■巨大国家・中国との落としどころは?

中国共産とのトリセツ
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 宮家氏は「1972年にヘンリー・キッシンジャー氏が作った“あいまい戦略”」を引き合いに出す。「『アメリカが何をするか分からないことが中国抑止になる』という理論だが、それは人民解放軍が弱い時に通用するもので、強くなれば『やってやるぞ』と思いかねない。あいまい戦略は正しいが、その中で鎧(よろい)が見えたりしても良い」。

 バイデン前大統領を具体例に「4〜5回ボケたふりして『台湾防衛する』と言った。あれは意図的な発言だと思う。中国に正しいメッセージを送り、完全なあいまいではないと伝える意味では、高市総理の答弁もその枠に入る。バイデン前大統領は『台湾の防衛』と明言したが、高市総理は同盟国との関係における『存立危機事態』に触れた。踏み外してはいないと思う」との考えを示す。

 今後予想される流れは、“トリセツ”の(4)以降だ。「中国にとって損だ。圧力をかけて、訪日観光客が減っても、一部の人は大変だが、日本としてはやっていける。中国進出している日本企業に手を出せば、『あんな所で商売できない』と対中投資が減るかもしれない。レアアースで圧力をかけても、中国のサプライチェーン外で作る動きが活発化して、中長期的に見れば損だ。ならば、『いい加減にしたら』と思わせる」。

 そこへ至るには、それなりの時間を要するという。「2012年末から安倍第2次政権が始まり、日中が合意できたのは2014年の11月だった。それくらいかかってもおかしくない。合意する内容はないが、『同意しない』ことに同意してもらう。意見が違うことに納得してもらうしかない」。

 2010年に尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の映像を公表した「sengoku38」こと、元海上保安官の一色正春氏は「まず一番にやるべきは、渡航危険レベルの引き上げだ。日本人だというだけで、ホテルに泊まれず、タクシーに乗車拒否される。深圳では日本人男児刺殺事件も起きた」と危機感を募らせる。

 加えて、「ビザの緩和措置を見直し、留学の条件も厳しくする。『大学がつぶれる』と文句を言う人もいるが、留学生が来ないとつぶれる大学は必要なのか。水産物の輸入禁止も、効いているようで効いていない。私は京都に住んでいるが、観光客が減ればうれしい。向こうが勝手に、こちらに都合のいいことをしてくれているから、しばらく静観すればいい。ただ渡航制限だけはした方がいい」と提案する。

 日本側はどのようなカードを切れば良いのか。宮家氏は「非常に難しい政策判断が必要だ。強気に行くのは簡単で、僕も毅然とした態度を取るべきだと思う。ただ中国に4年住んで感じたのは、論理が通用しない、かつ人口15億人の大国と付き合うには、ただ強気・弱気だけではだめで、バランスを保つ必要があること。一色氏の考えには賛成だが、強気で立ち向かえるような相手ではない」と考えている。

 日本から中国へ駐在している人々については、「反日デモが自然発生する国ではない。必ず誰かが組織してやっているため、もし発生したならば、現地の日本人は家族のことを考えなければいけない。ただし、反日デモは、ひとつ間違えると『共産党はけしからん』という反政府デモになるため、彼らは途中で火を消そうとする。中国国内を見ながら、微妙な駆け引きが必要になるだろう」とした。
(『ABEMA Prime』より)
 

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