12月21日(土)千葉・幕張メッセ イベントホールで開催される「ABEMA presents RISE WORLD SERIES 2024 FINAL~GLORY RISE FEATHER WEIGHT GRAND PRIX~」に那須川龍心が緊急参戦。今年1月に武尊に勝利したスーパーレック・キャットムーカオ推薦選手=ペットマイ・MC.スーパーレックムエタイとの対戦が決まった。
11.23後楽園ホールで行われたRISEフライ級タイトルマッチ。王者・数島大陸に挑んだ龍心は大方の予想を覆す1R2分12秒、KO勝利で数島を下し、自身初のチャンピオンベルトを巻いた。数島と龍心は試合前から舌戦を展開し、特に数島は「那須川選手は色々なメディアに出て、勢いもあって注目されていて、RISEもいい待遇を与えていると思っている。そんな奴には負けたくない」と龍心に対して敵意をむき出しにしていた。
もちろん龍心も黙っているわけがなく「自分自身、飛び級でここまで来たわけじゃないと思っているし、しっかり一歩ずつ勝たなければいけない相手に勝ってきたので、それをとやかく言われる筋合いはない」と発言するなど、試合まで両者は舌戦を繰り広げた。そんな因縁の一戦にKO勝ちという形でピリオドを打った龍心だが、速攻勝負に出ることは試合前のプランには入っていなかったという。
「今回の言い合いは数島選手が一方的に怒っていたってのもあって、僕は冷静に受け流そうって感じでした。特にどうとは思わなかったけど、自分がチャンピオンになった方が盛り上がるだろうなと思いながら練習はしていました。元々は前半の1~3Rにポイントを取って、4と5Rにどんな展開になっても勝てるように戦う予定だったんです。でも最初にリングで対面して倒せるかも、ダウン取れるかもと思ったんです。それで戦っている中ではめちゃくちゃ悩んだんですけど、いいのが当たって効いたんで、行っちゃえと思って行ったらKOできました」
特にこの試合では龍心の左フックが冴えた。これは過去の試合で数島が左フックを被弾しやすい傾向から、数島対策で練習していたものだった。しかも龍心の左フックは数島の顎とテンプル、当てる場所を変えてフィニッシュにつなげていた。
「(数島の)過去の試合を見ていても左フックが見えていないっていうのはあったので、そこを狙っていこうかなと思いました。序盤から左フックが入っていて、相手も耐えていましたが『これで倒れないの?』とは思わなかったです。自分自身、あまり一発で倒す選手じゃないし、コツコツ当たっていたので、どこかで効いてたり、ダメージが溜まって、倒れてくれるのかな。このまま続けていこうという感じでした。(当てる場所を変えた?)最初はそこまで狙っていなかったのですが、パンチが当たり始めて余裕が出てきたので、しっかり当てる場所も狙っていこうと思いましたね」
試合時間は約2分という短い時間だったが、龍心は「あの2分が長く感じたというか、結構濃い時間だった」と振り返る。この言葉からも分かる通り、龍心は試合で経験を積んで、それを次の試合に生かす能力に長けている。2023年12月から数島戦を迎えるまでの約1年で、龍心はRIZINでのMMAルールの試合を含めると5試合を経験。「練習でやっていることを試合で出すのは、どの選手も難しいと思うので、それを出すための心構えを意識してやってきた。それが試合で出て良かったです。試合をやっていくことで、試合中の向き合い方、感覚は磨かれている感じはあります。その感覚が前回よりも顕著に出た感じはしましたね」と、そのすべてが龍心を強くする糧になっている。
ベルトを巻いた直後の龍心は「勝てたことは嬉しかったけど、チャンピオンになっちゃったか、ベルト獲っちゃったかって感じでした。達成感はあまり感じなくて、現実じゃないような気持ちでした」という。しかしチャンピオンとしてのキャリアを積んでいく上で、兄の那須川天心からは「これからは嫌われ役にならないとダメだよ」と告げられた。
「天心からは『おめでとう。でもこれからだよ。これからどう盛り上げていけるか。嫌われ役にならないとダメだよ』と言われました。今ってそういう発言をする選手がいないじゃないですか。何かを発言するということは支持も得られるけど反感を買うってことだと思うし、自分はそういう発言もしていかないといけないなと思っています。チャンピオン以外がそういうことをすると、周りから『あいつはチャンピオンじゃないのに』と思われますけど、チャンピオンになってしまえば『俺がチャンピオンだから』と言える。チャンピオンになったからこそ自分が盛り上げないといけないし、自分が言いたいことを言えるようになったと思います」
そんな龍心のチャンピオンとしての初陣にRISEが用意した相手はスーパーレックとペットパノムルン・キャットムーカオの推薦選手でもあるペットマイに決まった。ONE Friday FightsでもKO勝利を収めている強豪で、RISE伊藤隆代表も「龍心が今までやってきた中で一番強い相手」と語る相手だ。新チャンピオンの顔見せという雰囲気は一切なし。むしろ大きな試練を与えられることになったが、かつての天心がそうだったように、龍心もペットマイのような強敵に立ち向かっていくことが自分の見せたい格闘技だと話す。
「最初この相手のプロフィールが送られてきて、連戦だからそんな強くないだろうと思ったんですけど、試合映像を見たら結構やるやんと思って(笑)。でもそれと同時にチャンピオンはこういう試合をやるものだと思ったし、こういう相手にしっかり勝って行かないといけない。天心も連戦で強豪とやってきたので、自分も強い相手に勝って那須川龍心というものを証明しないといけない。だからこの試合を受けました。ベルトを獲った次の試合だからこそ、やる意味のある相手だと思っています」
ペットマイのファイトスタイルを客観的に見て、龍心は「ミドルキックがとにかく強くて、戦い方がどことなくスーパーレックに似ている。自分の苦手としているスタイル」と分析する。かといって、この試合が龍心にとって無謀なチャレンジではない。TEAM TEPPENはムエタイ攻略に一日の長があり、龍心は「自分の苦手なスタイルを克服するにはいい相手」と位置付けている。
「天心もそうですけど、TEPPENのスタイルはあまりムエタイが得意じゃないんですよ。でも得意じゃないからこそ、常に対策を考えている。特に会長は対策を立てるのがすごく上手くて、相手が嫌がることを分かっているので、そこを聞いたり。あとは天心もその対策が上手いので、天心にも聞いたり、自分もペットマイの試合映像を見て、対策を考えています。今回はチャンピオンになっての初戦で(数島戦で)評価が上がった中での試合だと思いますが、その評価を超えていけるか。みんなの予想や期待を上振れできるかが課題なので、数島戦の勝ちがたまたまじゃなかったと思わせたいです。今自分が持っている感覚ややっていることがハマれば『那須川龍心、こんな勝ち方するんだ!』と思わせられると思います」
今年の格闘技界はキックボクシングからMMAへの転向組の活躍が目立ち、年末にはRIZINをはじめ、格闘技のビッグマッチが並んだ。昨年大晦日にMMAにチャレンジした龍心も、今年はRISE王者としてRISEのビッグマッチのリングに立つ。RISEやキックボクシングを盛り上げること。龍心はそれが今の自分の使命だと感じている。
「今は自分が戦っている団体から他の団体に出たり別競技をやったり、そういうことをする選手が多いのかなと思っています。それはそれでいいんですけど、もっとやることをやってから行けばいいのになって。今自分がいる団体や競技を踏み台にすることも多いので、それは愛がないよなって思いますし、今の僕は自分が持っている知名度を使って、しっかりRISEを盛り上げていきたいです。天心がボクシングに行ったのは対戦相手がいなかったり、キックでやりきったからだと思うし、武尊選手もK-1をしっかり盛り上げてやり切ってからONEに行ったと思うんですよね。
今はそこまでやりきる選手が少ないし、出来ない選手が多いと思いますが、僕はRISEのチャンピオンになって、今は僕がそれをやる立場なのかなと思います。僕も去年はMMAをやりましたけど、僕はキックやRISEを盛り上げるためにやっているし、メディア出るのも同じです。メディアに出れば注目が集まるけど、人の心を掴んだり、RISEの認知度を高めたりするのは、試合で魅せていくしかない。僕は試合で見てくれる人たちの心を掴んでいきたいです。
年末はRIZINや他の競技や団体の試合も多いし、RISEとGLORYのトーナメントも注目度が高いですけど、僕はそれ以上の注目を集められるようにやりたいと思っていますし、もっとチャンピオンとしての価値を上げて、RISEやキックボクシングを盛り上げていきたいです」
RISEのチャンピオンとなり、那須川天心からキックの未来を託された男・那須川龍心。その新たな戦いのストーリーが12.21幕張メッセから始まる。
文/中村拓己