■天才贋作師と直接対面した当事者「テクニックは素晴らしいが彼は詐欺師」
現在、さらに1つ国内所有の作品が、ベルトラッキ氏による贋作ではないかと言われている。マリー・ローランサン美術館・館長の吉澤公寿氏が3700万円で購入した「アルフレッド・フレヒトハイムの肖像画」だ。20世紀前半に活躍したフランスの女性画家マリー・ローランサン氏によるもので、モデルとなっているフレヒトハイム氏はドイツの画商。ローランサン氏と専属契約を結んでいた人物だ。この肖像画に対しても、ベルトラッキ氏は「自分が描いた」と主張。一方、吉澤氏は贋作であることの根拠が乏しいとして、真作だと主張している。
吉澤氏は真贋が問われている作品について「ローランサンの特徴が表れている。色彩的にも彼女のものと言っていい時代の絵」とし、東京国立近代美術館で研究補佐員を務める由良茉委さんは、真贋どちらの可能性もある前提で「正直わからない。すごくローランサンの特徴を掴んでいる描き方。(贋作だと)疑ってみると色彩や線をシャッと描いているところなど、本当にこの時期のローランサンの作品そのもの。非常によくできている」と述べた。
吉澤氏は、この作品を巡ってベルトラッキ氏と直接、会話もしている。「彼と話したが、僕が思っていた疑問を全部ぶつけても一切答えなかった。絵を描いた証拠を見せろと言っても、それはないという。彼いわく、贋作を売りつけるのがアートだと。彼の売名行為であり、自分が描いた絵を世間に認めさせるための一つの過程として贋作を彼は描いたと言っている。確かに彼はものすごく勉強し、知識もあり、テクニックは素晴らしい。だから彼が反省をして画家になっているのは素晴らしいことだと思うが、彼のことは詐欺師だとしか思えない」。
美術品の真贋について研究する専門家はどう考えるか。東北大学・文化研究学科教授の杉本欣久氏は「『本物を証明する』という証拠をいくら出したとしても、偽物という証拠を1個突きつけられたら、その段階で論理が崩れてしまう。『正しいです』ということをいくら持ってきても、ただ1個の偽物の痕跡があればひっくり返ってしまう」と、真作であることの証明の難しさを語る。「アルフレッド・フレヒトハイムの肖像画」に関しては「やはり本人が自供していること、これは有力な手がかりの一つだ」と語った。
また贋作は、ベルトラッキ氏のように作品を描く者だけでは流通しない仕組みについても触れた。「物を作っても売ることがなければお金にならない。流通を担った人間は必ずいるので、ベルトラッキ氏に関わる共犯者もいる。1人の贋作者がいても流通することはなく、日本の歴史でも100人規模で作られたこともあるし、それくらい贋作を作る場合には人間が関わってくる。かなり巨大な組織が流通させている」とも説明していた。
(『ABEMA Prime』より)

