【写真・画像】車いす利用者の“映画館の対応”めぐる投稿が議論に 「SNSで向けられる声は世の中と全く違うもの」過去に批判受けた当事者と考える“会話と手助け” 1枚目
【映像】映画館投稿に賛否…車いす利用者と議論
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 「久々に悔しい気持ちになった」という、車いすインフルエンサーの投稿が物議となっている。

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「見終わった後急に支配人みたいな人が来て、『この劇場はご覧の通り段差があって危なくて、お手伝いできるスタッフもそこまで時間があるわけではないので、今後はこの劇場以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思うのですがいいでしょうか。』って言われてすごい悲しかった」

 投稿者の中嶋涼子氏が利用した映画館は、4段の段差がある席で、これまでもスタッフの助けを借りて、3回以上利用してきたという。しかし入場を遠慮するよう伝えられ、「なんでいきなりダメになるんだろう! 悲しさを通り越して今は行き場のない怒りに変わってきた」と訴えた。この投稿が瞬く間に拡散され、運営会社が「不適切な対応だった」と謝罪文を出した。

 中嶋氏の投稿には、同調する声がある一方で、困惑の声も。『ABEMA Prime』では、車いすユーザーをまじえて、SNSでの発信や会話、手助けのあり方を考えた。

■「SNSでは私が中嶋さんだと勘違いする人も」

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 車いす生活を発信するYouTuberの渋谷真子氏は、「『車いす席があるほうを使ってください』ではなく、なぜ『もう来ないでください』という言い方なのか疑問。そこの部分が気になった」と映画館側の対応を指摘する。

 グラフィックデザイナーでYouTubeでも発信する、車いすギャルのさしみちゃんは、「『お互い気持ちよくない』という言い方は問題があった。料金以上の要求ではあるが、『もう来ないで』ではなく『今後どうするか検討したい』のような言い方があったのでは」と語る。一方で、「『スタッフの負担が大きすぎる』という意見は、そうだと思う。専門知識のないアルバイトに、車いすごと担いでもらうのは難しい」。

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 こうした投稿による影響について、渋谷氏は「障害者だけでなく、1人の存在がみんなのイメージになる。自分もそう思われているかもしれないと、今日はいつもより大きめに『ありがとうございます』と言ってみた。SNSでは私が中嶋さんだと勘違いする人もいた」。その一方で「街中で手伝って欲しいと声をかけると、断る人はいない。SNSの中と、実際の世の中は全く違う」と語った。

■批判受けた経験から「伝え方は大事」「“車いすの人”ではなく“その人”の話にすべき」

 2人とも、車いすをめぐるSNS投稿で批判を浴びた経験がある。渋谷氏は永田町駅にエレベーターがなく、駅員が昇降機の操作に慣れていないなどの状況をYouTubeに投稿。さしみちゃんは駅エレベーターの順番待ちで抜かされ続けて乗れない動画を「車いす優先」とXアカウントに投稿し、どちらも注目された。

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 渋谷氏は当時を「感情論で発信して、相手方の気持ちを考えなかった」と振り返る。その経験から、中嶋氏の投稿は「言い方が間違っていた。全否定でなく、改善案を示せればよかった」と評価する。「伝え方は大事だと学んだ。数日置いて書くとか、読者がどう思うか考えるようになって、批判はあまりなくなった」。

 さしみちゃんは「障害者に対する解像度が低すぎる。車いすユーザーには横柄な人も、気を遣う人もいるが、ひとくくりに『わがままだ』。“車いすの人”ではなく“その人”の態度や発信が問題だと捉えないと、議論が先に進まない」と分析する。「自分も感情的な発信をしたが、炎上だけで社会は改善しない。署名活動とか具体的なアクションにつなげないと、主張が正しくても、世の中には刺さらない」。

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 NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は、2人の意見を聞いて「マイノリティーとされている人たちが冷静さを求められるのは悲しい。つらい思いをさせる社会の側がおかしい」と語る。「障害者にも性格が悪い人も、浮気する人もいるが、みんな一緒。社会構造からヘイトが生まれる。当事者は問題解決のために前へ進むが、その苦しさを一部の人に背負わせるのは残酷。本来は仕組みで共有するべきだ」とした。

■必要な手助けは、「合理的配慮の提供」義務化で変わる?

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 映画館では、どのように配慮すればいいのか。渋谷氏は「車いす席はスクリーンから近く、目線を上げないといけないのがしんどい。友達がいいと言ってくれれば、お姫様抱っこしてもらって、一般席まで連れていってもらう」という。

 さしみちゃんは「脊髄に問題があり、首を真上に90分間見続けるのは厳しい。ゆっくりなら歩けるので、1人で杖や手すりで一般席へ行く。今回のことで『介助者なしで見ちゃダメ』などの対応に発展しないことを祈る」と心配する。

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 実際の現場では、どこまで介助できるのだろうか。介護士で「しんみケアーセンター」の介護タクシードライバーでもある八谷嘉成氏は、「高齢者なら軽い人が多いが、中には100キロぐらいの人もいる。お願いされたときに、できるかどうかの判断は難しく、相談したり、本人の判断を仰いだりする」。介助のプロでも判断に迷う場面があるため、「介助経験のない人にとっては、やはり怖いと思う。助けたい気持ちだけは、互いが伝えられないと、いい気持ちにならない。知識がなくケガしてしまうと危ない」と懸念を示した。

 2016年に施行された障害者差別解消法では、障害を理由とする差別の解消を推進して、全国民が共生する社会の実現を目指している。2021年改正では、事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化され、今年4月に施行される。

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 法整備が進む一方で、大空氏は「こういう場合、どういう対応をするか。映画館や電車など、事業者が事例を積み上げて、なんなら裁判も起こしていいと思う。4月から1つ前進するととらえていいのでは」と話す。

 さしみちゃんは「合理的配慮の義務化に『障害者の言うことを何でも聞かなきゃいけないのか』という誤解があるが、一番大事なのは“対話”。無理なことは理由とともに断るべきだ。車いすを持ってもらう時、“ここを持ってもらえたら安定します”というのは当事者が伝えるべきこと。今回の件も当事者同士の対話が行われていないのが大きかったのではないか」と提言した。(『ABEMA Prime』より)

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