経産省と公安のやり取りとは?

東京地裁(一審)の争点
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━━一審においては「捜査や逮捕は違法」とされたが「輸出規制についての解釈をねじ曲げたか」という争点について東京地裁は「公安部の解釈は不合理とは言えない」として違法性を否定した。この「輸出規制における解釈のねじ曲げ」とは何か?

「輸出を規制する条件に関して『これは(軍事運用にあたるので)ダメ』という明確な定義がなかった。また、輸出規制の法律を運用しているのは経産省であったため、公安部は何度も経産省に『これは輸出規制の条件に当たるのか』と確認していた」

━━公安部と経産省との間にどのようなやり取りがあったのか?

「最初、経産省側は輸出規制の条件にあたるかに関して消極的な意見を述べていた。だが公安部が立件したいということで何度も『こういう法解釈はできないか』というようなやり取りをしていたという。だから原告側は『法解釈をねじ曲げたのではないか』『公安部が独自解釈をして経産省を押し切ったこと自体どうなんだ』と二審で訴えた」

━━東京高裁(二審)で新たに出てきた証拠・証言はあったか?

「大川原化工機側は新たに(公安部の)捜査メモを提出した。それは、公安と輸出規制の法令を管轄している経産省の担当者との詳細な打ち合わせメモであり、そのメモに『公安部長はこの事件は絶対に立件したい。熱くなっているからなんとかお願いできないか』という内容があった」

━━なぜ公安部は強引な手段をとってまで立件を試みたのか?

「一つは警視庁内部での『警察官の欲』だ。つまり立件すれば出世などに繋がるという個人的な欲で立件したというような証言が法廷で出た。さらに大枠で見ると、9.11のアメリカの同時多発テロ以来、生物兵器によるテロは未然に防がなくてはということで、国際的にも経済安保が叫ばれるようになってきた。警視庁としても『経済安保のために輸出規制をしっかりとやっている』というアピールをしたかったという部分もあったのではないか」

━━一審では「公安部は輸出規制に関する法解釈を捻じ曲げたのか?」という点について「公安部の解釈は不合理とは言えない」という結論が出されたが、28日の二審ではどのような判断が下ったのか?

「判決の中では、最初消極的だった経産省の態度がなぜ途中で変わったのか?という部分について踏み込んだ。経産省が『この法解釈でいいよ』と言ったからといって、警視庁が捜査をしていいという合理的な理由にはならないと厳しく指摘している判決となった。一審よりも“踏み込んだ”と言えるだろう。さらに、警察が逮捕して、その後検察官が起訴するが、その検察官についても『法解釈が合っているのか、疑念があるのであれば追加で捜査する余地はあった』として、警察だけでなく、警察の解釈を鵜呑みにした検察官に対しても捜査は違法だったと指摘している」

━━経産省と公安のやり取りについて、判決で触れられた部分はあったか?

「少し分かりづらい表現だが、『経産省の方針が途中で変更され、警視庁の独自解釈を採用する可能性が肯定されたからといって、その独自解釈の合理性が客観的に説明できる状況になったものとも言えず、公安部が独自解釈を前提として逮捕を行ったことの合理性を肯定することはできない』としている」

━━今回の判決を受け、大川原化工機側、一方の国と都の双方の反応は?

「判決後、原告の皆さんが会見で口を揃えて『損害賠償請求をしているがお金が欲しかったわけではない』と話し、『間違えて逮捕して、起訴を取り消したのであれば、謝罪をしなければいけないのでは』と謝罪を求めていた。対して、国はまだコメントが出ていないが、警視庁は『判決を精査して適切に対応する』とコメントしている」

━━国(検察)と都(警視庁)がさらに上告して争う可能性はあるか?

「捜査の違法性の部分と法解釈の部分で、やはり国と都は、裁判の最後に出す書面で『大川原側の壮大な虚構である』とかなり強い言葉で反論していたので、何か大きな動きがない限りは上告するのではないかと個人的には想像している」

━━今回の裁判では、日本の警察制度や司法制度における問題点が指摘されたが、今後の制度改革の中で見直すべきポイントはどこか?

「実は勾留中に死亡した相嶋さんだけでなく、(逮捕・起訴された)皆さんが保釈請求をしてもなかなか保釈されなかったという実態がある。保釈の可否は裁判所が検察官や弁護人の意見を聞いて判断をするが、その判断について誰も検証できない制度になっている。このような裁判でも裁判所の責任を問われることはなかなかない。裁判所はいつも判断する立場だが、自分たちの判断はどうだったのかと省みる機会があってもいいのではないかと思う」
ABEMAニュース解説

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