退職時に支払われる退職金。もし、その額が「投票」によって決められるとしたら…?
「つくば市長2期目の行政運営に関するインターネット模擬投票の投票結果をご報告します」
去年11月、市民からのネット投票によって自身の退職金額を決めたのは茨城県つくば市の五十嵐立青市長。
市民が市のアプリを使って市長を100点満点で採点し、その点数に応じて退職金額が決められたという。つくば市によると、こうした取り組みは全国初とのことだ。
2016年に初当選し、現在は3期目となる五十嵐市長。行政改革や子育て支援の充実など、様々な公約を掲げている。また、つくば市では公職選挙の“インターネット投票”の実現を目指していて、2024年には車の中から投票ができる「移動投票所」の実証実験が行われた。
これに対し五十嵐市長は「これはあくまでもインターネット投票の最初のステップで、ゆくゆくは投票したい人が、誰もがハードル無く投票できるようにしたい」と話している。
そんな五十嵐市長。かねてから「退職金ゼロ」を公約に掲げ、2020年、1期目の任期満了の際にはおよそ2000万円だった退職金額を22円まで減額。しかし、これには批判的な意見も多く寄せられたという。
そして2024年、2期目の任期満了を迎えるにあたり行ったのが、自らの退職金の額を市民に委ねるということ。
「どうすればこのように市民の考えが違う案件で、肌感覚ではなく、みなさんの声を適切に反映することができるだろうかと考えてきました。その取組が、『公約の進捗と実績に対する評価と、退職金の金額を連動させるインターネット投票』です」(五十嵐市長 公式ブログから)
“ネット投票”の導入に向けた実験的な意味合いも込められたこの投票。その結果は…
「1278万7038円」
平均点は100点満点中62.7点。退職金の支給額は1278万7038円だった。
この結果について、五十嵐市長は『ABEMAヒルズ』の取材に対し「今回のインターネット投票を通して実現したかったことに、『民主主義のアップデート』があり、実現できたことは大変意義深いものと考えている。次回のインターネット投票に向け、具体的に整理をして、改善を進める」と答えた。
「日本人は選挙が終われば振り返らない」
市民からのネット投票によって自身の退職金額を決めるという取り組みに教育経済学を専門とする慶應義塾大学の中室牧子教授は「非常に面白く、良い取り組みだ」と称賛した。
「日本人は選挙の際は公約などについて騒ぐが“その結果”についてはほとんど振り返らない。その点を自ら市民に問おうとしたところは面白い。そして税金を払う側からすれば市長の退職金は少なくしたいにもかかわらず、高めの点数が出たことから市民が冷静に見て判断したことがわかる」
一方で五十嵐市長は2024年のつくば市長・市議会議員選挙でのネット投票導入を目指していたが断念したという。
実現に向けて解決すべき課題は、「マイナンバーカードのパスワード忘れ」や「システムの不安払拭」「公職選挙法の改正または特例措置」などがあるという。
この点について中室教授は「当日投票所に絶対行かないといけない、いうのは時代遅れだ」と指摘した。
「震災などの自然災害が起きたり、感染症が流行するケースもある。また、介護の対象だったり、子育てに追われていたりすると当日投票所に向かうのは難しい。民主主義をアップデートしたいという五十嵐市長の気持ちはすごくよくわかる」
実現に向けての課題についても「五十嵐市長の実際にやってみることで明らかになる課題を一つひとつ潰していくという実証主義的な考え方は素晴らしい。机上の空論でいくら話していたとしても先には進まない」と述べた。
だが、公職選挙法の改正のハードルは高いという。
「実は公職選挙法は議員立法であるため各会派の合意がどうしても必要なのだが、自民党と共産党が同じ考えになるか、などと考えると分かるように難しい部分もある。とはいえ、与党の中にもインターネット選挙に賛成する政治家が出てきていることからも今が議論すべき時だと思う」
ネット投票が合理的な理由
ちなみに、現在の日本には期日前投票や不在者投票、在外選挙など様々な「選挙期日に投票所で投票」以外の投票制度がある。
中室教授は「例えば船舶から行う洋上投票というものがある。ここでは漁師や海上自衛隊の方が個人情報にマスクできるファクシミリ装置を使っているのだが、機械の生産台数が少なくなっていることもあり、大きなコストがかかる。だが、公職選挙法で決まっているため仕方がないのだ。こういった理由からもインターネットで投票できるようにしてほしいという声が非常に強い」と指摘した。
(『ABEMAヒルズ』より)




