■今、世界でHIVはどうなっているのか

HIV感染・エイズ患者数
拡大する

 2024年のHIV感染・エイズ患者をめぐる状況(エイズ動向委員会「令和6(2024)年エイズ発生動向年表」)は、新規報告数が(HIV感染・エイズ患者)994人で、内訳は男性937人(94%)、女性57人(6%)だった。感染経路は、異性間の性的接触160(16.1%)、同性間の性的接触587(59.1%)、静注薬物使用1(0.1%)、母子感染0(0.0%)、その他84(8.5%)、不明162(16.3%)となっている。

 感染症医療を専門とする国際医療福祉大学の田沼順子教授は、台湾の事件について「現場にいた全員に検査が必要なわけではなく、『不安ならいつでも相談できる』という発信だった。台湾当局は、過度に不安をあおりたくないため、『感染リスクは高くても10分の1程度』と言っている。それを0にする予防薬を届けたいとする発信だ」と説明する。

 背景として「そもそもHIVは日常生活で感染しない。コンドームなしの性交渉や母子感染、注射針の打ち回しといった特定の状況で感染する。今回は刃物による負傷者が多く、大量の血液を受けた人がいるかもしれないとして、台湾当局は対応を決めた」という。

 そもそも、HIVとエイズはどう違うのか。「HIVは病原体の名前だ。感染してしばらくたつと、免疫がおかされて、通常では起きない日和見感染症が起きる。これがエイズだ」。日和見感染症の例としては、「重症なタイプの結核や、免疫が落ちた時に発症するニューモシスチス肺炎」を挙げる。

 HIV感染者の推移は「2013年をピークに減っていたが、そこにコロナ禍が襲った。通常は保健所で匿名の無料検査を受けられるが、コロナ対策に割かれ、検査の普及が滞った。検査件数は戻りつつあるが、コロナ前の4分の3程度と言われる。おそらくその影響もあり、過去2年間、感染者数は増え続けている」という。

 最近では体調不良で検査したところ、“いきなりエイズ”だとわかるケースも、33.4%と増加している。「3割はとても高い。リスクがあると思った人が、気軽に検査を受けられる状況づくりが大事だ。病院でも『性行為で感染した』とは言いにくい。保健所はトレーニングを受けた人がいるが、性感染症や性行為をタブー視や偏見で見なくする努力が必要だ」。

 検査を受けていないが感染している可能性が高い人は、どの程度いるのだろうか。「エイズ対策の重要な指標で、日本でも推計を試みている。10年前の推計では、全感染者の9割弱しか診断できていない状況だった。正確な数字は後になるが、今はそれより進んでいるだろう」。

 約20年前にHIVに感染した福正大輔さん(43)は、「性行為をした男性がHIVと診断された。相手は僕としか性行為をしてこなかったため、『あなたもたぶんHIVだから』と病院へ行き、2回の検査で感染が確定した」と振り返る。

 24歳で感染がわかり、「薬を毎日1錠服用している。それにより免疫が年々高まり、エイズを発症することなく健康に生きている」と語る。「1カ月で25万〜30万円程度の薬と言われるが、国の助成により2500〜3万円の自己負担で服用できている。特に大きな体調不良を感じたことはないが、発熱や下痢はしやすかった」。

■男性の感染者が大半 早期発見・治療でコントロール可能に
この記事の写真をみる(4枚)