■母乳信仰に悩んだ母たち
リリーさんは長男出産後、母乳がほとんど出ず、ショックと焦りを覚えた。それでも母乳育児にこだわり、ミルク(完ミ)に移行できなかった。なぜ母乳にこだわったのか。理由は「免疫がつく」「母乳が一番」等のネット情報に加え、母親・祖母から「母乳出てる?」と聞かれても「ほぼミルク」と言えないことがプレッシャーになったためだ。そして、息子に申し訳ないと自分を責め、不眠も重なり「死にたい」と考えるようになった。
自身の経験を「出産前から母乳メインで育てたいと思っていたが、出産後にあまり母乳が出なかった。『栄養は母乳の方がいい』との考えに引っ張られて、予定していた育児ができないというショックや焦りがあり、完全にミルクに移行できなかった」と振り返る。
母乳にこだわった最大の理由は“免疫”だった。「初乳は栄養があると言われるが、その後も数カ月は母親の抗体がつくという。そのためにがんばった。私の母乳のせいで、体が弱くなる可能性があれば、申し訳ない気持ちがある」。
タレントでソフトウエアエンジニアの池澤あやかは、「私も1歳4カ月の娘を産んで、母乳信仰は根深いと感じた。エビデンスがあるため『母乳で育てないと、子どもがかわいそう』となる。『私のせいでこの子はスタートダッシュできない』とも考えてしまう。第2子、第3子になれば雑になるとは思うが、初めての子どもには『ちゃんとスタートしないと』と感じる」と話す。「母乳育児に触れてわかったが、産んでから『母乳にしようか、ミルクにしようか』と迷うのではなく、産む前に知識があった方が良かった」
元経産官僚で慶大SFC研究所上席所員の門ひろこ氏は、「うちには9歳と6歳がいるが、上の子のときは最初に出ず、マッサージで出るようになった。2人目になると雑になり、赤ちゃんの個性も理解できた。ネットで『母乳じゃないとダメ』とあおる投稿があり、産後のホルモンバランスがくずれているときに目に入る。人より神経は太い方だが、『母乳が出ないと母親失格だ』と思ってしまった」と述べる。
生成AI系会社員のハヤカワ五味氏は、「私に子どもはいないが、フェムテック領域で起業してきた中で痛感したのが、親のメンタルやコンディションの影響だ。自分は“毒親”育ちだが、母乳でも母乳でなくても、親が健全でいてくれた方が良かった。こうした論争でメンタルが崩れるのであれば、SNSをやめた方がいい」と考えている。
■専門医がアドバイス 母乳よりも「抱きしめれば育つ」
