■専門医がアドバイス 母乳よりも「抱きしめれば育つ」
日本母乳哺育学会理事長で昭和医科大学教授の水野克己氏は、「母乳にメリットはあるが“母乳信仰”は問題だ」と考えている。「最初はあまり母乳がでず、赤ちゃんの胃袋も小さい。初乳の量は、最初の24時間で10〜20cc程度だ。リリーさんはがんばって母乳をあげたと、自信を持っていい。『妊娠中に母乳をあげたいと思っていても、うまくできない社会やシステムに問題がある』と、学会としても提言しないといけない」。
一方の粉ミルクも、進化が進んでいるようだ。「乳業会社は母乳を目標に、そこに近づけようと、研究を重ねている。母乳をあげられるように、私たち医療者は支援していかなければいけないが、一番の問題は『妊娠中に十分な知識を伝えられなかった』ことだ。出産直後の約3日間が、乳児にとって大切な時期だが、その間にどう医療者が関わるか。母親が責められる問題ではない」と語る。
とはいえ、母乳育児にメリットがあるのも事実だ。「飲み始めと飲み終わり、男の子と女の子でも成分は変わる。家族の誰かが風邪をひいても、そのウイルスが母親の体に入り、母乳を通して子どもに抗体を与えられる。粉ミルクの成分は常に一緒だが、母乳はその時々の子どもに必要なものが出てくる」。
また、「おっぱいを吸う」行為については、「素肌の胸に抱っこしていれば、3カ月くらいまでの赤ちゃんは、必ず自分で吸いに来る。吸わせようとすると、押しつけられた赤ちゃんは嫌がる。しかし、普通に抱っこしていれば、自分で吸い付いて、痛くなく深く吸ってくれる」と解説する。
粉ミルクは、昔は牛乳(全脂粉乳)をベースに砂糖を加えたものが主流で、母乳に含まれる免疫成分も含まれなかった。しかし今は、牛乳由来のたんぱく質・脂質(DHAなど)、炭水化物(ラクトフェリン、オリゴ糖など)、ビタミン、ミネラル等、母乳に近い栄養バランスの成分を配合している。また、粉末状だけでなく液体ミルクなど利便性も向上した。
母乳のみならず、子育てをめぐる“こうあるべき”論は、母親を苦しめている。「無痛分娩でなく自然分娩で痛みを経験すべき」「子どもが3歳になるまでは家にいるべき」「市販より手作りの温かい食事を与えるべき」「小さい子どもを連れて居酒屋に行くべきじゃない」「電車内ではベビーカーではなく抱っこすべき」といったものだ。
なぜ、ここまで母乳信仰が強まったのか。水野氏は「日本人は妊娠中に『母乳で育てたい』と思う人が多い。しかし、だんだん追い詰められていく。母乳を推奨する人には派閥や、それぞれのしきたりがあり、『チョコレートや肉を食べてはいけない』などと言われ、どんどんつらくなる」と、そのプロセスをなぞる。
そして、「もっと自由でいい。健康的なものであれば、何を食べてもいい」と呼びかける。「子どもを抱きしめるところから、育児全体を始めてほしい。母乳をあげられない人がいても、我が子を抱きしめることはできる。いっぱい抱きしめて、声をかけてあげる。それが赤ちゃんの脳を育てる。『母乳で育てると頭が良くなる』とも言われるが、いっぱい愛してあげれば、頭は育つ」。
(『ABEMA Prime』より)

