
ウクライナのゼレンスキー大統領はクリスマス・イブの24日、「ロシアには我々の心を支配することはできない」と国民に語りかけました。また、アメリカ側とまとめた20項目の和平案を公表しましたが、いまだ様々な点でロシアと隔たりがあります。平和な新年を迎えるには一筋縄ではいかなさそうです。
【画像】休戦もなく戦時下のクリスマス…“ウクライナ和平”進展は『20項目の和平案』公表
休戦もなく 戦時下のクリスマス

大きな都市でも停電で、街に明かりはわずかしかありません。それでも人々は自家発電で精いっぱいの飾りつけをし、祈りを捧げます。

ウクライナ市民
「電気が使えるのは1日に3時間だけです。その間に全ての家事をしなければなりません。それでも私たちは時間を見つけて、力を振り絞って元気を出します。お茶をしたり笑い合ったりして、一日生き延びたことを感謝します」
戦時下のウクライナ。クリスマスといえども、その光景は他の国々と大きな乖離(かいり)があります。

戦死した兵士の妻(34)
「皆さんがクリスマスに家を飾るように、私たちもここ(お墓)を飾ります。残念ながら彼はもう家にいません。だから私たちは、ここに来てクリスマス飾りをするんです。もうこれしかないんです」
ウクライナ側は24時間のクリスマス休戦を呼び掛けていました。しかしロシアは拒否。前線の兵士は電話で家族との時間を過ごします。
兵士
「やぁ」

妻
「こんばんは」
兵士
「もう夕食を始めた?もうプレゼントもらった?」
妻
「昔の人たちのように、ろうそくで祝っているわ」
兵士
「そのようだね」
妻
「ウクライナに栄光あれ!」

息子
「英雄に栄光あれ!」
ロシア「重要な変更」求める意向か

安息の時は訪れるのか。ウクライナは20項目からなる新たな和平案を公表しました。ウクライナの主権を再確認、という項目から始まり、安全保障については「アメリカ及び欧州の署名国は“NATO5条に準じた”保証を与える」としています。5条は集団的自衛権のことです。
また、領土については2つの案が提示されました。
選択肢1
「ドンバス地方は合意が締結された時点を境界線とし、国際部隊による監視を受ける」
選択肢2
「ドンバス地方に自由経済圏を設定し、非武装化」
ただ、この案で合意とはいかなさそうです。ブルームバーグはクレムリン中枢に取材した話として、このように報じています。

ブルームバーグ
「ロシアは重要な変更を求める意向で、ウクライナの軍事力に対する制限を強化することなどが含まれる」
トランプ大統領は24日、クリスマス恒例の子どもたちとの電話です。

アメリカ トランプ大統領
(Q.メリークリスマス。トランプさん)
「ありがとう。君も素敵な新年を」
(Q.クッキーを残しておかないとサンタさんは怒るかな?)
「怒らないだろうが、がっかりするだろうな。サンタはちょっと“肉付き”がいいんだ。分かるかな?ポッチャリ気味なんだ」
クリスマスまでの停戦を要請していましたが、今はロシアの返事待ちです。

アメリカ トランプ大統領
「この電話も楽しいが、中国やロシアとウクライナの問題に戻らないと」
「ウクライナの平和を祈る」
ロシアによって本格侵攻されてから、間もなく4年が経とうとしています。ゼレンスキー大統領はこの日。

ウクライナ ゼレンスキー大統領
「戦争は私たちを変えました。今では家をどう飾るかよりも、どう守るかが重要になっています。クリスマスの音楽を聞くと幸せになりますが、頭上のドローンやミサイルの邪悪な音がしなければ、より幸せになる。私たちは皆、願いは同じです。『彼が死にますように』と誰もが心の中で祈るでしょう。しかし、私たちが神に祈る時、もっと広い意味で願い求めるのです。私たちはウクライナの平和を祈ります」
“領土問題”めぐり2案提示
ウクライナのゼレンスキー大統領が提示した、20項目の和平案。その主な内容を見てみます。

【安全の保証】
・NATO加盟国に準じた『安全の保証』
・平時の兵力は80万人を維持する
領土問題に関しては、2つの案が示されました。
【領土問題】
(案1)東部4州を現在の前線で凍結する案
(案2)ドンバス地方に潜在的な“自由経済圏”を設置し、“非武装地帯”を設置する案
ゼレンスキー大統領は「譲り渡す土地と同じ規模でロシア部隊も撤退する必要がある」としていますが、どの地域から撤退するかは明言していません。また、いずれにせよ国民投票による承認が必要だとしています。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.ウクライナから新たな案が示されました。領土をめぐる部分をどう見ますか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「今回、2つの案が出てきていますが、ウクライナ側は前線で凍結する案を主張しているとみられています。2つめの案は、ドンバス地方に自由経済圏を設定し、非武装化する案。当初、アメリカは『ロシアに割譲しろ』と要求していたと言われていますが、それが現在は非武装地域ということで、ウクライナ側が軍を撤収させて、自由貿易地帯にするとアメリカが主張しているとみられています。ポイントは、ドネツク州にある“要塞ベルト地帯”という、ウクライナが10年以上築いてきた強固な防衛拠点です。これをウクライナが手放してしまうと、将来的なロシアの再侵攻が容易になってしまう。ロシアからすると、今の進軍スピードで要塞ベルト地帯を含めた未制圧地域を軍事制圧しようとすると、まだ何年もかかるので、できれば交渉でここを手に入れたい。要塞ベルト地帯をめぐる、ウクライナとロシアの攻防。両者共になかなか引き下がることができません。ここは論点として引き続き大きく残ると思います」
ウクライナへの全面侵攻が4年目となった今年は、トランプ大統領の和平に向けた動きが目立ちました。

2月:ホワイトハウスで『米ウ首脳会談』が“決裂”
4月:教皇フランシスコの葬儀に先立ち、バチカンで米ウ首脳会談
5月:ウクライナ・ロシアの“直接協議”が約3年ぶりに実施
8月:米ロ首脳会談
9月:米ウ首脳会談
10月:米ロ協議
11月:米ウEU協議。アメリカが提示したロシア寄りの案を修正
12月ウクライナが修正した20項目を公表
(Q.常に中心で動いていたトランプ大統領をどう見ていますか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「今年は色んな動きがあったので、早期停戦に向けた動きが進展しているのではないかと、我々も思ってきました。しかし、領土問題やウクライナの安全の保証をめぐっては、まだアメリカとウクライナの間でもすり合わせが完全にできていないし、ロシアも今回の案に修正を求めてくるとみられ、意見の隔たりが大きいというのが現実だと思います。ただ、20項目に論点が集約されてきたのと、残された大きな論点が、領土とウクライナの安全の保証であることが分かったという意味においては、進展があったとも言えます。しかし、トランプ大統領が両者の調整をうまくやれるかどうか見通せない段階です」
(Q.和平合意が山の頂上だとするなら、今は何合目あたりですか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「トランプ大統領からすると、ゼレンスキー大統領、プーチン大統領を早く山頂まで登らせたいと思っていると思います。ただ、実際はようやくゼレンスキー大統領も登山を始めた段階。プーチン大統領は軍事侵攻を断念する様子がないので、登山する素振りを見せながら、まだ山登りも始めていない段階ではないかと思います。いずれにしても、まだまだ山頂までの実りは険しいと思います」
(Q.トランプ大統領がカギを握る構図は変わりませんか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「そうですね。トランプ大統領がいたからこそ、ここまで論点整理ができてきました。トランプ大統領が来年以降、ウクライナ・ロシア戦争の終結に対する関心がどの程度、持続していくかが次の大きな焦点になると思います」

(Q.戦争は丸4年近くになっています。来年は大事な年になりますか)
防衛省防衛研究所 兵頭慎治さん
「まずはゼレンスキー大統領、プーチン大統領を交えた3者会談が実現するかどうか。今までは個別の協議を積み重ねてきただけなので、ウクライナとロシアの根本的な歩みが見られないまま時間が過ぎてきました。来年はもう1つ、トランプ大統領が中間選挙を控えているので、より内政問題にシフトしていく可能性があります。そうなってくると、ウクライナとロシアの和平交渉に、トランプ大統領が関心を持ち続けながら仲介に臨んでいくかどうか。そのあたりも注目されます。ただ、いずれにしても前線ではこう着した状態が続き、両軍の消耗戦が続き、ドローンやミサイルを用いた両国の攻撃は続くので、一刻も早い終結が望まれます」
