【映像】「責任取るんですよね?」「医学生カノンさんは、大嘘つき」…女子医学生に寄せられた心ない声
大学生が接種しているのは、子宮頸がんや尖圭コンジローマなどの感染症を予防するHPVワクチン。動画を公開したのは、HPVワクチンに関する情報を発信する学生団体のVcanだ。
医学的根拠に基づいた情報を若者に向け発信するため、団体を創設したのが産婦人科医を志す滋賀医科大学 医学部医学科5年 中島花音さんだ。
「HPVワクチンをそもそも知らなかった人が多いと肌で感じている。自分の命を守る情報を知る機会がないままにされているのが、すごくもったいない」
Vcanは全国の高校や大学で出張授業を行っている。その中でもいま特に力を入れて伝えているのが「キャッチアップ接種」だ。
2013年4月、小学校6年生から高校1年生にあたる女子を対象に定期接種化されたHPVワクチンだが、副反応に関する報告や報道が相次ぎ、厚生労働省は個別通知で予防接種を勧める積極的な勧奨を開始からわずか2カ月で停止。
その後、専門家会議で「接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回る」と認められたことを踏まえ、2022年4月から積極的勧奨が再開された。
この積極的勧奨の停止によって生まれたのが、HPVワクチン接種の空白世代。厚労省は大幅に接種率が落ち込んだ世代に向け、公費での接種の機会を提供する「キャッチアップ接種」を推進しているが、大阪大学の上田豊講師は、「2022年度では数%、高くても10%程度にとどまってしまった」とキャッチアップ接種があまり進んでいない現状を嘆いた。
上田講師らが生まれ年度ごとに推計した初回接種率を見てみると、90年代生まれの対象者は、定期接種となる前の緊急促進事業でも公費で接種が行われたため5割から8割の接種率となっている。しかし、積極的勧奨が停止したときに接種時期を迎えた2000年度生まれ以降では、キャッチアップ接種を足しても1割から3割程度となっている。
キャッチアップ接種は来年3月で終了するため、6カ月にわたる接種をすべて公費で受けるためには、今年の9月末までに開始をしなければいけない。
接種が進まない要因について上田講師は「20歳前後の方が自分から健康情報をつかみにいくことが少ないという中において、『情報が届いていないこと』が一つの要因だ。もう一つは、ワクチンに対するネガティブな考えが出てきたためになかなか接種に踏み切れない、躊躇してしまう人が多いことも挙げられる」と分析。
HPVワクチンの空白世代だった医学部に在籍する中島さんも、定期接種の対象年齢では接種していなかった。医学部で正しい情報を知るまでは、副反応の報道などを見てワクチンに対する恐怖感があったと振り返る。
「リスクとベネフィットを比較した上でよく考えて、大学1年生のときに接種した。こういった原体験を話すと、いち医学生の言葉に対しても『こういう人もいるんだ』と話を聞いてくれる方も多い」
しかし、HPVワクチンに関する情報の発信に対して、SNSではこんな反応も…。
「副作用が出たらあなたが責任取るんですよね?」「医学生カノンさんは、大嘘つきなので信用しないように!」
中島さんや団体に対する攻撃。最初はショックを受けたというが、現在は1つの異なる意見として、俯瞰して受け止めていると語る。
「私たちの団体は『HPVワクチンを打ちましょう』と言いたいのではない。『打っていないことが課題なのではなく、知らないことが課題である』という問題意識を持っており、『知らないまま後悔しないで』をミッションとして掲げている。同じ“接種しない”でも、知らないまま接種しないことと、様々な情報を比較検討して接種しないことでは全然意義が違う。後者の方が後悔のない選択になる」
後悔のない選択をするための1つの参考となるのが、これまで蓄積されてきたデータだ。大阪大学の上田講師らのグループは、ワクチンの接種率と子宮頸がん検診の結果を分析している。
「ワクチンを打たずに対象年齢を超えた人たちは、すでに20歳を過ぎて子宮頸がん検診の対象となっている。その人たちの検診の結果を見ると、細胞診の異常率、つまり精密検査になる人の割合が優位に増えてきている」
ワクチンを接種しないことによるリスクと、副反応など接種することによるリスクをどう見るのか。
厚労省は想定される接種後の症状を発生頻度別にまとめている。
その上で、積極的勧奨が中止される原因ともなった「広い範囲に広がる痛みや手足の動かしにくさ」など「多様な症状」の報告については、「接種後の局所の疼痛や不安等が機能性身体症状をおこすきっかけとなったことは否定できないが、接種後1カ月以上経過してから発症している人は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しい」と専門家に評価されていると説明。また、「様々な調査研究が行われているが『ワクチン接種との因果関係がある』という証明はされていない」としている。
上田講師は「このような症状はけっしてワクチン接種者に特有のものではなく、ワクチンを打っていない思春期の女子にも見られやすいことも分かった。そして、万が一『多様な症状』が出た際のことで言えば、当時は医師も理解が不足し、診療体制も構築されていなかった側面は間違いなくあったと思う。しかし現在は、厚労省が中心となって研修会が開かれたことで医師の認識も明らかに高まったほか、全国の都道府県に必ず1カ所以上の協力医療機関が指定されている。最終的にはそこが責任を持って診療する体制が整っているため、その点も安心してほしい」と説明した。
ノンフィクションライターの石戸諭氏はHPVワクチンの接種勧奨停止の影響と、メディアの責任を指摘した。
「僕たちメディアは副反応の疑いを過度に強調するような報道をしたことをまず反省しないといけない。本来であればなぜ副反応のような症状が起きたのか、それは本当にワクチンに由来するものか、あるいは思春期において幅広く見られることなのかを幅広く、科学的に、そして丁寧に検証して報じるべきだった。しかし『より早く警鐘を鳴らすことが大事』とばかりに突っ走ってしまった。警鐘を鳴らすのはいいが、確たる証拠がなかった以上、より早く元の接種勧奨に戻していくよう伝える責任があったはず。その点は反省しないといけない」
現在では、対象世代に向けて公費でワクチンを打つ機会を設けるキャッチアップ接種が行われているものの、昨年の時点の対象者の48.5%がキャッチアップ接種を「知らない」と回答している(厚労省の調査)。
この点について石戸氏は「僕個人はHPVワクチンの接種についてベネフィットのほうが上回るという記事を書いてきたが、そこでわかったこともある。若い人が積極的にがん保険に入らないことと同様に、正しい情報を発信するだけでは十分ではないということだ。『こんなリスクがあるからワクチンを打ちましょう』というメッセージだけでは結果的に届いていなかったのであれば、若い世代が集まる教育機関、職場、大学、専門学校に対してアプローチをするなど、様々な方法は考えられる」と述べた。
では、HPVワクチン接種の機会を逃した人はどうすればよいのか?
上田講師によると、「子宮頸がん検診で子宮頸がんの手前の『前がん病変』を見つけて治療することで子宮頸がんを防ぐことができる。キャッチアップ接種の終了後は特にその世代を対象に自治体が検診の受診勧奨を強化してほしい」と話している。
一部SNSなどでは「検診を受ければHPVワクチンは必要ない」という声もある。これに対し上田講師は「検診とワクチンの両方が大事。前がん病変が見つかった場合の治療法としては基本的に『円錐切除』という子宮の一部を切り取る手術が行われ、治療効果も高い。ただし、妊娠した時に早い週数での早産になりやすく赤ちゃんが亡くなってしまう後遺症を残すリスクもある。予防はワクチンでしかできない」と強調した。
今後国が検討すべき課題として、石戸氏は「本来は防げたはずの病気を政策によって長期間止めていたことは問題にされるべきで、補償はしないといけない。子宮頸がんに関しては特に接種率が低くなってしまった世代に健康診断に補助金をつけて低額、あるいは無償化するなど、お金をかけて何らかの方法をとる責任がある」と述べた。
一方で石戸氏は自身の取材経験から「子宮頸がんワクチンに対して強い疑義を抱く人がいることも理解できる」と話す。
「初期の子宮頸がんワクチン、つまり接種勧奨が中止される前に、ワクチン接種との因果関係は確かではないものの目の前で体調を崩した子どもを目の当たりにした人たち、子どもにも話を聞いたことがある。当時は今のように体制も整っていなかったため、体調を崩した方は医療機関でたらい回しになってしまい、ろくに話を聞いてもらえなかったという。彼らが強い言葉でワクチンを否定してしまう気持ちも分かる。彼らを取材して科学の問題以前に、“医療の狭間”に落ちてしまった悲しみを理解しないといけないことを学んだ」
その上で石戸氏は「ワクチン接種勧奨が停止していた世代、あるいはワクチンの副反応を訴えた医療の狭間に落ちた人をちゃんと救うことは義務だと思う。現在のように万が一副反応が出た際も医療機関が責任をもって最後まで診てくれる体制が整ったことは非常に重要なこと。これらもきちんと伝えていく必要がある。望ましい医療体制が整った以上、ワクチン接種を積極的に勧める方向に進んでほしい」と述べた。
※HPVワクチンのキャッチアップ接種は来年3月までであり、3回の接種を期間内に完了するためには、9月末までに初回接種を行う必要がある。
(『ABEMAヒルズ』より)
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