■アメリカ、中国、ロシア それぞれの動きは

モンロー主義
拡大する

 早稲田大学デモクラシー創造研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏は、「アメリカはモンロー主義のもと、グリーンランドから南北アメリカ大陸までを自分の影響圏とした上で、他のことに対処することが基本的な考え方だ」と説明する。

 一方で、「しかしオバマ政権やバイデン政権時代に、中国やロシアに侵食され、中南米に左派系の政権が多くできた。それをトランプ政権はひっくり返そうとしている。ベネズエラのマドゥロ大統領拘束は、『やるか、やらないか』ではなく『いつやるか』の問題だった」と見る。

 国際政治学者で筑波大学教授の東野篤子氏は、「トランプ氏は2024年からグリーンランド獲得に意欲を見せてきたが、『まさか』と思った人も多い。デンマークはNATO(北大西洋条約機構)加盟国で、NATOはロシアや中国から悪さされた時に、アメリカが守ってくれる組織だ。アメリカが加盟国の領土を求めるのは前代未聞で、NATOの意味が分からなくなる」と語る。

 そうした状況下でベネズエラに軍事作戦を行ったため、「ヨーロッパの意識は、ビフォー・ベネズエラと、アフター・ベネズエラで全然違う。やりかねないなら、どうやってトランプ氏を説得すればいいかだが、説得しても今のところ効果がないため、危機意識は高い」とする。

 グリーンランドについては、「トランプ大統領が占拠しないとできないことは何一つない。デンマーク政府は何年も『開発したいならどうぞ』と言ってきたが、やってこなかった。レアアースの共同開発や、防衛体制の強化を提示してきたが、全部ダメになっている」という。

 ヨーロッパ諸国は、中国をどう見ているのか。「2010年代と2020年代ではまったく風景が異なる。2010年代中盤までは、どこが一番中国と仲良くなれるかを競っていた。ドイツのメルケル政権は中国の投資を進め、イタリアも中国に肩入れしていた」。

 また、「“シックスティーン・プラスワン”というスキームで、EU加盟国の一部と、EUに入れず経済的に低迷している16カ国を混ぜて、『この仲間には中国が大型投資をする』と言っていた。しかし、いざやってみると、環境破壊や約束違反があり、2019年あたりから期待されなくなった」と解説する。

 そして、「コロナ対応で信頼されなくなり、ロシアのウクライナ侵攻に味方したことで、信頼は完全に失墜した。ただ、いまヨーロッパ経済は脱ロシアを進めているが、今の経済力で脱中国はできない。そのため、ロシアとは全面対決するが、中国は怒らせないように、貿易赤字を何とかしたい。仲良くしようと思っているが、信用はできない状態だろう」と語った。

 デンマークの現状は、「中国との関係には悪い印象がなく、一番の脅威となるのはアメリカだ」と指摘する。「トランプ政権が始まってから、アメリカとヨーロッパの関係も悪く、グリーンランドを取り合っている状況が、中国としてはおいしい」。

 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授の服部倫卓氏は、中国とロシアの関係について、「国際的に孤立しているロシアにとっては、貿易してくれるだけでも、ありがたいパートナーだ。ただ昨年、両国間の貿易が顕著に落ち込んだ。アメリカの二次制裁が効いてきたと思われ、習近平政権はロシアを見捨てないのが基本姿勢だろうが、企業レベルではアメリカの制裁を恐れて、取引を控える動きは広がっている」と話す。

 こうした背景はありつつも、「中国でも省によって、ロシアとの関係に温度差がある。ある地域の大手銀行が取引を控えると、東北地方の小さい銀行が『チャンスだ』と取引を始める。中国も一言では語れない」という。

 中国出身のジャーナリスト、周来友氏は「もともと中国は、ロシアを信用したことがなく、全面的に支援するわけがない。ウクライナ侵攻は、中国にとって都合がいい。石油や天然ガスを買っているが、中国への売価はインドに売るより高い。その辺も中国にはおもしろくない。ロシアに裏切られ、国土を大量に持っていかれたことも忘れられない」と、その国民感情を明かす。

■混迷する世界情勢、日本の立ち位置は
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