家業の後継者がいない割合は調査開始以降、改善傾向にあるものの、依然として半数以上は後継者がいない(帝国データバンク)。
本音は「継いでほしい」
また、家業経営者の父親の96.7%は「子どもの職業選択は好きなようにさせたい」と答える一方、過半数の54.1%が「子どもが継いでくれたら嬉しい」と回答している(エヌエヌ生命調査)。
子どもの意思を尊重してあげたいという親心がありながらも、継いでほしいという本音も依然根強くあることが明らかになっている。
そんな事業承継の実態について、愛知県で家業の鮮魚販売・飲食店を展開する寿商店を承継した森朝奈さんに聞いた。
「父が保育園に解体ショーで来てくれた」
「最初に興味を持ったのは、父が私の保育園に解体ショーで来てくれたときに『かっこいいなぁ』と興味を抱いたときだ。私の場合は“リアルお店屋さんごっこ”が体験できたので、商売の楽しさをお客様にも教えていただき『将来こういう仕事をやってみたい』という家業に対する興味関心を持つのが非常に早かった」(森朝奈さん、以下同)
楽天に入社して学ぶ
森さんは、幼いころから「父と魚屋をやりたい」という思いを持ち続け、水産会社への就職を希望していたが…
「『今後は魚をネットで売る時代が来る』という、父の狙いからEC事業を始めたがうまくいかなかった。ちょうど就職活動のタイミングでそんな悩みを聞いたことで『楽天に入社して、ノウハウを学んで承継の足がかりにならないか』と考えた」
楽天に入社から2年後、念願の寿商店へ。しかし、実際の現場に入ってみると、カルチャーショックを受けたという。
「オペレーション化・仕組み化されているものが非常に少なく、マニュアルもなかった。また、魚がさばけないから包丁も触らせてもらえず、数年勤めないと信頼を築けない状況だった」
社長の娘という立場だったが、はじめは自分の居場所探しから始めたという森さん。
「『やりたいことよりもまず必要とされていることからやろう』と考えた。就業規則やマニュアルが整っていなかったので、総務周りの仕事や社内課題の解決をしていった」
昔気質の父親やスタッフの反発を受けながらも、在庫管理など会社のデジタル化に着手。さらに、YouTubeやインスタグラムなどで発信し、顧客を増やすことに成功した。
そんな森さんに事業承継について聞いてみると…
「新しい取組みにはパワーが必要。承継する・しないを、責任感をもって自分の意思で選んでる方が、変えていくことに対してもうまくやっている、と感じている」
強いやる気は必要だが、自身の失敗からこれから事業承継する人へ伝えたいことがあるという。
「会社をいい方向にしたいという気持ちが強く、自分がこの会社に対して一番愛情を持っていて、自分が一番理解しているという気持ちもあり、古参社員のヒアリングがあまりできていなかった。やる気は一旦置いといて、しっかり自分の会社の社内課題と向き合い、一緒にやっていくメンバーとしっかりとコミュニケーションをとる。その中で信頼を築くことが非常に大事だと身をもって感じている」
同族経営は合理的?
森さんの事業承継を受けて、EVeMエバンジェリスト 滝川麻衣子氏は「『内向きになる』と思われがちな同族経営だが、実は『会社にいい効果をもたらす』という論文がある」と説明した。
「同族経営の対局にあるとされる“サラリーマン社長”との比較で考える。サラリーマン社長は期間限定で社長を務めるため、できるだけ失敗しないように保守的な選択を取りがちだ。対して、同族経営は解任リスクが低く、中長期で会社に繁栄をもたらす戦略を取ったり、時にはリスクを取った大胆な戦略ができる」
その上で、滝川氏は世界的企業であるLVMHやウォルマート、そして国内企業である星野リゾートやロート製薬などを例に挙げた。
NY証券取引所などに上場しているアメリカを代表する企業500社における創業家経営と企業業績の関係の調査・研究によると、「3分の1が創業者所有で全株式の18%を占めており」「創業家企業は非創業家企業よりも良い業績を示し特に創業家メンバーがCEOを務める場合に顕著」だといい、創業家経営が効果的な組織構造であることが示唆されたという。
とはいえ、デメリットもある。
滝川氏は「最大のリスクは『創業家だから』という理由で“無能な人”が社長になることだ。また、“お家騒動”が会社に損害をもたらす可能性もある。対策としては、創業メンバーの適性を見ることも大事だが、創業家の周囲にアドバイスや進言ができる人がいるかといった『ガバナンス』が重要になる」と指摘した。
さらに、“女性経営者ならでは”の難しさもある。
婚姻に伴う姓の変更についての調査で、女性経営者に「結婚or経営を承継するのをためらわせる要因になったか?」という問いに30.9%が「結婚をためらった」と回答。また、「経営者として不便・不都合を感じたことは?」という質問には61.8%が「ある」と回答している(一般社団法人 日本跡取り娘共育協会)。
森さんも「選択的夫婦別姓の実現に期待しつつ、いま進めているDX化で仕事のオペレーション化を実現して自分が抜けても会社に負荷がかからない状態になってからだ」と話してくれた。
(『ABEMAヒルズ』より)






