奥多摩「玉堂美術館」枯山水庭園と日本画巨匠が描いた四季の水
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 横山大観と並ぶ日本画の巨匠で、日本の原風景を描いた川合玉堂。晩年を過ごした奥多摩の美術館で、世界が認めた枯山水の庭園と玉堂の意外な素顔に迫ります。

【画像】川合玉堂の空気遠近法とは?

玉堂美術館と枯山水の名庭園

川合玉堂
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 背筋を伸ばし、描く作品と向き合うのは、近代日本画の巨匠・川合玉堂。日本の美しい田園風景や人々の暮らしという、見た者誰もが思い描く懐かしい風景を描きました。

「鵜飼」
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 そんな玉堂が晩年を過ごした奥多摩の御嶽にある「玉堂美術館」は、絵を指南していた香淳皇后や地元の人々、全国のファンなどの寄付によって、玉堂が亡くなって4年後に建てられました。

 今回は玉堂の作品はもちろん、注目したいのは都内では珍しい枯山水の美しい庭園。この庭園の楽しみ方を、玉堂のひ孫である小澤順一郎館長に教えてもらいます。

荒井理咲子アナウンサー
「どういうふうに見たらいいですか?」

枯山水の庭園
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小澤館長
「お庭として面白い。あるいは美しいというのもありますけども、この枯山水の白砂は多摩川の流れなんです。ここから多摩川は見えないけれども、多摩川の流れは耳に入ってきます」
「そうすると、ここが多摩川のほとりに立っている状態になりますよね。そういうしゃれが含まれています」

 この庭園を設計したのは、吉田茂や田中角栄など歴代総理邸宅の庭園などを手掛けた中島健です。多摩川を表現した白砂利に、大きめの玉石を粗く敷いて入れ子になっている延段。大小10個の石が見事に調和した、この庭園のテーマは「無限」です。

 なんとこの庭園は、アメリカで出版されている日本庭園専門誌の「2024年日本庭園ランキング」で、1000以上の候補地から7位に選ばれるほど美しい庭園として有名なんです。

 ここで、庭園恒例の額縁を使った絶景スポットを館長と探すことにしました。

小澤館長
「紅葉が近景、庭の奥行きが広がっていく。これはまさしく日本画で玉堂がよく描いたシチュエーションそのものですね」

絶景スポット
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荒井アナ
「奥をやっぱり強調するんですね。美しいですね」

 それでは、玉堂が描く四季折々の風景を楽しんでいきましょう。

新年にふさわしい一枚と「空気遠近法」の秘密

 最初に紹介するのは、新年にふさわしいおめでたい作品です。

波涛朝陽
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小澤館長
「これはお正月用のおめでたい絵です。これを見て今年も明けましておめでとう。今年もいい年になりますようにと。勢いもあるし」

荒井アナ
「確かに晴れやかな気持ちになりますね。よっしゃ、がんばろうっていう」

小澤館長
「そうですね。波の砕けているところとか、非常に力強い」

荒井アナ
「一年の始まりにぴったりですね」

小澤館長
「逆にちょっと日常的じゃないですね」

 こちらは「磯の朝」という、玉堂が得意とした景色を俯瞰で切り取った作品です。

荒井アナ
「こちらは上から見下ろしていて、特徴のある」

「磯の朝」
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小澤館長
「そうですね。実際にこの場に立って見ているわけじゃなくて、こうやって上から見たらこうなるだろうなと思って描いている。空気遠近法の空気の厚みで奥行きを出している。手前の松の木が迫ってくることで、奥に広がりが出る」

空気遠近法とは?
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 空気遠近法は、遠い景色になるほど対象物が淡く霞んで見える、大気が持つ性質を真似た表現法です。風景を実際に目で見るように写実的に描き、リアリティーを感じる玉堂の作品ですが、実は描いた地方や場所などは明確ではありません。

荒井アナ
「玉堂さんの絵に出てくる場所って、どこも本当に素晴らしい場所ですけど、実際に日本各地にあった場所なんですか?」

小澤館長
「玉堂の頭の中で作り上げた景色ですね」

 玉堂はこのように語っています。

「洋画は自然をそのまま絵にするが、日本画はそれを作って絵にするのである。だから日本画は一つの場所を絵にするよりも、違った多くの良い場所を集めてそれを継ぎ合わせて、一つのまとまった良い絵をこさえることが多い」

「構図は自分の好きなように作れる」
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小澤館長
「画家は画室で描きますよね。画室で描く時に、その実際の景色がそこにあるわけではないので、頭の中にあるイメージをその紙の中に落とし込む。構図は自分の好きなように作れるので、非常にバランスの良いものができます。実物よりもはるかに日本的な情緒が伝わってくるのかなと思います」

水を描くため…
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 最高の風景を描くために全国各地の風景をスケッチした玉堂。そのスケッチの画力は10代のころから卓越していました。水を描くために、奥多摩の河原で川の流れをずっと眺め続けていることもあったのだそうです。

四季の水を描く「水四題」 隠された遊び心とは?

「水四題」
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 そんなスケッチと実際の作品の違いがよく分かるのが、「水四題」という四季の水の様子を描き分けた作品です。

 「飛燕」は春の陽光に照らされてやわらかく流れる水、「河鹿」は勢いよく流れる夏の清流、「せきれい」は岩間のせせらぎと濡れた岩に張り付くモミジの葉で秋を表現。「ひたき」の筧から落ちる水の流れは厳しい寒さを思い起こします。

写実的な写生
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小澤館長
「写生は非常に写実的に描かれていましたが、躍動感とかは特に伝わってこない。こちらは自然界にある鳥が生き生きとしている様子が描かれています。つまり、写生を描いてないと、作品が描けないということですね」

荒井アナ
「自分の絵に組み込む時に応用するために」

絵に遊び心を加える
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小澤館長
「そうですね。鳥じゃないのが一つあって、これはカジカガエルなんです。だけど、ぼーっと見るとカエルがいるのが分からない。あ、カエルがいるって見た人が発見した時にとても楽しい。ちょっと遊びが入っていますね」

 絵に遊び心を加える巨匠は、一体どんな人柄だったのでしょうか。

小澤館長
「一見固そうな。それで皇后陛下の絵の先生をさせていただいていた。非常にユーモアがあるというか、駄じゃれとかそういう話はいくつも残っています」

 「宮本武蔵」や「三国志」などを執筆した、日本を代表する小説家・吉川英治とのこんなエピソードがあります。

小説家・吉川英治とのエピソード
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小澤館長
「吉川英治と一緒に電車に乗っていて、玉堂が『吉川さん、宮本武蔵は子どもがいたのかね?』と聞くわけです。吉川英治が答えようとした時に、電車が武蔵小金井駅に入るわけ。で、駅のアナウンスが武蔵小金井、武蔵小金井(むさし 子がねぇ)と言って笑ったという話です。一生懸命考えてたんでしょうね」

香淳皇后に絵を指南

 こちらは数ある玉堂作品の中でも傑作と名高い「峰の夕(みねのゆうべ)」。この作品は実際の風景が描かれています。

実際に山梨にあった景色
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小澤館長
「これは実際に山梨にあった景色。それを見たあまりの美しさに心を奪われて、急いで家に帰って描いたと言われております」

荒井アナ
「珍しく、実際にある場所をそのまま描いたということは、気に入った構図・場所なんですね」

小澤館長
「全く同じ構図では絶対になくて。ここに人がいますけど、人は絶対いなかっただろうし。小山のような丘のようなものがあったかどうかも、ちょっとよく分からないけれども。やっぱり絵全体の構図を作るうえで、描き足したり引いたりはしていると思うんです」

玉堂の没後
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 玉堂は戦前から香淳皇后の絵の先生をしていました。玉堂の没後に、美術館は開館してすぐ、昭和天皇・香淳皇后がご訪問されるほどでした。孫の手記によると、香淳皇后の絵の先生だということを家族には一言も言わなかったそうです。

(「グッド!モーニング」2026年1月6日放送分より)

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