毎年盛況のコミックマーケット。今夏はある行為が物議を醸した。会場となる東京ビッグサイトの前、参加者たちが行き交う通路に多くの写真が並べられた。ポスターに写っているのは食肉加工された動物の姿だ。肉食に反対する「ヴィーガンアクション」と呼ばれるデモだという。
主催者によると、警察への申請などの手続きは経た上で、人に食べられる動物がどのような目にあうのか、感受性豊かなクリエイターやオタクたちに伝えたかったという。しかし、Xでは「訴えたいことはわかるがこの写真は一線を超えている」「コミケに参加してマンガで訴えるほうが効果的なのでは」などの声が上がった。中には、わざわざ写真の前でハンバーガーやチキンを食べる人も。また、同じように動物の権利尊重を訴える団体からも、過激さは反感を買うという意見がある。
動物の権利と、表現の自由における過激アピールの是非について、『ABEMA Prime』でデモを行った当事者と議論した。
■物議のヴィーガン活動に聞く“狙い”
ポスターが過激だという指摘について、弁護士・ヴィーガン活動家の箱山由実子氏は「真実のほうが過激だ。活動自体は、特に演説はせず静かなものだと考えている」とコメント。
また、「子どもにそういった場面を見せられないのは、残酷なものを見せたくないという人間の良心だ。『かわいそう』と、泣く子もいるだろう。ただ、私は食べてはいけないとは思っていない。どれだけ動物が苦しんでいるかという真実を、義務教育や公共放送などで共通認識にする。“それでも自分は食べる・食べない”という選択をすることだ」との考えを述べる。
今回の活動は、「感受性豊かな創作者・オタクを狙った」という。「コミケに来られるのは、とても考え深く、繊細で、本質を掴まれる方々だと感じている。そういう方々が写真をご覧になってどう感じるかな?という問題提起だ。真実を知っていただきたいという思いだった」。
箱山氏は当日の活動を振り返り、「コミケはオタクの聖地だから、次から来ないで」と土下座されたり、看板を踏み荒らされたりしたという。一方で、「エロ表現を制限されがちな業界だからこそ、他の表現の自由も守りたい」と応援の声もあったそうだ。
過激な活動は逆効果になのでは?という問いに、「肉を食べる時に“ああいうパネルがあったな”と、思い返してくれたらいいと思う。肉フェスでのデモは今年で4回目、最初はすごい非難だったが、去年今年は“あ、ヴィーガンブースだ”“これも合わせての肉フェスだから”と言われた。みなさん慣れたのか、“しょうがないから放っておけ”かもしれないけれども」と答える。
その上で、今後について、「コミケの2日目が終わった後、ある宗教の勧誘を受けた。“自分たちが絶対的な正義で、他は悪で間違っている”ということを切々とおっしゃった。それでは反発を招く。ヴィーガンも“これが善で、こっちが悪”というのは駄目だと思う」との考えを示した。
■アニマルウェルフェアからの視点「アンチを増やす活動には反対」
認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事でヴィーガンの岡田千尋氏は、過激な活動には否定的だ。「この行動が小学校の前だと少しやりすぎだが、コミケなどは表現の自由として、市民の権利として必要なことだろう」とした上で、箱山氏の活動の問題点を指摘する。
「動物の写真や動画を使うこと自体は過激だと思わないが、いろんな方の反応から思うのが、“正しく伝わっていないんじゃないか?”ということ。写真や動画がいつ撮られたもので、誰が食べているのかがわかれば、より信憑性の高い情報として伝わるだろう。箱山さんが使っている写真はほとんどが海外のものだと思うが、多くの方は“アメリカ人は残酷だね”“ヨーロッパ人はこんなことをしているんだね”と言う。これは自分たちの問題だということを伝えるために、私は調査から始めた。日本人が食べていて、工場式の蓄産、持続可能性、社会や食の安全、環境問題にも関わっている。そういったことも含めて理解してもらわないと、食生活はなかなか変わらない。“真実を伝えたい”ということだが、真実から少し遠いのかなと感じる」
また、偏見やアンチを増やす活動にも反対だ。「私たちの団体は、対話があってこそ社会は変わると思っている。動物の苦しみが大きいという問題に対して、多くの方が味方にならないと社会システムが変わらない中では、悪意を持たれれば動物自身が厳しい状況に追い込まれていく。企業や消費者、消費者団体、もしくは政府と対話をして、解決策も提示しながら導いていくことができると思う」とした。
アニマルウェルフェアは、ストレスをできる限り少なく、行動欲求が満たされた健康的な生活を送れるようにする畜産のあり方。「飢えと渇きからの自由」「不快からの自由」「恐怖や抑圧からの自由」「痛み・傷害・病気からの自由」「正常な行動を表現する自由」の5つの自由(5F)がある。
岡田氏は「例えば、採卵鶏のオスヒヨコは毎年65万羽が殺されているが、こうした不必要な苦痛、生死の分け方が、アニマルウェルフェアの文脈からなくなるといい。ニワトリ、豚、牛だけで年間851億頭、日本でも10億頭が殺されている。この苦しみを減らすというのは、お肉を食べる人こそにやってほしい運動だ。多くの企業も賛同するようになっているし、農林水産省もやり始めていて、ようやく日本もスタート地点に立っている。この流れを大きくしていくことが、851億頭にとってのメリットだと思う」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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