取材者がみた山上被告とは…検察『無期懲役』求刑 安倍元総理銃撃事件
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安倍元総理銃撃事件の裁判員裁判は18日、全ての審理が終了しました。検察側は「不遇な生い立ちに被害者は関係なく、事件への影響は極めて限定的だ」として、山上徹也被告(45)に無期懲役を求刑しました。

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安倍元総理銃撃事件 15回目公判

裁判の冒頭、安倍元総理の妻・昭恵さんの陳述書が代理人弁護士によって読み上げられました。

安倍昭恵さんの意見陳述
「どんな態度、どんな表情、どんな気持ちで夫の命を奪ったのか。私の目、耳で確認したいと思って被害者参加制度を利用しました。被告が私の目の前で謝罪することはありませんでした。私にとっては政治家・安倍晋三であるとともに、かけがえのないたった一人の家族です。最後に言葉をかわすこともできず、突然、夫を亡くした喪失感は一生消えることはありません」

陳述は山上被告に向けた言葉で締めくくられました。

安倍昭恵さんの意見陳述
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安倍昭恵さんの意見陳述
「私は前を向いて夫の志を継いでいきます。被告の方には、自分のしたことを正面から受け止め、罪をきちんと償うよう求めます」

「生い立ちに被害者は無関係」

続いて行われたのは、検察側の論告求刑です。山上被告が銃撃に使った自作のパイプ銃は、銃刀法が定める『砲』にあたるとして、殺人罪だけではなく発射罪も成立すると主張。多くの人が集まる場所で発射し、不特定多数の人の命を危険にさらしたことの悪質性を強調しました。そのうえで、争点となっていた「生い立ちをどの程度考慮すべきか」については。

検察側の論告求刑
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検察側の論告求刑
「被告の実母が旧統一教会に入信・傾倒して多額の献金を行い、それによって家庭が安息の場所でなくなるなど、被告の生い立ちに不遇な点があるという点については検察官も否定しません。しかし、被告は善悪をきちんと判断できる、40歳代の社会人として過ごしてきました。また、被告の不遇な生い立ちに被害者は無関係です。そのため、情状に大きな影響を与えるべきものではなく、量刑の大枠を変更するような性質のものでもありません」

また、検察側は、過去に著名な政治家が殺害された事件も紹介。石井紘基衆院議員刺殺事件や長崎市長射殺事件の犯人がそれぞれ無期懲役になったことを挙げ、「経緯や動機は異なるが一定の参考になる」と述べました。そして、山上被告に対する求刑は。

検察側の論告求刑
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検察側の論告求刑
「我が国の戦後史に前例を見ない犯行で、被告は真の攻撃対象であると考えていた旧統一教会の高級幹部が来日せず、自らの生活が経済的に逼迫(ひっぱく)してきたことから、急きょ“本来の敵”でも“本筋”でもないにもかかわらず、被害者を単に旧統一教会にダメージを与えるための手段として襲撃して殺害したもので、動機に酌量の余地はありません。本件をきっかけに旧統一教会の解散命令など社会に変化があったものの、著名な政治家に対する暴力により自己の主張を通そうとした行為を正当化する理由にはなり得ません。無期懲役が相当と思料します」

「求刑、無期懲役」その言葉に山上被告は何かをつぶやくと、ガクッとうつむくような仕草を見せました。

「動機の出発点は旧統一教会」

一方の弁護側。最終弁論で「生い立ちは、量刑判断において最も重要視されるべき、犯行動機に深く関わる情状事実」と訴えました。

検察側の論告求刑
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弁護側の最終弁論
「被告の犯行の動機の出発点は、山上家の家族の崩壊の中で将来を絶望して自死した被告の兄の不幸な人生に、被告自身が責任を感じ、一家の崩壊をもたらした旧統一教会の最高幹部を襲撃することによって、何とか旧統一教会に一矢を報いたいということでした」

また、検察が訴える発射罪などについては、山上被告が自作した銃は構造上の理由などから『砲』にあたらないとして、無罪を主張。そして、量刑についてはこう求めました。

弁護側の最終弁論
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弁護側の最終弁論
「有罪部分に基づく懲役刑の刑期は最も重くとも20年までにとどめるべきです。現在45歳の被告について、年齢にして60代半ばまでの時期での社会復帰を許すことにより、彼がその持てる能力と宗教被害に苦しんだ経験を生かして、何がしか、まっとうに社会に貢献する機会を与えてください」

公判の最後、裁判長から「述べたいことがあれば」と問われた山上被告。頭を小さく横に振り、座ったまま、その場で答えました。

山上被告
「ありません」

取材者がみた“山上裁判”

ABCテレビの司法担当記者として山上被告の裁判を取材してきた、報道ステーションの山崎成葉ディレクター(※崎=たつさき)に聞きます。

山崎成葉ディレクター
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(Q.銃撃事件の発生直後から18日の裁判まで取材をしてきて、どんな印象を持ちましたか)

山崎成葉ディレクター
「山上被告に心境の変化を感じました。1つは教団に対してです。事件後は『家族をめちゃくちゃにしたのが統一教会だ』と発言していましたが、公判では『(恨んではいるが)以前ほど強くない』と発言しています。もう1つは母親に対してです。事件後、山上被告は1度も接見しませんでしたが、母親が証人として出廷したことについて公判で問われると『非常につらい立場に立たせてしまった』と述べ、複雑な感情をのぞかせました」

(Q.山上被告本人の裁判での受け答えや態度については、どう感じましたか)

山崎成葉ディレクター
「弁護側、検察側いずれの質問に対しても有利不利を考えず、率直に答えている印象を受けました。時には10秒、長い時では30秒ほどの沈黙をして、考え込んでいるような様子がよく見られました。それは質問の意図を考えながら、正確に事実を答えようとしているのではないかと感じました。山上被告にしか語れない動機・心情、当時の認識がありますので、多くの事実が出てきたことには意味があると思います」

“犯行動機”と“生い立ち”の関係は

15回にわたって行われた公判の主な争点は、山上被告の犯行・動機に“過酷な家庭環境”がどう影響したか。これを量刑判断でどの程度考慮するかでした。

生い立ちについて
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生い立ちについては、山上被告の母親が旧統一教会に入信し、家庭が崩壊したことが明らかになっていましたが、検察は18日、生い立ちについて「被告は長年にわたって社会人として家族から独立して生活していた。40歳代の社会人として生活する中で規範意識、法律を守る意識を十分持っていた」としました。

動機については
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そして、動機については「個人の経済的逼迫から、このままでは旧統一教会への襲撃ができなくなると焦り、その代替として急きょ、襲撃対象を被害者(安倍元総理)に変更した」などとして、情状酌量の余地はなく、無期懲役を求刑しました。

公判15回…検察と弁護側どう見た

(Q.検察側はこれまでの公判をどう振り返っていますか)

山崎成葉ディレクター
「ある検察幹部を取材すると『自分が思い描いていたものが思い通りいかない中で暴発した犯行。安倍氏を狙った必然性は感じられなかった』と振り返っていました」

過去に政治家が襲撃された刑事裁判
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検察は、無期を求刑した根拠について、過去に政治家が襲撃された刑事裁判を一定の参考になるとして挙げました。

1件目は2002年に起きた石井紘基議員殺害事件。2件目は2007年に起きた伊藤ー長長崎市長殺害事件。この2件とも無期懲役となった判例から、検察は「過去の事案の量刑との均衡を考慮しても、不遇な生い立ち、その他の被告に有利な事情を最大限考慮してなお、無期懲役より軽い刑を選択する余地がないことは明らか」としています。

弁護側
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一方、弁護側は、生い立ちについて「被告人の未成年の時からの悲惨な生活上の経験は、本件犯行と一直線に結びついている」、安倍元総理を狙った動機については「旧統一教会に最も関係の深かったと認識されていた安倍元首相に標的を向けた」、そのうえで「量刑はあまりにも重すぎる。今後の立ち直りが十分に期待できる。刑期は最も重くても20年」と主張しています。

山崎成葉ディレクター
「18日の裁判を前に、弁護側に取材しました。弁護側は『安倍氏は突発的に対象としたわけではなく、以前から対象の1人として被告人の頭の中にあったことが、本人の話から十分に立証できた」としています」

取材者がみた山上被告とは

(Q.今回の事件では、山上被告の思考回路についても焦点があたりました。どうみましたか)

山崎成葉ディレクター
「山上被告は、安倍元総理が応援演説で奈良を訪れると知った時のことについて『偶然とは思えない気がした』と裁判で述べていました。こうした思考について、検察と弁護側双方の専門家証人が『偶然の出来事に意味を見出す、運命づけて考えるという独特の思考を、母親から影響を受けてもっている』という分析を証言していました。18日の論告でも、この思考が最終的な意思決定を一定程度、後押ししたと指摘していました」

(Q.情状酌量の考慮について、山上被告自身はどうみていると感じましたか)

山崎成葉ディレクター
「一般的に情状酌量が焦点になる裁判では、被告人自身がいわゆる“反省の言葉”を述べ、それが判決で考慮されることがあります。今回、山上被告は、『安倍元首相が亡くなる可能性があることを行ってしまったことは間違いだった』と話し、遺族への謝罪も述べましたが、“反省の言葉”は口にしませんでした。18日も最後に発言する機会がありましたが、『ありません』と一言述べました。裁判の中では反省の言葉は最後まで述べられないまま結審をしたことになります。裁判で、終始、有利不利を考えない様子で、率直に話をしてきた山上被告ゆえの考えだったのかと感じました」

判決は来年1月21日に言い渡されます。

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