介護職の在り方や人手不足、待遇改善などが議論される中、政府が来年度からの介護報酬の改定を打ち出し物議となっている。全体としては1.59%の増額だが、訪問介護の基本報酬を引き下げたのだ。政府は待遇改善の加算措置で、トータルで見ると報酬の減額にはつながらないと強調。厚生労働省も、訪問介護について他のサービスよりも利益率が高いと指摘した。
これに現場は強く反発し、日本ホームヘルパー協会の境野みね子会長は「誠に遺憾であり、強く抗議する」とコメント。近年、訪問介護業界は厳しい状況にある。東京商工リサーチは1月、2023年の訪問介護事業者の倒産件数が過去最多になったと発表した。賃上げなどの処遇改善が一部で期待されるものの、飲食業など他業界との人材獲得競争が激しく、人手不足解消は難しいと分析しているのだ。
今どのような問題があるのか。充分な介護を維持するために何が必要なのか。『ABEMA Prime』で議論した。
■「訪問介護の利益率が高いならなぜこれだけ倒産し、なり手不足なのか」
千葉勤労者福祉会介護部長の門脇めぐみ氏は「抗議の声はすごくあがっている。物価高騰でどの業種にも賃上げの動きがある中で、“訪問介護は賃上げさせない”と言われているようで、すごくショックを受けている」と話す。
前厚生労働副大臣で公明党の伊佐進一衆院議員は「社会保障と財政の構造に根本的な問題があると思っている。報酬改定時はそれぞれの職種に合わせて、どれくらいプラスか・マイナスか、という大体の数字が出てくる。収支差である程度利益が出ているところは減らす、というのが今までのやり方で、そのしわ寄せがいったのだと思う」と指摘。
介護報酬改定による影響を門脇氏の施設で試算すると、改定前の月額報酬総計は約738万円(基本報酬約603万円+処遇改善加算約135万円)、改定後は約734万円(基本報酬約589万円+処遇改善加算約144万円※最も高い率の場合)で、約4万円の減額になる。
門脇氏は「訪問介護の収支差率が高いなら、なぜこれだけ訪問介護事業所が倒産し、求人倍率も15倍以上というなり手不足なのか。そこも含めて基本報酬を考えていただきたい」と訴えた。
訪問介護の利益率(収支差率)は7.8%だが、戸別訪問でサービス提供をしている場合は6.7%、同一建物内でもサービスを提供している場合は9.9%と、差がある。「基本報酬が下がってしまうのだったら施設に移ろう、という方も出ると思う」。また、「“賃上げはないんだ”というメッセージが伝わってしまい、これから介護に就く人がいなくなってしまうのではないか」と懸念を示す。
伊佐議員は「収支差率が高いといっても、決して経営は楽ではないと思う。調べてみると、支出が減っているところが多かった。つまり、人が集まらず、人件費が減ったことでプラスになっている。処遇改善加算を実はとっていないという所も多いので、ここを改善するのが1点。また、それ以外にも認知症加算だったり、ネットワークを整備して効率化すると加算が付いたりする。あるいは補正予算だ。トータルでしっかりと応援していきたい」と述べた。
人手不足について、制度アナリストで元経産省キャリア官僚の宇佐美典也氏は「現場ではケアマネージャーがどんどん辞めていく。それなりに高度な技能や知識が必要なのだが、代わりがいない間にケアが必要な方の体調は悪くなっていき、医療の領域へ入っていく。これを止めるには、介護士や看護師もなるべく長くいてもらわないといけないが、グルグルと入れ替わっていて、“貢献しよう”という善意に頼るシステムになってしまっている。“訪問介護は利益率が高い”というのも当たり前で、そういうところしかやっていけないということ。残るのは都市部でサービス付き高齢者向け住宅をやっているような事業者で、地方はどんどん切り捨てられる」と指摘した。
■膨らみ続ける介護費用 「利用者目線も、事業者目線も大事」だが…
介護保険から事業者に支払う費用は、2018年度の10.7兆円から、2025年度には15.3兆円、2040年度には25.8兆円に膨らむとの見通しが出ている。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「人口動態からも確実にわかる問題。長期的な視点が欠けている」と苦言を呈する。「厚生労働省がらみだと、医師会など既存の団体を入れて議論する。仕組みをいじることにみんな反対するので、なかなか思い切った政策ができない。後期高齢者の人口予測に対して、介護士は何人必要で確保するためにどうするのか。超党派でこういう議論をし、20年、30年計画で進めてほしい」。
伊佐議員は「なぜこういうことが起こるかというと、同じパイを奪い合っているからだ。高齢化が進めば社会保障の予算は増えていくが、毎年それを高齢化の人口の伸びだけに押さえろと叩く。何かやりたいことがあったら他のところを我慢しろ、というゼロサムゲームだ。今までは何とかなったが、インフレになり、しかもこの枠に子育て支援の3.5兆円まで入ってきた。このままだと社会保障はにっちもさっちもいかなくなる」と危機感をあらわにする。
その上で、「毎年夏に“骨太方針”という政府の予算方針が出る。3年ごとに社会保障のフレームワークを変えるのだが、今年が戦いだ。去年末からずっと言っているのは、物価高や賃金はこの枠の外にしろと。そこを、与野党を超えてやっていきたい」との考えを示した。
夏野氏は「やはり後期高齢者の(医療費)1割負担を見直さないとどうしようもないと思う。ない袖は振れない。身体がそんなに悪いわけではないけど、薬局で買うよりも病院でもらうほうが安いから、という方も多いだろう。インセンティブがそちら側に働いているように思う」と指摘する。
これに門脇氏は「1割が2割になる負担は大きいのと、それ以外の自費の部分がだいぶ上がっている。年金は入ってくる金額が決まっているので、何かを切り詰めないと今度は介護保険のサービス料が支払えなくなる。そこは慎重にというか、第3の方法がないかを考える必要がある」とした。
伊佐議員は「利用者目線も、事業者目線も大事だ」と話す。
「利用者目線だと、低所得で基礎年金しかない、しかも満額ないような方が、保険料を払いながら介護を受けるのは大変。そこは一定の支援がいるだろうし、事業者側へも支援がいるだろう。介護事業者に“効率化してください”と言うが、これもそう簡単ではない。国の制度は複雑に絡み合っていて、例えばどこかの病院に同行してからそのまま買い物に行きたいけど、制度を使うためには一度家に帰らないといけないといったこともある。介護と非介護の対象を一部一体にするなど、もう少し柔軟な制度にすることを現場の皆さんも望んでいるのではないか。これができればだいぶ効率化は進むと思うが、そこまで議論されていないので、抜本的に見直していかなければいけない」 (『ABEMA Prime』より)
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