4月25日、中国が独自で運用を進める宇宙ステーションに向けて3人の宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船「神舟18号」が打ち上げられた。
打ち上げに密着したANN中国総局の冨坂範明総局長に現場の様子や中国が進める宇宙開発について聞いた。
━━「神舟18号」打ち上げを現地で取材した感想は?
「やはり中国にとって、有人宇宙飛行船の打ち上げというのは『国威発揚』にとって重要なイベントだと実感した。打ち上げ3時間前には『歌唱祖国』という愛国の歌を歌って宇宙飛行士を送り出す。これは、『豊かで強くなる祖国を歌おう』という趣旨の歌詞の歌でまさに、『宇宙強国』となった中国をアピールする歌だ」
━━打ち上げられた「神舟18号」はどのような状況なのか?
「宇宙ステーション『天宮』にドッキングし、いまは『天宮』で3人の宇宙飛行士が生活している。半年前から宇宙ステーションで暮らしてきた『神舟17号』のクルー3人は4月30日に地球へと帰ってきた。このように、中国は宇宙ステーションに常時3人の宇宙飛行士を送り込んでいる状況で、高い技術力と豊富な人材がいることがわかる」
━━「神舟18号」ではどのような実験が行われる?
「発射前日の会見で発表されたのが、『ゼブラフィッシュという熱帯魚と藻』を使った実験だ。宇宙ステーションの中で、水の中の生態系を作ろうという実験で、中国としては初となる。将来宇宙空間で魚がどのように育つかを見る実験で、宇宙空間で養殖などを行う際の参考となるのでは」
━━アメリカや日本が参加している「国際宇宙ステーション(ISS)」との違いは?
「国際宇宙ステーションの運用が2030年末までとされるのに対し、『天宮』はその後も運用を続ける予定だ。国際宇宙ステーションには、外国籍の宇宙飛行士のほか、旅行客を招待することも発表された。本格運用を進めていく中で、中国の存在感がますます増す可能性がある」
━━なぜ中国製(メイドインチャイナ)にこだわる?
「基本的に中国での宇宙開発は国有企業が行なっている。背景にはアメリカ側が中国との協力を警戒し、NASAと中国との協力を禁止したことがある。そういった状況の中、中国は独自の宇宙ステーション建設を計画し、現時点までうまく運用している。習近平政権が掲げる『自立自強』路線にも合致しているので、独自路線を今後も続けていくだろう」
━━宇宙ステーション以外に、今後の中国の宇宙開発は?
「宇宙ステーションの次は、月への有人飛行、さらに火星への有人飛行を目指している。月に関しては、『嫦娥(じょうが)』と呼ばれる探査機が月の裏側に着陸済。2030年までに有人月面着陸を目指している。また、火星についても『祝融』と呼ばれる探査機が2021年に着陸済み。火星にたどり着いた国はアメリカと中国だけで、米中でし烈な宇宙開発の争いをしているといえる。月に関しては、具体的な成果も出ており、『月の地形図』を公開。こちらは一般販売されているが16万円と高額だ」
━━中国はなぜ宇宙開発に力をいれている?
「中国としては、将来的には月にしても、火星にしても、人を送り込んで開発したい。宇宙ステーションの実験も、月面基地を見据えたもの。月や火星にどんな資源がどこにあるか、まずは探る必要がある。そのためには、他国より早くたどり着いたほうが有利ということもあり、宇宙開発を急いでいるのでは」
━━アメリカと中国の宇宙開発のスタイルの違いは?
「アメリカはイーロン・マスク氏が率いる『スペースX』など、民間企業の力を生かした宇宙開発を進めているのに対し、中国は、やはり党や軍が主導して宇宙開発を行っている印象。今回、発射センターまで行く道の途中でも、『軍は民を愛し、民は軍を擁護する』という民間と軍との協力を強調したスローガンが記された看板を見た。優秀な技術や人材も軍に取り入れつつ、一気に宇宙開発を進めている形だ」
━━軍主導ということで、宇宙の軍事利用の懸念はないか?
「取材の中で、中国の宇宙飛行士第一号となった、レジェンド宇宙飛行士の楊利偉(ヤン・リーウェイ)氏は『有人飛行は競争関係ではなく協力関係だ。より多くの日本の科学機構とも、実質的な協力をしたい』と、非常に友好的・開放的な姿勢を示している。一方、これまでも中国は、国際社会の反対を押し切って衛星の破壊実験などを行ってきた例もある。楊氏の言っていることが本当に守られるのか、今後も中国の宇宙開発のあり様をしっかり見守っていく必要がある」