8日に厚生労働省が発表した2月の毎月勤労統計調査によると、労働者が受け取った現金給与は平均28万2265円で「名目賃金」は26カ月連続増加した。その一方で物価の変動を反映させた「実質賃金」は23カ月連続のマイナスに。リーマン・ショックなどで景気が低迷した2007年から2009年当時に並ぶ、過去最長となっている。
【映像】実質賃金がプラスになると住宅ローン金利上昇の可能性も?
実質賃金がプラスに転じるのはいつなのか? 経済アナリストの森永康平氏に聞いた。
━━春闘では満額回答も続出したが、実質賃金に反映されてくるのはいつなのか?
「今年の春闘は大手を中心に強い結果になったが、一般的には4月から給与に反映される。とはいえ、会社によっては例えば5月に2カ月分の昇給分をのせることもあるため、全員が春闘による給与アップを受け終わるのは5月、6月頃になるだろう」
━━実質賃金がプラスに転じるのはいつなのか?
「名目賃金はアップしても、当然、実質賃金は昇給以上に物価が上がってしまうとマイナスになる。とはいえ、現在日本の物価は上昇率が鈍化してきている。これは世界的に見ても同じで、アメリカでも一時は9%を超えるインフレ率だったが足元では3%くらいまで落ち着いている。もしこのまま日本の物価上昇率が鈍化し続ければ、今年の秋前後には実質賃金がプラスに転換する可能性はある」
━━実質賃金がプラスに転じればようやく物価高に苦しむ状況は落ち着くのか?
「個人的に懸念しているのは、実質賃金がプラスになるとそれをきっかけに日銀が追加の利上げをする可能性がある。そうすると、住宅ローンの返済額などが増えるため、実質賃金がプラスになったが、それ以上の負担がローン返済などで生じ、結果的に消費はそこまで伸びないこともあり得る」
━━国民が生活の中で豊かになったと実感できることを第一に考えた時に、どんな政策が求められるか?
「実質賃金をプラスにする方法は2つしかない。1つは賃金を上げることだが、これは政府にできることではなく、企業がやること。国は企業が賃上げできるようなマクロ経済の環境を作っていく、というのが取り得る政策の1つ。それができているのかといえば、現状の財政側で見ると、子育て支援金制度で負担を増やしたり、日銀も追加の利上げをするかもしれないという状況を見ると難しそうだ」
「もう1つは物価を抑えること。1つのやり方としてはエネルギー・食料に対する投資をどれだけやるかだ。今日本で起きているインフレは、国外で物価が高騰して、日本はエネルギーと食料を輸入しないといけない国になっているので、外のインフレを輸入してしまっている。そのため日本が戦争をしているわけではなくても、インフレになってしまう。輸入に頼らなくてもよい国にするためには、本当に長期間になるが、日本のエネルギーや食料の供給体制に対する大きな投資をしていかなければならない。時間がかかる政策の場合、現政権が決定しても、結果が出る頃には首相は代わっている。政権はどうしても目先のウケの良さそうな政策、例えば直近では半導体政策やAIなど目立つものを優先する。これらは結果的に膨大な電力を使うことになるので、同時にエネルギー供給を整備しておかないと、派手な政策をやって電気代が高くなって国民が苦しむことになりかねない。在任期間中に結果が出なかったとしても、岸田総理には『こうやってエネルギー供給率を上げるんだ。そのためにはこういう戦略を立てるんだ』と強く打ち出してほしい。現状は、一部の人や産業だけが儲かるような政策がどうしても優先されてしまい、国民の多くが広く恩恵を受けるような政策がなかなか為されていないと感じる」
(『ABEMAヒルズ』より)
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