しおりさん(27)は、工事やバイクなどの予知できない音に苦しんでいる。「大きい音に焦らされるような、音の圧で徐々に迫られているような感じで、とても苦手」と語る彼女は、「聴覚過敏」に悩まされている。
大きな音や、他の人が気にしないような特定の音などに、過敏に反応したり不安を感じたりする状態を指す。症状のレベルは人により、中には日常生活に支障をきたすこともある。しおりさんが聴覚過敏になったのは、8年前にパニック発作を起こしたことがきっかけだった。
「人の話し声やバイクの音で、漠然とした不安感に駆られる。パニックを起こすので、聴覚過敏なのかなと」。病気やストレスなど、後天的に誰でも発症する可能性がある。音が倍増して聞こえるため、ひどい時は発作が起こることも。雑音を低減・緩和してくれるため、ノイズキャンセリングイヤホンが手放せないという。
しおりさんは、「他の人の2倍、3倍の音に聞こえる」と語る。「私が聞いてはいけない話も、全部入ってきてしまう。知りたくない情報も入るので、つらいところがある」。
聴覚過敏の生きづらさとしては、外出に制限がかかることや、イヤホン装着が許される職場が少ないこと、人とのコミュニケーションにおいて、イヤホンの装着が誤解を招くことなどがある。イヤホンによって、「音楽を聴いていて、コミュニケーションをとる気がない」や「行儀が悪い」と感じさせる可能性があるという。
聴覚過敏の人に出会った時、どのような配慮があれば望ましいのか。「友達とカフェに入ったときに、『ここの音は大丈夫?』と声をかけてくれたのが、うれしかった」。日常会話では、「やさしめの口調や、音量を下げてもらう配慮は助かる」そうだ。
■「慢性期になるともはや耳だけの問題ではなくなる」 治療法は
聴覚過敏は、どのようなメカニズムで起きるのか。川越耳科学クリニックの坂田英明院長は、「耳は、空気中の振動を電気信号に変える役割を持つ」と説明する。「電気信号が脳へ行く間に、喜びや不安をつかさどる“扁桃体”を通る。聴覚過敏は耳から始まるが、脳の過敏とも言える。脳外科では“脳過敏症候群”と呼び、我々は“耳鳴り・頭鳴り”と呼んでいる」。初期段階では「耳だけが問題なことが多い」が、「1カ月以上たって慢性期になると、もはや耳だけの問題ではなくなる」。
聴覚過敏の症状は「誰でもなり得る」ものだ。「自閉スペクトラムの子どもたちは『聞きたくない』と、耳の中に小石やビー玉を入れてしまうこともあるが、それは『外界とシャットアウトしたい』というサインでもある」。同じパニックを原因としていても、「こういう状況が起きるとパニックになる人と、なんとなくなる人がいる。慢性化すると厄介だ」。
耳栓などによる予防のほか、治療法はあるのか。坂田氏は「音響療法」の手法を取り入れている。「特徴をうまくコントロールして、音響を使って過敏を取る。音を遮断して、なるべく聞かないようにするのが今のスタンダードではあるが、私たちは音の環境に順応させる手段をとっている」。聴覚過敏の判定には「どの周波数帯に異常を感じるかの検査がある。いくつか幅がある人もいれば、ピンポイントの人もいる」ということだ。
治療にはどの程度の時間を要するか。「アレルギーの有無や便秘、睡眠など、患者の背景にもよるが、軽いと3カ月程度で、重いと半年や1年スパン」とするが、「諦めず続ければ必ず改善の道はある」と語った。(『ABEMA Prime』より)
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