日本銀行が19日、マイナス金利の解除を決めた。大規模な緩和政策から転換、金利の引き上げは17年ぶりのことだ。
第2次安倍政権が推し進めたアベノミクス。大胆な金融政策がスタート、2016年に導入したのがマイナス金利だった。日銀に預ける預金金利をマイナスにすることで、銀行が民間に資金を回すよう促す狙いがあり、経済活性化を目指した。
解除の理由について日銀・植田総裁は「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定の目標が持続的安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した」と説明。この発表を受け、円相場は一時1円ほどの円安が進んだ。
このまま円安は加速し続けるのか。解除のタイミングは今だったのか。『ABEMA Prime』で専門家とともに考えた。
■異次元の金融緩和なぜ今決別?
今回の決定については前打ち報道が出ていた。経済評論家で日本維新の会の藤巻健史参議院議員は「日銀がリークして、市場がどう反応するかをチェックしたのだろう」と推測。
エコノミストのエミン・ユルマズ氏は「黒田前総裁はサプライズでバズーカを打つのが好きだったが、植田総裁はかなりビビリ。情報を小出しにして、発表した時には材料が出尽くしている」との見方を示す。
政策転換について、藤巻氏は「全然引き締めではない!お金をばら撒き続けるという決定」と厳しい評価だ。「YCC(イールドカーブ・コントロール)の廃止といっても、お金をばら撒き続ける方向は変わらない。実質は空鉄砲だ」。
さらに、日銀は何もできない状態だと指摘。「日銀が操作する政策金利は今マイナス0.1%で、銀行間の実際の取引はマイナス0.003%。これを0にしたところで何も変わらない。さらに、日銀が取引先の銀行から受け入れている当座預金があるが、この金利が0.1%上がると5000億円を銀行に支払わなくてはならない。たった0.1%で、だ。日銀の年間収入約2兆1000億円のうち、金利収入は1兆1000億円ぐらいなので、金利がもっと上がれば損を垂れ流す。債務超過になったらおしまいで、そういう財務状態であることを認識しなくてはいけない」とした。
一方、「金融緩和終了は遅すぎ!利上げ幅小さすぎ」と評するエミン氏は、「日本のインフレ率が2%を超えたのは随分前。今のタイミングで確信を得たという根拠に意味はなく、本当は金融緩和を維持したかったはずだ。しかし、アメリカ経済が崩れて日本は利上げをせずに済むと思っていたら、アメリカが意外に強い。これが日銀にとってはサプライズで、利上げせざるを得なかったのだろう」と考察する。
通常、利上げをすれば円高に進むとされるが、なぜ円安に動いたのか。「実質金利が大きくマイナスだからだ。これは名目金利からインフレ率を引いたもの。ある銀行の金利が5%、もう片方が0%で、どちらも同じく3%の手数料を取るなら、5%の方に預ける。その要領でドルが上がり、円が下がっている」と答えた。
■円安はどこまで進む? 戦略は“ドルを稼ぐ”?
エミン氏は「リスクオフがなければ4月以降160円、FRBの利下げがなければ年末170円台もある」と円安進行の可能性を指摘する。
「輸送用機器や精密機械などの輸出関連セクターはものすごく円安の恩恵を受けているが、内需は傷んでいる。日本の輸出依存度は15%、つまり内需主導型の経済なので、これなしではダメだ。また、国民が感じているインフレ率は16%で、5%賃上げしたところで消費しないので、同じだけ上げないといけない。しかし、それを続けていくともっとインフレになり、株高も崩れてくるだろう」
一方で藤巻氏は、1ドル=500円になるハイパーインフレを懸念する。
「日本のGDPは40年間で世界ダントツのビリ成長。そのため、円がこれからも弱くなるというのはある意味で常識だ。通貨が国力を反映するのは、中央銀行が健全だという前提での話。今、日銀の財務がめちゃくちゃな状況にある。破綻してしまえば信用を失い、通貨は紙くずになる。1ドル500円は通過点だ」
これを受けエミン氏は「1ドル=200~300円台の時もあったが、今の価値は1ドル=500円を超えたような感覚だ。ただ、日銀はもっとフレキシブルに動けるし、破綻するとも思っていない。おそらく国策として円安を推したいのだろうが、それは間違っている。昔と違って労働力がない中で、海外に出稼ぎに行く人が増えているのは本末転倒だ。せめて1ドル=130円ぐらいでキープできるように通貨防衛をやるべき。ファンダメンタルで解決できないのであれば、買い抜いて投機筋を潰しにいけばいい」との考えを述べた。
では、円安時代に個人ができる処世術とは。藤巻氏は「円安によって損失が出るなら、プラスになったりヘッジになるものを得ればいい。それはドルを買うことだ」「強い国のリスク資産、株や不動産を買うべき。また、海外で稼ぐことも重要だ。弱い国にいたら経済活動は停滞する」と主張する。
エミン氏は「ドルは買ってはいけない。基本的には株や不動産、金といった現物資産で運用し、防衛していくしかない。1ドル=150円から米株を買うのはリスキーだし、キャリートレードの巻き戻しで急速な円高になることもありうる。ただ、円安が長期化することに備えて、外貨を稼ぐ方法は探すべきだ」とした。(『ABEMA Prime』より)
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