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【映像】研究室ではダンボールで寝るのが当たり前?
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 理工系の学部に女子を増やそうと、入試で女子だけが受けられる「女子枠」を設ける大学が増加している。2024年度の4月に新設した国公立大学は10大学で、合わせて15大学となった。加速する動きについて、名古屋大学で、教育社会学を専門とする内田良教授に話を聞いた。

【映像】研究室ではダンボールで寝るのが当たり前?

━━名古屋大学では既に2023年度入試から「女子枠」を設けているが、加速する「女子枠」の増加をどう捉える?

「ぜひ各大学で積極的に進めてほしい。実際、大学で工学部の学生向けに授業をしても女性はポツポツといるだけ。表向き、入試上は誰も『女性は来るな』と言っているわけでは無く、『受験してください、男女平等です』と言いながら結果的に女性が少なくなっていることが問題だ。これは何か社会の構造が歪んでいる、ジェンダーの感覚が何か反映されているからだと考えなければならない」

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「日本の国会議員の女性比率もそうだが、女性の工学部、理工系女性の少なさ、会社役員の女性の少なさはずっと変わっていない。もう構造的な問題として積極的に手を入れていかないと変わらない」

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 河合塾では去年、大学入学共通テスト問題に取り組むオンラインイベントを開催し、参加した高校1年生、2年生らにアンケートを実施。その中で工学部の「女子枠」設置について聞いた。回答した2400人余りのうち、賛成が65%、反対が35%。賛成派の方が多かったものの、理由を回答した人の数は反対派(284人)が、賛成派(138人)の倍以上と問題意識の高さがうかがえる。賛成派の主な理由は、「女子が入りやすくなる」「女性の社会進出・多様化につながる」など。反対派の主な理由は、「不公平・差別」「枠の設置と志望動機は無関係」などが挙げられた。

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━━高校生らの声をどう見る?

「受験を頑張っている学生にとってはあまりにも身近すぎて考えづらいことだと思うが、これは構造的な問題。逆差別だという考え方も確かにあるが、まずは、理工系では男性の方が何らかのベネフィット(恩恵)を得ていると考えなければならない。男性に偏っていること自体が問題。今がまるでノーマルで問題ない、それが悪くないという考え方ではなく、男性優位な形になってしまっているというところから始めないといけない」

 一部には、“下駄を履かせてもらっている”ような形で入学することに抵抗があるといった声もあるが、そもそも日本の女子の数学の能力は世界的に見ると非常に高いという。

「人材を活用できていない、もったいない状況といえる。日本社会、そして世界を豊かにするためにも、男女問わず能力をちゃんと発揮できるようにしていくことが必要。それを潰してしまっているのが現状」

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 河合塾の全国統一プレ共通テスト(2023年12月)によると、理工系を志望する女子の割合に増加の兆しがみられるという。。河合塾・主席研究員の近藤治氏は、「『色々なキャリアを目指したい』という女子中高生が増えてきた。特に「女子枠」の設置で、女子の獲得に積極的な大学で、志望者が増えている傾向がある」と話す。

━━間口が広がり、“理工系女子”増加の兆しが見えてきた?

「非常にいい傾向だが、やはり入学後に『なんだこの男社会は』とならないように、入学後をどう考えていくかも大事だ。1~2年で世の中が動くとは思わないが、『先輩が理系に行った。私も』となるように、続けていくことで下の世代が理系を目指すきっかけになると思うので、中長期的に期待したい」

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 『なぜ理系に女性が少ないのか』(幻冬舎新書)の著書があり、科学技術社会論などが専門の東京大学・カブリ数物連携宇宙研究機構の横山広美教授は、「母親世代に理系が少ないため、娘の理系進学を心配するという悪循環があった。理工系の会社が女性が多くて働きやすく長く勤められると分かれば、親の支援が得やすくなる。今は社会全体の動きとして理工系、特に情報系のニーズが高く、就職状況も非常に良いことから、子の進学に前向きな親が増えている」と分析している。

━━理工系は下積みや研究の期間が長いイメージだが、実際の環境はどうなのか?

「下積みの年月が長いだけではなく、実験をしていると1日中ずっと張り付かないといけないこともある。男社会の文化では段ボールの上に少し仮眠をとって、、また実験に戻るといった話もたくさんある。そうではなくて、男女ともに快適に実験できる環境も必要。とりわけ女性の場合には妊娠、出産もあるので、その点に配慮した学校・施設の作り方も考えていかないといけない」

 女性の研究者にはライフステージの変化に伴う空白期間をどう埋めるかという課題があり、孤独に陥りやすいという声も少なくない。

「理系特有の実験の働き方で、現場に出られる人はずっとできるが、体調面で一度離脱せざるを得ないとき、それが自分に不利益にならないかというところがある。現場に縛られるという観点から、女性研究者、あるいは学生の生活の仕方を考えていかないといけない」

━━今、理工系でも情報系のニーズの高まりにより学び方に広がりも―

「理系は男社会で小難しいという考え方ではなく、学部間も繋がって、学際的な研究のあり方がすごく重視されている。研究だけでなく、実際の生活、様々な企業と連携をどう作っていくかを含めて、みんながどう繋がっていくのかが大事。そういった意味でも、単に従来の理系イコール実験のようなイメージではなく、情報系を含めて広く理系の学問を捉えてもらえたら嬉しい。文系は逆に女性が多くて男性が来れていないという現状もあるので、本当に皆がそれぞれやりたいことをやれるということが必要だと思う」

(『ABEMAヒルズ』より)

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