「これは仕方がない」「危ないシーソーゲームだった」「貰いすぎたな…」「ドクターいい判断です」とレフェリーとドクターを支持する声が大多数だった。
西アナウンサーが「正直見ている我々が怖くなるくらい、人生で何回もできないような試合」「ボクシングの安全を考える上でも仕方がないストップ」と述べれば、この日の解説を務めたアマ13冠の前東洋太平洋フェザー級王者で、4月17日に後楽園ホールでWBA世界同級9位アンセルモ・モレノ(38=パナマ)と同級10回戦を行うことが発表された前OPBF東洋太平洋フェザー級王者の堤駿斗は「自分にもあのような試合はできない。見ている方もアツくなる。お互いかける思いが見られたので感動した。(鯉渕選手は出血で)あそこまでパンチが見えないと被弾も増えてしまうので、選手生命を考えて賢明なストップだった」と改めて安全面を考慮した判断へ理解を示した。