ある大手企業の社内運動会に「大人になっても運動会?」「こんな時代に集団で何をするのか」といった反応が相次いでいる。個人を尊重する時代に「社員行事」などの集団行動をする意味に、疑問を持つ人も少なくない。その一方で、社員同士の交流イベントを後押しする企業も。『ABEMA Prime』では、日本人らしい集団行動の是非について、当事者の意見を聞いた。
■頻繁な社内行事「コミュニケーションコストがすごく浮く」
表参道のおしゃれな会場に社員ほぼ全員を集めて、表彰式をしているベンチャー企業がある。社員同士が和気あいあいと食事しているが、なぜ仕事以外で行事を行うのか。その会社「バニッシュ・スタンダード」の小野里寧晃CEOに話を聞いた。
バニッシュ・スタンダードでは、事業報告などの全社共有会や、外部ゲストを招待する「Vワーク」を月1回行い、また年1回は表彰式や2次会もある「半期会」や「決起会」を実施。他にも忘年会や新年会、ボウリング大会、運動会などを社内行事として行っている。
背景には、同社が「新しいものを創造する事業」だということがある。小野里氏は「裏も表もなく、腹を割って話すことで、コミュニケーションコストがすごく浮く。就業時間内にイベントを作り、参加を呼びかける。リモートで参加しても、参加しなくても平気な雰囲気にしている」。
参加費は「全部会社持ち」で、社員の負担はない。「みんな仲良く、楽しくできる環境づくりに投資している。会社よりも部活やサークルに近く、フランクな“友達社長”。サークルの部長のような立ち位置で、みんなからもツッコまれる」。
■強制の空気、業務時間外や休日の実施
コロナ禍で激減した“集団での交流”が復活しつつあるなか、受け入れられないという人もいる。一般企業に勤めて8年目のみおさんも、仕事以外で集まるイベントが悩みの種だ。「会場の視察から下準備、片付けまで大変だった」。
みおさんが務める会社では、約1000人の社員を対象に、運動会や旅行などが行われている。上司からの圧力など「参加しなければいけない空気」があり、若手社員が企画・視察・運営を行うこと、有休取得日に開催されることなどが悩みだ。
自身は「部活やサークル経験があり、イベントごと自体への苦手意識は少ない」ものの、「イベント自体が苦手ではなく、“基本全員参加”が暗黙のルールなのが苦手。休日開催や、平日でも有休消化。業務時間外に行われることが多く、ポジティブになれない」と嘆く。
日本人に根強い同調圧力のメカニズムを研究する同志社大学の太田肇教授は、「“対等”と“強制でない自由参加”がキーワード」と指摘する。「日本では、暗黙のうちに職場の空気や序列を持ち込む。とくに若い女性は『あまり参加したくない』という気持ちになる」。
■専用の役員も 一方で“同調圧力”に負の側面?
コロナ禍以前·以後で、イベントに対する考え方にも変化があるようだ。太田教授は「コロナ禍以前は“参加したくない人”も多かったが、コロナで行事に参加できなかった欲求不満から、最近はむしろ積極的に“参加したい”、あるいは若手中心で自ら企画する動きも出ている」と分析する。
17年の専業主婦を経て外資系企業で働く薄井シンシア氏は、「外資には、社員に会社を好きになってもらうのが仕事の“エンゲージメントオフィサー”がいる」と説明する。「リモートで完結する仕事も増えるなか、逆にイベントのために出社してもいい。そこで人のつながりを作ることが大きな目的。イベントでは上も下もない、フラットな関係を築ける」。
小野里氏の会社では、専用の役員として「チーフ·カルチャー·オフィサー」を置いている。「プロフェッショナルとして、みんなを楽しませる企画を“投資”として行う。イベント後には全員から匿名アンケートを取り、そこからのフィードバックで改善しまくる」という。
Sirabeeの調査によると、「空気を読まないといけない」と思う人々は、年代が上がるにつれて高くなる。20代が男性58.6%、女性73.7%なのに対し、60代では男性80.4%、女性83.0%と、いずれも8割超えとなっている。
太田教授は「集団圧力は“いい面”と“そうでない面”がある」といい、「決まったものを効率的に作る工業社会の時代は、教育や職場も『みんな一緒に』が望ましかった。しかし時代が変わり、そうした仕事の多くが自動化されると、人と違った意見や考え方が求められる。集団行動の負の面が大きくなってきた」とした。(『ABEMA Prime』より)
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