「ホームレスは生活保護では助けられない」。愛知県安城市で2022年11月、生活保護申請のため市役所を訪れた日系ブラジル人女性に、市職員が発した言葉だ。女性には自宅があったにもかかわらず、職員は申請を拒否。後に市は誤りを認めて、申請を受け入れ、第三者委員会による検討で再発防止が求められた。
【映像】生活保護を受給する“元ホームレス”の藪。さん(32)
そもそも厚労省の通知では、居住地がなくても生活保護が受けられると明記されている。しかし、財政負担軽減のため、行政が生活保護を申請させないための“水際作戦”が行われていることも度々問題視される。一方で、ホームレスの中には現状維持を求める人も多く、どこまで救うべきかとの疑問も浮かぶ。『ABEMA Prime』では、当事者と専門家とともに、権利と支援のあり方を考えた。
■元ホームレス「生活保護申請に関する知識がなかった」
ホームレスを生み出さない社会を目指して支援活動を行うNPO法人Homedoor(ホームドア)事務局長の松本浩美氏は、「生活保護は本来、誰でも申請する権利がある。基本的に資産や収入が最低生活費を下回っている場合は、申請を認めなければならない」と語る。申請にあたっては「現在地保護の原則」がある。「住民票が別の市区町村に存在していても、今いる市区町村で申請できる」。
生活保護を受けている藪。さん(32)は、「『生活保護を申請したい』とはっきり言って、すんなり通った。水際作戦的なものはなかった」という。高校卒業後、短大へ行くも、双極性障害で中退。実家に帰るがアルバイト生活も続かず、引きこもりになり、ツイキャスやニコ生でライブ配信を開始した。
2022年12月に東京での生活を決意して、ホームレスへ。代々木公園や甲州街道を根城に、ライブ配信で“スパ茶(スーパーチャット)”などを受けていたが、今年3月に生活保護の受給を始めた。「配信リスナーから知識をもらいながら、申請は1人で行った。手持ちの現金やキャッシュカードのコピーを取られ、調べられる。親に連絡が行くことで、『やめとこう』という人は、結構いるのではないか」と推察した。
松本氏は「3親等以内であれば、基本的に連絡が行く」と説明するが、例外として「10年連絡を取っていない、DVを受けているなどの事情がある場合には、家族に扶養できるか確認する“扶養照会”が撤廃される」。扶養照会の際に、親が「扶養できる」と役所に返答した場合には「『後はそちらでやってください』となり、生活保護が利用できないのが課題となっている」と呼びかけた。
ホームレス経験のある作家の赤松利市氏は「申請の知識はなかった」と振り返る。58歳から約4年間、路上生活をしていたが、当時は行政からの支援がなく、受けようとしても住所がないために支援を受けられなかった。
松本氏は「本当は皆が知識を持っている方がいい」としつつも、「こんな状況では受給できないと思う人が非常に多く、諦めてしまっているのも課題だ」と指摘する。
■路上生活の権利どう考える?排除を目指す〝ゼロ作戦〟も
ホームレス生活者について、松本氏は「ゼロになる必要はない」との立場だ。『今のままがいい』と思う人の権利を否定するつもりはないが、なりたくないのに、なっている人がいる状態は是正したい」。昨今では、横たわりにくい“排除ベンチ”の設置も話題だ。「排除ではなく、どうすれば生活しやすくなるか、排除せずに生活できるのかを一緒に考えたい」とした。
その上で、見かけた際の行動に疑問を投げかける。「多くの人は通り過ぎたり、嫌そうな顔をしたりするが、それ自体があまり良くない。 “あまり見たくないもの”とフタをする現状から変えていきたい。『こんにちは』と声をかけながら、生活を把握できれば一番いい」。その上で大切なのが「そこに人が居るという認識」だ。「夜回り活動をしていると、通行人が白い目で見てくる。それが当事者たちが普段受けている目だと思う」と主張する。
藪。さんも「水をかけられたり、ゴミ捨てられたり、モノを盗まれたりは、割とよくあった」と実体験を語る。「公共スペースで生活していることには、後ろめたさもある。ちょっと借りて、寝させてもらっていますという感覚。荷物も広げず、まわりの邪魔にならないようにしている」。
一度ホームレス生活になると、復帰までは「時間がかかる人もいる」と、松本氏は説明する。「8年かかって、家を借りた人がいる。自分の体調や家族の状況が変化して、ようやく借りられた。『明日から借りよう』となる人ばかりではない。その理由には『新しいことをする気力がわかない』『病気で何もできない』などがあり、精神的な疾患を抱えている方も多い」。
ホームレスと生活保護、どちらも経験した藪。さんには、どちらが合っていたのか。「両方良かった。どちらかを選べないからこそ、生活保護受給者と路上生活者の両方がいるのではないか」と私見を述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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