「はじめたばかりの仕事がどうしても合わない」「ハラスメントがひどくて会社に行けない」
仕事を辞めたくなる理由は人それぞれだが、退職にあたって自分の「ホンネ」を会社に伝える人は少ないという。
そんな現代に登場したのが、本人に代わって会社に退職の意思を伝える退職代行サービスだ。月に2000人ほどが利用する「モームリ」を管理する株式会社アルバトロスは、これまで蓄積された約1万6000人分の“利用者”の実態を公開した。
「この膨大なデータを開示することによって、離職率の低下につなげられるのではないかと考えた」(退職代行「モームリ」代表 谷本慎二氏)
公開されたのは、サービス利用の経緯や退職理由、勤続年数別利用者数などの項目だ。こうした労働者の生の声やデータを公開することで、労働環境の見直しや雇用の安定化につなげる狙いだ。
今回の調査では、20回以上利用された企業も集計されている。最も多かったのは人材派遣会社で、なんと64回も利用があったという。どんな理由で辞めたいと思ったのか?
「派遣先にて契約外業務をやるよう指示される」「派遣元の求人票には『一般事務』と記載されていたが、入ってみたら『秘書』の仕事を引き継ぐ事になっていた」
他にも、20回以上利用された企業には人材派遣会社が多く、複数社で合計266回にも及んでいるという。業務上のトラブルだけでなく、仕事を辞める際にも板挟みに遭う特徴があるようだ。
「退職の意向を派遣先に伝えると『派遣元に話してくれ』と言われ、派遣元に話すと『派遣先と相談をしてくれ』と言われ、堂々巡りで解決できず、我々に連絡が来る」(谷本氏)
また、新卒で入社した人が依頼するケースも後を絶たない。入社前のイメージと勤務実態や職場環境のギャップが退職理由として多く挙げられる。
依頼のピークはゴールデンウィークなどの長期休暇明けで、お盆明けも退職を決意する人が多いという。
「長期休暇明けは依頼が集中する傾向があり、お盆明けの19日は60件以上の依頼予約がある」(谷本氏)
第三者を介するため、利用された企業側が怒りや驚きを示すことも少なくない退職代行サービス。様々な議論がある中で、谷本氏は今後も利用者の声を社会に発信していくと話す。
「難しいことに、俗にいう“辞やめられないような大変な会社”ほど声を聞いてくれない。対照的に労務関係に気をつかっている会社ほどより良くしようとしている。こうした声を上げ続けることで会社への抑止力になれるのではないかと考えている」
退職代行モームリが公開したデータによると、モームリを利用した理由の1位は「上司から各種ハラスメントを受けている」、2位は「上司から退職を止められている」であり。モームリを利用した年齢層については20〜30代で8割を超えるという。
明星大学心理学部教授で臨床心理士/公認心理師の藤井靖氏は退職代行について「このような会社の存在と利用者の増加は社会が良い方向に進んでいる証だ」として退職代行の存在意義について3つの項目に分けて話した。
「まずは『形だけコンプラ社会へのアンチテーゼ』だ。現状は『形だけコンプラ社会』であり、実際にモームリのデータにおいても退職理由の1位はハラスメントだ。もちろん、ハラスメントは“受ける側の取りよう”であるため『客観的に見たらどうか』は別の話だが、私がカウンセリングしてる中でハラスメントという言葉自体は市民権を得たが、ちゃんと対応されていないことの方が圧倒的に多い。例えば、管理職層で多いのは、ハラスメントの事実に向き合わずに別の論点にすり替えて処理しようとすることがあったり、あるいはハラスメントを訴えた人が“面倒臭い人”として責められたり不利益を被るなどの現実が多くあり、退職代行という仕事はそんな社会に対するアンチテーゼを示す機能も大きいと思う」
「次は『早期の再チャレンジ促進』だ。退職は心身ともに多大なエネルギーを使うことが少なくないが、無駄に使うことなく次のキャリアに繋げるべく、力を別のことに注げることは大きい」
「最後は『正しい同調圧力の使い方』だ。“日本人ならでは”でもあるが、今回のようなデータが示されることで、企業が自分たちの身の振り方を変えていくきっかけになればいい」
一方で、一部の人達からは「ちゃんと仁義を切ってない」などと責める声もあるかもしれない。
これに対して藤井氏は「若い世代も『辞めていいのかな』『ちゃんと言わなきゃいけないかな』などと気にしている。それに対して『ちゃんとやるべきことがあるだろ!』などという声があるからこそ、退職代行というサービスが必要なのだ。既存の企業風土は簡単には変わらない」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)
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