SNS上には、無数の裏アカ(裏アカウント)が存在している。最近では企業が採用試験の段階で、その有無を調べることもあり、中にはバイト先での迷惑行為や、未成年時の飲酒だけでなく、ドラッグ売買を匂わせる投稿もあるそうだ。こうした投稿は、時に人生を台無しにするが、Xでは「絶対に表では言えないこともある」「裏アカが人間の本性だ」「誰しもが裏と表の顔を持っている」といった指摘もある。
いまや複数アカウントは、当たり前の時代だ。2022年のotalabによる調査(回答者1133人)によると、アカウントを複数持っていると答えたのは、10代が83%、20代が96%、30代が86%、40代が73%、50代が62%、60代以上が67%との結果が出ていた。『ABEMA Prime』では、裏アカの実態と「裏の顔」の必要性を考えた。
■芸能界でも大炎上「裏アカ」は身辺調査の対象に
裏アカ調査を行う企業もある。「企業調査センター」では、特に大企業(IT系・製造など全般)から、採用候補者の人格・SNSの使い方などの調査依頼を受ける。複数あるアカウントを特定・確認し、リスクの有無や人となりなどを評価する。
企業調査センター代表取締役の藤木仁氏によると、「企業から依頼を受け、最終面接段階で、候補者の経歴詐称や犯罪歴、金銭的な問題の有無など、8項目からチェックする」。裏アカのみならず、本アカ(本アカウント)をふくめたSNS全般から、「リテラシーに欠けた投稿や、情報漏えいにつながる投稿がないかなどを調べる。特に芸能関係者は、絶対に調べられているだろう」と断言した。
どういった事例があるのか。「未成年時の喫煙・飲酒が多く、薬物使用や、バイト先での全裸など悪ふざけも見つかる」。裏アカが増える背景には、SNSの使用傾向がある。「アカウントを“趣味用”や“愚痴用”と分けて、それぞれのグループ内で顔を使い分ける人が若年層では多い」と、用途による使い分けが見られる。
企業調査センターでは、年間8000件程度調査している。「そのうち3割以上は、なにかしらの懸念がある。クライアント企業ごとに懸念点は異なり、例えば金融機関であれば、『金銭的な問題を抱えていないか』を重視する」と、要件に応じたチェックポイントがある。
■人格は1つじゃない 専門医「5から10のサブ人格があり、それの集合体」
SYMPLYが2022年、10代と20代の女性400人に「アカウントをいくつ持っているか」を調査したところ、1~2が44.25%、3〜4が30.00%、5〜7が12.00%、「アカウントを持っていない」が7.25%、8~10が3.75%、11以上が2.75%という結果が出ていた。
otalabのデータでは、複数アカウントの使い方として、プライベート、仕事、見る専門、オタ活・趣味、愚痴、情報収集、性的な投稿や出会い目的などがある。また複数持つ理由としては、「周りの友人に趣味を知られたくない」「親しい人にしか見せたくない内容がある」「本音を発信する専用の場が欲しい」「環境ごとに友達を整理したい」などの声が上がった。
心療内科医の鈴木裕介氏は、「人格は唯一無二のものではなく、複数の“サブ人格”の集合で成り立っている」と説明する。「健康な人でも、1週間で5〜10のサブ人格を使い分けている」。人格に名前を付ける行為は、最近始まったことではない。「江戸時代でも普通にやっていた。作家でも何個もペンネームを持っている」。こうした背景のもと、「日常と対応しない『裏の声』を発することは、人格システムのバランスを取る上で、自然な行為ではないか」と述べた。
■なぜ「裏アカ」が必要なのか
裏アカでの問題発言には、どのような心理があるのか。「リテラシーの高低はあるが、そもそも悪口や愚痴を言うと、ドーパミンが出て楽しくなる。バイト先での迷惑行為も『こんなリスクを取った』と称賛される文化がある」と指摘した。
その上で、記録に残ってしまうことが、SNS時代の特徴だと考察する。「常時監視で緊張感が高まり、『裏の顔』を出せる機会が奪われた。いかがわしいものや、怪しいものが強制排除され、どんどん潔癖になっている。ただ人間は、そもそもグロテスクな存在のため、自分たちの首を絞めている現状がある」。
リスクを負ってでも、なおSNSに投稿してしまうのはなぜか。「グロテスクやマニアックな部分でつながれる安心感や高揚感がある。リアルで『気持ち悪い部分』をさらけ出すリスクを取れない中、ネットに行かざるを得ないのではないか。生傷が絶えないリアルから、世代全体が遠ざかっている」と経緯を説明した。
■必ずしも悪者ではない「承認欲求」
裏アカにメリットはないのだろうか。「愚痴や悪口、相手をけなして優位に立つなど、リスクを取って、毒や秘密を共有できることにより、承認欲求が満たされる側面はある」。承認欲求は、やり玉に挙げられがちだが、「誰かのケアがないと生き延びられない哺乳類にとっては死活問題だ」という。「こじらせてしまうのは問題だが、そこには幼少期に得がたかったなどの理由がある。承認欲求を悪者視しないで付き合えないかと考えている」という。
であれば承認欲求と、どう付き合えばいいのだろう。「ネットのリスクとして、裏の顔を見た時に、多面体の一面だけを切り取って『ヤバイやつだ』とみなすことがある。裏の顔は“本性”とも限らない。光も影もふくめて、人格は構成される」。
同じく“裏の顔”を持っていても、「言語化するのと、それを他人にぶつけるのは、全然違うプロセスだ」と説く。「別にSNSである必要はなく、自分の“デスノート”でいい。『負の部分』の言語化は、むしろやった方がいい。もしそれを人にぶつけるとなったら、相手や言葉選びが重要になる」と解説した。
(『ABEMA Prime』より)
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