クマによる人的被害が深刻になっていることを受け、環境省は「指定管理鳥獣」に追加する方針を示した。指定管理鳥獣は、生態系や生活環境、農作物に被害を与えるため、個体数の管理が必要な動物を指す。これまでに指定されているのはイノシシとニホンジカで、都道府県が捕獲などをする際に国から交付金が受けられる。クマが冬眠から目覚める4月を目指すという。
被害が多い自治体からは歓迎の声が上がる一方で、慎重さを求める声もある。自然との共生を訴える日本熊森協会は「人身事故を減らし、棲み分けを実現するためにすべきは、クマを指定管理鳥獣にすることではない。生息地復元と環境整備・被害防除に直ちに費用を出し、取り組むべきだ」と訴えている。
クマを鳥獣指定する必要はあるのか?人間との共存は可能なのか?『ABEMA Prime』では狩猟免許を持つ俳優の東出昌大と考えた。
■「このまま進めば、数年のうちに絶滅してしまう」
日本熊森協会・北海道支部長の鈴木ひかる氏は、指定管理鳥獣に追加されることで、安易な大量捕殺につながると懸念する。クマは繁殖力が低く、駆除により絶滅の危惧に瀕し、そこで再び保護するようでは、その場凌ぎの対策だと指摘。「このまま進めば、数年のうちに絶滅してしまうのではないか」
「クマが増えているように行政や研究者は話すが、出没しやすい空間を作ってしまった人間側に問題がある。頭数は変わらずに、市街地の近くに集まっているだけという可能性もある。クマの生息数は推定で数えているが、例えばオスは若い時に生息域を探して何百キロと歩いてしまうので、それをどうカウントするのか」と述べる。
山で狩猟をしながら生活する俳優の東出昌大は「数は増えていないと思う。昨年は人的被害が多かったが、全国的に夏が長く、主食となるブナやシイといった堅果類が大凶作だった。山で食べるものがないから市街地に出てきたのだと思っている」とコメント。
また、指定管理鳥獣にすることには懸念があるという。「"ニホンジカやイノシシと同じ扱いになる"という認識だけを持ってしまった猟師は、“クマを獲ったら金が出るようになる”と言う。指定することで、“クマは殺してもいい”という大義名分になりかねない。そうなれば密猟も横行したり、撃たれて半死半生になった子グマが逃げたとしたら、その数は把握できないはずだ」と主張した。
■東出昌大「報道が加熱している」
鈴木氏は、人間とクマとですみ分けをするために、「鳥獣対策専門員」の市町村への配置、市街地に柿や栗など「クマ止めの林」の整備、奥山での広葉樹林の再生などを提案。また地域の努力として、猟友会がパトロールしてクマを怖がらせたり、出没しやすい朝は外出しない、「ハチミツでおびき出す」といった方法をやめることをあげた。
「クマは“森の番人”と言われる。生息していることによって、広葉樹の森が広がっていくからだ。落ちた葉っぱが腐葉土になってふわふわの土を作り、水を溜めて、未来には沢となって流れていく。また、ゾーニングという言葉があって、市街地、切り開かれた何もない所、スギやヒノキのような針葉樹がある配置にすれば、クマはここに来てもしょうがないと思うようになる。国際的には生物多様性と言われている中で、日本は違う方向へ行っている」
東出は「九州にもクマはいたが、今はいなくなった。四国もあと二十数頭と本当に限られた数しかいない。クマは繁殖能力が低く、人間の気持ちと政策次第で絶滅させられてしまう。ニホンオオカミがいなくなった森を見て、“昔はオオカミがいたらしい”と、ロマンのように語るけど、100年後に“昔はクマがいたんだって”と言うのはあまりにも寂しい。この問題は簡単に答えが出ないけど、保護と生息数の把握に全力を出さないといけないと思っている」と自身の考えを述べる。
また、メディアのクマをめぐる報道にも苦言を呈する。「テレビ局の人からクマ関係のことを一緒にやりたいと言われた。理由を聞くと、“数字が取れるから”。伝え方にも問題があって、例えば"冬眠しなくなった穴持たずのクマは凶暴だ、肉食化が進んでワナにかかったシカを持っていった"という報道があったが、ちょっと待って欲しい。シカがワナにかかった翌日に取られたのか、数日放置されて死臭が立ち上がったものを持っていったかで、意味合いは全然違う。そういったところで、報道が過熱し過ぎだと思う」。(『ABEMA Prime』より)
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