兵庫県知事に再選した斎藤元彦氏。議会で不信任決議を受け失職したが、当初の予想を覆して再選を果たした。再選の裏には“ネットの影響”があったという。
そんな中、あるX投稿が注目を集めた。
「斎藤氏の支持者の6割はパワハラがあったと思っておらず、稲村氏の支持者は9割がパワハラがあったと思っている」
県職員2人の死亡の原因とは?
投稿したのはネットが経済・社会に及ぼす影響ついて研究している横浜商科大学 田中辰雄教授。田中教授は、兵庫県知事選が行われる前の11月16日~17日に、兵庫県在住の18歳から79歳の県民2347人にアンケート調査を行ったのだ。
その結果、県職員2人の死亡についても、斎藤氏の対抗馬だった稲村氏の支持者の8割は『斎藤氏に追い詰められた』と思っている一方、斎藤氏の支持者の8割はそう思っていないことが分かったのだ。
「カウンターの議論がなかった」
「極端に分かれたことは驚くべきことだ。また、斎藤氏支持者が主に使っていた情報源はXやYouTubeが4割と非常に多い。対して稲村氏支持者では1割しかいなかった。主としてネットで意見形成をしていたことは間違いない」(田中教授、以下同)
選挙戦において以前からネットの潜在力はあったものの、今回は色々な要素が斎藤氏に有利に作用したと見られている。
その一つの要因は「カウンターの議論がなかったこと」だという。
「斎藤氏側の動画がネットで多く出回ったとき、対抗するカウンターの議論がほとんど出なかった。そのため、ネットを見ていれば『やっぱりパワハラはなかった』『これは捏造だ』と思う人たちが出るのは当たり前。無防備な状態で話が進行してワンサイドゲームになった」
さらに田中教授のアンケート調査で斎藤氏の支持者には“陰謀論”を信じる人が2倍程高いことがわかったという。ここでの陰謀論は「新型コロナは中国が作り出した生物兵器」「財務省が意に沿わない政治家をスキャンダルで失脚させている」など6つだ。
「斎藤氏=ヒーロー」「マスコミ=悪」の構図ができてしまった
「斎藤氏の支持者の中には政策が良いから応援している人もたくさんおり、陰謀論の人たちばかりではないが、YouTubeを流して運動している人たちの一部には“陰謀論的なロジック”が入っていた。陰謀論が選挙に一定の役割を果たしたのではないかと考えている」
田中教授はネットがこれからの選挙を変えていくのは間違いないが、今回はネット上で「斎藤氏=ヒーロー」「マスコミ=悪」の構図ができてしまい異例の選挙になったと指摘する。
「“斎藤氏ははめられた”という謀略と陰謀論のような形で結果がひっくり返った。これは非常に異例であり要注意だ」
多くの情報が飛び交う中、どう選択していけばよいのだろうか?
「ネットの投稿に嘘が多いことは分かっているので、情報の裏を取ることが重要だ。『この記者、この会社からの情報』とはっきりわかっている情報には価値がある」
“トランプ現象”と重なる点が多い
田中教授の調査結果について、ダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介氏は「非常に興味深い調査結果だが、同時に取り扱い注意でもある」と述べた。
「アンチ斎藤派の人が気持ち良くなるような調査結果だが、このデータだけをもって『斎藤氏の支援者は陰謀論にダマされやすい情報弱者だ』と捉えるのは短絡的だ。もちろん中には、陰謀論を信じている人もいるだろう。ただ、アンケートによれば稲村氏の支持者の16.9%も陰謀論を信じている。陰謀論と関係なく、政策を見て斎藤氏を支持した人もたくさんいるはず。こうした点を念頭に置いた上で、淡々とデータを読み解く姿勢が大切だ」
さらに神庭氏は「今回の兵庫県知事選は、アメリカ大統領選の“トランプ現象”と重なる点が多い」と指摘した。
「斎藤氏の支持者による根深いメディア不信は、トランプ氏の支持者とも共通する。テレビや新聞は斎藤氏の告発文書問題を集中的に報じたが、共同通信の調査によれば投票でこの点を重視した人は9%しかいなかった。既存メディアはアジェンダ・セッティング、争点設定の段階で失敗していた可能性がある。そしてこの穴を埋めるような形で、『たった1人で立ち上がった斎藤さん』という物語がSNSやYouTube動画を通じて形成されていった」
「『既得権益を引き剥がしたい』というリセット願望も、トランプ現象に通じるものがある。『SDGsや多様性よりも、まずは俺たち・私たちの生活、メシの種をどうにかしてくれ』という切実な願いが、反リベラル的な動きとして結集した面もあったのではないか。海の向こうではイーロン・マスク氏が有権者に毎日1億5000万円を配り、兵庫県知事選ではNHK党の立花孝志党首が自分の当選を目的とせずに出馬して、斎藤氏の応援を買って出た。選挙制度がハッキングされた点にも類似性を感じる」
(『ABEMAヒルズ』より)
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