針と糸で紡ぎ出す美しい刺しゅう。その刺しゅうアートから社会問題を提起しているアーティストがいる。作品に込められた思いとは?
【映像】超絶細かいミシン針の動きに目が離せない…刺しゅうで作る1万円札(他の作品も)
目黒区美術館で6月9日まで行われていた刺しゅうの展覧会。夕焼けの情景や、一見ゴミと見まがうたばこや落ち葉も、すべて刺しゅうで作られている。なんとも繊細な作品を作り上げているのが、刺しゅうアーティストの青山悟さんだ。
男性が刺しゅうと聞くと意外に思う人も多いかもしれない。なぜこの世界に足を踏み入れたのか?
「大学時代にロンドンのゴールドスミス・カレッジというところでテキスタイルアート学科にいた。学生の9割は女性で、男性は僕ともう1人くらい。そこにミシンがあった。工業用ミシンでの刺繍は人気のない技法で、競争率が低いのでライバルがいないと思って始めた」(青山さん、以下同)
この日は、自身の展覧会の紹介記事の裏面に偶然掲載されていた「震災の記憶」にまつわる記事をテーマに選んで刺しゅうしていた。
青山さんは、様々な社会問題を刺しゅうの針のようにチクリと風刺した作品を作っている。例えばこの1万円札をかたどった刺しゅうの作品には大きな意味が込められている。
「刺しゅうにかかった時間を全部タイムカードに記録し、それを東京都の最低賃金とかけ合わせ、その労力と時間と最低賃金を合わせてジュラルミンケースに展示している。労働の価値、アートの価値、お金の価値という3つの価値を問う作品だ。6日間ほどかけてお札を作るためにだいたい6万円の労働力がかかる。ギャラリーに支払う分も考えると再生産費を得るためには2倍の12万円が必要であり、12万円で発売するところまでがコンセプト。だけど最低賃金ではやっていけない」
労働の対価について問いかけている作品であり、ブラックライトを当てると「見えざる者 消えゆく者に光を!」という文字が浮かび上がる仕掛けが施されている。他にも、近年世界で起こったデモ活動などの旗と青山さん自身の活動スローガン(アーティストの労力にもっと評価を)の旗を一緒にした作品など様々なものがある。
さらに、青山さん自身が刺しゅうを行っていることも一つのアンチテーゼになっていると言う。
「フェミニズムは女性がどう社会で自分の場所を見つけるかがテーマだが、それと同時に男性もいかに自分たちのジェンダーロールを変えるかがテーマだ。ミシンで刺しゅうをする男性は珍しいが、そこに意義を見出している」
賃金問題や性差別など様々な社会問題に切り込んでいる青山さん。なぜこうした問題を刺しゅうアートと共に発信しているのか?
「メッセージ性という意味で言うと、アート作品はその時代を記録するもの。必ずしもプロパガンダではない。強いメッセージを発するのではなく、アートには時代を記録する機能があり、そこに期待している。我々は忘れていくものなので、それを言葉や本、テレビとは違う形で記憶・記録していきたい」
山田進太郎D&I財団 COOであり、理系の領域に進む女子を増やす活動をしている石倉秀明氏は「青山さんはマイノリティ側だから『辞めよう』とか『違うかも』と思うのではなく、そこにいる自分の何が価値なのか、どういう意味があるのか、と自ら切り拓いていったことがすごいと思う。自分が好きなことややりたいことがあった時に、ジェンダーや他の人の意見、環境に関係なく自分がそれをやる意味を自分なりに考えて貫き通して仕事にし、アートで表現していることがかっこいい。『青山さんのような生き方っていいよね、というコンセンサスを社会に浸透させるにはどうしたらいいか』という議論は、ジェンダーバイアス撤廃への建設的なアプローチにつながるだろう」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)
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