有権者が10億人にものぼる、世界最大規模と言われているインドの総選挙。街中で人々が付けている仮面の人物が、今回ひと際注目を集めているモディ首相。3期目の続投を目指しており、Xのフォロワーは9800万人超えというすさまじい人気ぶりだ。
開票は4日の予定だが、現地の出口調査では、モディ首相率いる与党連合が過半数の議席を獲得する勢いだと報道されている。投票は4月中旬から6月1日までの約1カ月半にもおよび、100万カ所の投票所で7回に分けて実施された。
また特徴の1つが、投票した人々の指に塗られたインク。投票済みの目印で、これを見せるとレストランの料理やチャイのサービスが受けられるとあって、多くの国民が投票所に詰めかけた。
世界最大の民主主義国の選挙とモディ首相の人気について、『ABEMA Prime』で迫った。
■選挙は「お祭り」 モディ首相人気の背景
IIMインド管理大学「公共政策センター」フェローの中川コージ氏は今回の選挙について、「投票期間の1カ月半盛り上がっていた。パレードが特徴的で、国民にとってはフェスや、いわゆる推し活が繰り広げられているイメージだ」と説明。
来日20年、インド工科大学卒・半導体企業社員のシバラム・プサパティ氏は「インドはまだ発展途上の国で、自分の国を良くしたいと、“私はあれをやる”“私はこれをやる”と宣言する人がいろいろ現れる。政治にあまりピュアではない印象もあるが、本当に良い人が出てくるのかヒーローのように待っている。そんな感じで楽しくやっているので、ある意味祭りだ」と話す。
モディ首相の人気の背景として、中川氏は「インドとヒンドゥー教ファーストであること」「党による戦略的な演出面もあり、宗教指導者に似たカリスマ性があること」、プサパティ氏は「心がピュアで誠実」「国のために働き尊敬」「独裁との批判は間違い」と評価する。
「前回までの選挙だと実績などをプッシュしていたが、今回は“モディ首相がすごい”という個人崇拝に傾いた感じはある。その良し悪しは別にして、党の意思決定として個人に魅力をつけるような戦略をとっていたと思う」(中川氏)
「彼は元々、ヨガや修行をしていたはずだが、スピリチュアルな面が強い。そのような人は普通、いろいろな人に攻められ、あまり長い間政治家でいられないが、彼が特殊なのは政党をゼロから育てたこと。その両面でバランスが取れていた」(プサパティ氏)
モディ政権では「ヒンドゥー至上主義」を推進。前政権時を腐敗政治として改革を実施したほか、「トイレ」の普及や公衆衛生の向上に努め、「メイク・イン・インディア」として製造業を強化したり、国内投資と企業誘致を促進してきた。
中川氏は「閣僚の腐敗が減ったり、経済成長のためのインフラ整備は確実にやってきていて、その辺りは成果として間違いなく評価できると思う。一方で、コミュナリズムと言われる少数派と多数派の対立を煽ることで、多数派のヒンドゥー教信者のほうを向いて少数派に不利な政策になっているという、アメリカ的な分断と対立の構造を生んでしまった部分はある」との見方を示した。
■モディ首相続投で独裁国家への懸念は?
モディ首相が3期続投し長期政権となることで、独裁国家となる懸念はないのか。今年3月、野党のデリー首都圏政府首相が酒類販売政策をめぐる汚職容疑で逮捕された際、「政治的動機に基づく逮捕」との主張にモディ首相側は「法執行部門が職務を適切に遂行した」と反論。同月、野党の国民会議派の銀行口座が凍結された際、「政治的な動機による措置」との主張には政治的な関与を否定した。
中川氏は、「BJP(与党・人民党)自体10年やっている中で、腐敗や世襲は明らかに出てきている。選挙の問題は政治資金だったり、期間中に日本の東京都知事にあたるデリー州首相がいきなり捕まってしまうような、釈放はされたもののそういうことはやっている。敵対するものに対して税務当局や国家権力を使うのは、民主主義の危機だと言われている」と指摘する。
一方、プサパティ氏は「このようにすごく強い人が出てくると、抵抗しなくなる。“彼は独裁者だ”と言われるのは当たり前のことだ」とした上で、“後継者”に言及。「BJPには仕組みがある。インド全体のボランティア活動をやっているRSS(民族奉仕団)、彼はそこの出だが、その団体が人をピックアップして、強いトップを育てている。モディ首相のような人は1人ではなく、たくさんいる」という。
これに中川氏は「モディ首相のようなカリスマが出てきてからの後継者問題は、今までに経験していないわけだ。そういった意味で、インドが新しい状況にあることを考えると、構造的に担保された話とは言えないと思う」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)
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