強力な二枚看板の躍動で、チーム中部が決勝進出を決めた。日本全国を8つのブロックに分けた団体戦で行われる「ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治」準決勝第1試合、関東A 対 中部が3月30日に放送された。杉本昌隆八段(55)率いるチーム中部は、豊島将之九段(33)のスタートダッシュと藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖、21)の決定力により5勝1敗で勝利。盤石の試合運びで中部が決勝進出を決めた。
先陣を切ったのは豊島九段。予選リーグでは控え選手として2局を指したのみだったが、準決勝では先発一番手として第1局からの出陣となった。関東A・近藤誠也七段(27)との初戦では、相掛かりの出だしから緩急自在の指し回しを見せた豊島九段が圧倒。近藤七段の粘りを断ち切り、127手で快勝。その勝ちっぷりは、作戦会議室の藤井竜王・名人からも「5連勝していただけることを期待しています!」と声が掛かるほどだった。
続く第2局に連投した豊島九段は、ABEMAトーナメント2023でチームメイトだった木村一基九段(50)と激突。矢倉の一局では終始主導権を握っていたものの、木村九段が驚異の粘りで追い上げた。しかし、最後は残り5秒で飛車を捨てて金を打つ妙手で白星をもぎ取ることに成功。「たまたまピッタリ詰む形になったので良かった」とホッとした表情で勝利を喜んだ。さらに、第3局では石井健太郎七段(31)の四間飛車にミレニアムで対抗。石井七段は積極的な駒運びを見せたが、豊島九段が落ち着いた対応を見せ、着実に寄せ切って勝利を飾った。「3連勝は自分でも意外」と語った豊島九段だったが、チーム関東Aの先発棋士3人を次々に破り、あっという間に白星を積み上げてみせた。
しかし、関東Aも簡単に倒れるわけにはいかない。監督の羽生善治九段(53)は棋士チェンジで佐々木勇気八段(29)を投入。波に乗る豊島九段との第4局へ送り込んだ。この一戦は、気合十分の佐々木八段が角換わりを打診するも、豊島九段が拒否。雁木模様の出だしとなったものの、激しい攻防戦の末に千日手が成立した。先後を入れ替えた指し直し局では、相掛かりから佐々木八段が攻勢に出て優位に。思い切りの良さが功を奏し、豊島九段の連勝ストップとチームに初勝利を持ち帰った。
手厚い布陣のチーム中部は1敗では慌てない。第5局では、二番手の藤井竜王・名人と佐々木八段のカードとなったが、八冠王得意の角換わり最新形の一局で▲7八への銀の打ち込みでペースを握ることに成功。危なげなく勝ち切り、チーム勝利に王手をかけた。
さらに第6局では、関東Aの棋士チェンジで羽生監督が登場し、“藤井VS羽生”のゴールデンカードが実現した。ここでも角換わりが志向されると、互いの秘策をぶつけ合うように激戦へと展開。藤井竜王・名人は「途中からは形勢が良かったと思いますが、受けに回る展開に少し焦ったところもあった」と語ったが、羽生九段の猛攻を受け切って勝負を決めた。
この結果、チーム中部は5勝1敗で勝利。藤井竜王・名人は「豊島九段に3連勝していただいて、私自身も気持ちが軽くなってのびのびと指すことができた。これで決勝に進むことができたので、中部に日本一を持ってこられるように頑張りたい」と笑顔で振り返った。メンバー選出、先発順の采配を的中させた監督の杉本八段もニンマリ。「豊島九段がリードを広げて藤井竜王・名人が締めるという、チーム中部にとって最高の形の勝利だったと思う」と両名の健闘を称えていた。
決勝戦では、渡辺明九段(39)率いる関東B 対 山崎隆之八段(43)のチーム中国・四国の勝者と対戦。中部監督の杉本八段は「まだ対戦相手はわかりませんが、チーム一丸となって良い将棋をお見せしたいと思います」と意気込みを語った。
◆ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治 全国を8ブロックに分けた「地域チーム」によって競う団体戦。試合には監督とチームから選ばれた出場登録棋士の4人の計5人が参加可能。試合は5本先取の九番勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールール。試合は1試合以上出場する「先発棋士」と、チームが3敗してから途中交代できる「控え棋士」に分かれ、勝った棋士は次局にも出場する。先発棋士は1人目から順に3人目まで出場し、また1人目に戻る。途中交代し試合を離れた棋士の再出場は不可。大会は2つの予選リーグに4チームずつ分かれ、変則トーナメントで2勝すると本戦進出。ベスト4となる本戦は通常のトーナメント戦。
(ABEMA/将棋チャンネルより)