神龍に願えば死んだ人でさえも蘇る。そのため「ドラゴンボール」の世界では意外と“死”は身近なものだと思われがちだが、それは孫悟空たちが大人になってからの話。少年時代の悟空が悔恨と怒りの涙を見せたとある殺人事件は、当時の視聴者にもかなりのトラウマを与えた。その事件とは第22回天下一武道会終了後に起きたクリリン殺人事件のことである。
【映像】駆けつけた悟空が見たクリリンの惨状(4分17秒ごろ~)
1986年から1989年に放送されたTVアニメ「ドラゴンボール」は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1984年から1995年まで約11年間連載された鳥山明の同名漫画が原作。シリーズ累計発行部数が全世界で2億6000万部を超える大ヒット漫画で、以降も「Z」「GT」「改」「超」など数々のアニメシリーズが制作されたほか、20作を超える劇場版も公開。数多くのゲームシリーズにもなっている。40周年を迎えた2024年、故・鳥山明氏が原作・ストーリー・キャラクターデザインを手掛けた完全新作アニメシリーズ「ドラゴンボールDAIMA」が10月から放送される。
強者揃いだった第22回天下一武道会の決勝戦で、悟空(CV:野沢雅子)は天津飯(CV:鈴置洋孝)と死力を尽くしぶつかり合ったが、最後は気功砲で武舞台そのものを消し去った天津飯と空での戦いの末に不運にも走っていた自動車に先に接触してしまい準優勝に終わった。天下一武道会が閉幕すると、“昨日の敵は今日の友”とばかりに悟空たちと打ち解けることができた天津飯や餃子(CV:江森浩子)は、一緒に食事に出かけることになった。
あまりに空腹だったからか、悟空は如意棒と祖父・悟飯の形見である四星球を武道会場に忘れてきてしまっていた。するとクリリンが気を利かせて悟空の代わりに取りに戻ってくれたが、まさかあんなことになるなんて誰が予想できただろうか。
普段なら目の前のご馳走に我先にと貪りつくはずの悟空だが、なかなか戻ってこないクリリンに何かを感じていたからだろうか、このときは食べようとしなかった。どうしても気になった悟空が様子を見に武道会場へと戻ると、そこには傷を負ったクリリンが横たわっていた。
悟空は急いで駆け寄り、クリリンを抱きかかえ呼び掛けても反応はなく……次に悟空がつぶやいたセリフに当時のファンは戦慄した。「し、死んでる」。
「ドラゴンボール」で死者が出たのはこれが初めてではない。レッドリボン軍編で桃白白が登場した頃から人が殺される直接的な描写が増え、ウパの父・ボラも殺されたが、悟空の仲間が死んだことはなかった。仲間内で初めて命を落としたのがクリリンだった。
目を見開き、口から血を流れたままの姿はトラウマ以外の何者でもなく、多くの視聴者に衝撃を与えた。一緒に倒れていた天下一武道会アナウンサーによると、化け物の急襲によりドラゴンボールと武道会名簿が奪われたのだという。クリリンは抵抗したが、見るも無残な姿となってしまった。
激闘を終えたばかりで精魂尽き果てていたはずの悟空もこれには怒り心頭。初めて怒りと悲しみの涙を流し、後の超サイヤ人の原型か?と思うほど髪の毛を逆立てると、亀仙人の「待て」という命令をも無視してクリリンの仇を追うのだった。
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