世界で10億人近くのユーザーがいるとされる通信アプリ「テレグラム」のパベル・ドゥロフCEOが24日、フランスで拘束・逮捕されたことが物議を醸している。フランス当局によると、テレグラムが資金洗浄や麻薬密輸、児童ポルノに使われていることをドゥロフCEOが放置した疑いがあるとされる。テレグラムは送信したメッセージの暗号化や自動消去機能など秘匿性の高さが特徴だが、この秘匿性をテロリストや犯罪グループなどが悪用し問題にもなっていた。ただし、今回の逮捕について、テレグラムというプラットフォームの運営自体にどこまで責任があるのか、ということで世界中から異論も出ている。ドゥロフCEOは「重視しているのは自由。テレグラムは政治的に中立で、誰もが利用できるプラットフォームだ」と訴える。『ABEMA Prime』では、「2ちゃんねる」の創設者であるひろゆき氏らと、今回の逮捕について考えた。
■「ロシアのイーロン・マスク」パベル・ドゥロフCEOが逮捕、業界騒然
2013年に誕生したテレグラムは、他のSNSと異なり「シークレットチャット」機能の高い機密性・秘匿性が特徴だ。ユーザー同士が1対1で、暗号化されたシークレットチャットのやりとりが行えるため、やり取りしている2者以外は、運営側を含め誰も見ることができない。この特徴に目をつけた犯罪者たちが悪用、日本国内でも警察が捜査に難航するとも言われてきた。元埼玉県警でデジタル捜査のエキスパートである佐々木成三氏は「テレグラムに関しては私が刑事の現役時代からかなり問題視していた。テレグラムを使われてしまうと警察としてはその情報提供を求められない。そうなると、犯罪者同士がテレグラムを使っているとわかった時点で当時はもうお手上げだった。捜査にかなり困難を生じさせていたということは間違いない」と振り返る。現在は、利用者がテレグラムを利用するスマホなどの解析技術がかなり上がったことで、証拠となるデータの抽出ができることも増えたが、テレグラム内で起きたことを捜査するのが難しい状況に変わりはない。
今回の逮捕について、連想されるのが今から約20年前に起きた「Winny事件」だ。2002年に金子勇さんが開発したWinnyは、高速でデータをやりとりできるファイル共有ソフトで、ブロックチェーンの先駆けともなり、P2P技術の実用化も果たした。「2ちゃんねる」で無料公開されると爆発的な人気を誇った一方、音楽や映像の交換に利用され、違法コピーが問題になった。すると2004年には著作権法違反の「幇助」容疑で金子さんが逮捕される事態に。ただし2011年、最高裁では無罪が確定している。
■ユーザー10億人「テレグラム」が犯罪の温床に
このWinny事件で弁護士団の事務局長を務めていたのが壇俊光弁護士。今回のドゥロフCEOの逮捕についても異を唱える。まず現段階では「今は被疑者にとって不利な状況がすごく流れているので、軽々と逮捕の是非を判断するのはよくない」とした上で、「何かのツールを提供すると、便利なものであるほど悪用される。よくある議論で一番ダメなのは、『テレグラムが特別これだけ悪かった』『暗号通信が悪かった』など、提供者が悪いという話ばかりになること。Winnyの時もそうだった」と指摘した。
確かに犯罪はテレグラムだけで起きているわけでもない。国内であれば「LINE」を利用した犯罪例も少なくない。LINE公式アカウントを通して「闇バイト」を募集、詐欺・窃盗・強盗事件などにつながったこともあれば、マッチングサイトなどでコンタクトした相手をLINEに誘導、金銭をだまし取る「国際ロマンス詐欺」もある。また広告からLINE友達追加に誘導する「著名人なりすまし広告・投資詐欺」というケースも見られる。壇氏は「日本に置き換えた時に、LINEの社長が逮捕されるかという話。遠い国の話ではなく、日本でも現実に起こっていること」と、身近な問題であると訴えた。
■LINE、Facebookでも起きる犯罪
テレグラムとLINEで、犯罪における取り扱いの違いがあると、佐々木氏は指摘する。「テレグラムの技術の内容が問題視されているわけではない。テレグラムの中で犯罪が起きているのを知っておきながら、放置したということを重く見ている。警察が捜査の上で情報提供を求めた時、テレグラムは一切応じないが、LINEは犯罪をなくすために警察に対しては情報提供しますという体制を整えている。私は日本しか知らないが、そこに大きな違いがあるのでは」と述べた。一方、壇氏は「LINEもそれほど情報提供してくれないし、情報開示に応じてくれない。ログの保存期間も短いので結構問題になっている」と反論した。LINEの対応については、民事事件と刑事事件とでも差があるという指摘もあった。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」も、犯罪に利用されたことがある。2012年12月、覚醒剤の販売に関する書き込みを削除せず、違法と知りながら放置した疑いで、創設者で当時管理人だったひろゆき氏が麻薬特例法違反の幇助として、書類送検されたこともある。後に不起訴処分にもなったが、ひろゆき氏もプラットフォーム運営者の立場がよくわかる。まず、今回の逮捕の妥当性については「基本的にネットワークや技術を使った人がいきなり逮捕されるのはよくないというのは同意だが、今回の件に関してはチャイルドポルノを放置したから逮捕された。チャイルドポルノに関してだけはめちゃくちゃ厳しいというのが世界中で広まっている。オンラインプラットフォームはアメリカ人が使うのでアメリカのルールに合わせている。テレグラムに関しては、フランスでチャイルドポルノを扱う部署が去年できて、その問い合わせに対して応じず無視をした」と問題点を挙げた。また、同じプラットフォームに関する犯罪としては「Facebookでは芸能人の詐欺広告があり、Facebookはそれで利益を上げている。そっちの方がよほどまずい。何でFacebookの日本の社長は逮捕されないのか不思議」とも述べた。
■プラットフォームができることは
今後、プラットフォームで起こる犯罪はどこまで減らせるのか。AIエンジニアの安野貴博氏は、児童ポルノについて「今後技術が進んでいくと、例えば警察当局や他の人には見えない暗号化したままの状態でも『これは児童ポルノが含まれているかもしれない』とAIで検知することはできる可能性がある。他の人には見られないという状態を担保したまま、危険なものだけ検出することができるようになるのでは」と期待した。また壇氏はプラットフォームの責任について「道義的な責任、民事的な責任、刑事的な責任と分ける必要がある。混同して、道義的な責任があるから逮捕は妥当だ、みたいな馬鹿みたいなことを言ってはいけない。日本では、ちょっと感情的になりやすいということをちゃんと自覚し、事後的にでもいいから追いかけられるような、方法を考えていくべき」とも述べた。
さらに、ひろゆき氏は「結局のところ、日本で大衆が見られる形のコミュニケーションサービスで今流行っているのはX、Facebook、YouTubeと全部海外のサービス。要は日本で何かやると、難癖をつけられる可能性があるから怖いからやらない方がいい、となっている。日本人が外国のサービスを使ってそこで金をバンバン落としていて、国益を損しているという概念にそろそろ行った方がいい」と国内のプラットフォームが育たない理由についても語っていた。
(『ABEMA Prime』より)
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