温泉守る“湯守”雪山で過酷作業 クマ痕跡、硫化水素ガス…例年にない“異常事態”も
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 福島県二本松市。1200年の歴史を誇る岳温泉で一番多くの温泉客が集まるのが「ミルキーデイ」。普段は無色透明な温泉が、この日はお湯が真っ白に!

【画像】なぜ、源泉と温泉街が8キロも離れている?

 その裏側には、過酷な現場に挑み続け温泉を守る職人「湯守(ゆもり)」たちの姿が。しかし今年は、例年にない“異常事態”も発生…果たして、歴史ある温泉を守ることはできるのでしょうか?湯守たちの奮闘を追跡しました!

週一度の“ミルキー温泉”

1200年の歴史を誇る温泉郷
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温泉客
「いやぁ、最高ですよ」

 福島県二本松市にある1200年の歴史を誇る温泉郷「岳温泉」です。

「美肌の湯」としても知られている
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 お湯は全国でも珍しい「酸性泉」。殺菌効果が高いとされ「美肌の湯」としても知られています。

温泉客
「雪景色がいい場所なので、雪見風呂をしたいなということで」

 そんな岳温泉で一番多くの温泉客が集まる“特別な日”があるといいます。

週に一度お湯が白く濁る日
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東京から来た温泉客(70代)
「きょうは1週間に一度の“ミルキー温泉”」

温泉客(50代)
「普段は透明なんですけど、“ミルキーデイ”の時は真っ白になる」

 無色透明な温泉が、みるみるうちに真っ白に。岳温泉では週に一度お湯が白く濁る日を「ミルキーデイ」と名付け、多くの客がこの日を楽しみにやってきます。

温泉客(50代)
「成分の濃い温泉を浴びられて、こういった白い温泉が好き」

 白く濁った温泉は通常よりも温泉成分が濃いそうですが、客たちを魅了する“ミルキー温泉”の裏側には、過酷な現場に挑み続ける男たちの姿がありました。

「湯守」過酷作業

湯守と呼ばれる職人たち
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 お湯が白くなるおよそ5時間前の午前7時。

リーダー 武田喜代治さん(74)
「多分(風速)10メートル超えている。立っていて飛ばされるくらい」

 向かったのは、温泉街の奥にそびえる安達太良山。湯守と呼ばれる職人たちです。リーダーはこの道24年の74歳、武田さん。そして、最年長75歳の遠藤憲雄さんらベテラン4人です。

武田さん
「午前10時までに(源泉に)着きたいのが現実なんです。暗くなる前に降りたいんでね」

雪は踏み固められていないため…
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 向かうは、安達太良山の頂上付近です。しかしこの日、日本列島には強い寒波が…。大荒れの雪山での作業は、困難を極めました。

湯守歴10年 矢吹梓さん(46)
「雪たまったな。深い深い。よいしょ」
「おととい、きのうで吹きたまった雪がたくさんあったから、ひざくらい(の高さ)だね」

 前日に降った雪は踏み固められていないため、前に進むだけでじわじわと湯守たちの体力を奪っていきます。

 この雪山を上った先には、一体何があるのでしょうか?

温泉が流れるパイプ
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武田さん
「この下に温泉管が通っていて、温泉管は近道している」

 道の下を通るのは、温泉が流れるパイプです。

8キロ離れた安達太良山の山頂付近から…
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 実は、岳温泉の源泉は温泉街からおよそ8キロ離れた標高1700メートル、安達太良山の山頂付近。そこからパイプを通ってお湯が運ばれています。

温泉成分がパイプの中に詰まりやすいため、清掃が必要
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 しかし、山頂付近は傾斜がなだらかなため、温泉成分がパイプの中に詰まりやすく、お湯が流れなくなる恐れが…。それを防ぐため、週に一度、湯守たちが山頂付近にまで登り、パイプの中を清掃しなければいけないのです。

 しかし、雪山はただ上るだけでも一筋縄ではいきません。

急斜面を登り終えると、冷たい吹雪にさらされる
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武田さん
「(足を)引きずっていくと、やっぱりくたびれるんだよ。」

遠藤さん
「これから、きついからな~」
「(Q.これからですか?)これからきつい」

 雪が降り積もったことで道幅が狭まり、人1人がようやく歩ける程度に。急斜面を登り終えると、今度は風を遮る木々が少なくなり、冷たい吹雪にさらされます。

今年の山に異変…クマ出没

 ここで、湯守たちの目にとまったのは…。

クマが出没したとみられる痕跡も
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遠藤さん
「これ」
「見てみろ。クマの爪痕」

武田さん
「(クマは)今まではそばには出てこなかった。登山道までは。今はどこでも出てくるようになった」

 クマが出没したとみられる痕跡も…。

武田さん
「(クマが)座った跡。餌(えさ)食べる時に場所を作っているの」

湯守たちがクマと遭遇した時の様子
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 去年11月、クマは実際に湯守たちの目の前にも現れました。

武田さん
「ここの下だった。でかいクマが」
「(Q.どれくらいの大きさ?)多分(体長)120センチではきかない。親グマだと思った」

 武田さんら湯守たちがクマと遭遇した時の映像です。源泉での清掃作業を終え、下山しようとしたところ、目の前に現れたといいます。

武田さん
「クマが(木を)下りてから、どっち行くか心配で目を離すわけにいかない。みんなの安全第一だから、クマよけのスプレー、いつも持ってる」

なぜ?目的地付近に1台の車

源泉近くに置かれた車
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 登山開始から約2時間。標高が上がるにつれ、気温もどんどん低下。午前10時ごろ、雪の深さと寒さで百戦錬磨の湯守たちもすっかり疲労困憊(こんぱい)の様子。

 すると、ようやく温泉街から8キロ離れた源泉近くに到着。そこには、ポツンと置かれた1台の車がありました。

 すぐには作業ができず、登山で冷えた体を温める必要があります。

 夏の間に車を運んでおいて、一時的に寒さをしのぐ場所として利用しているのです。

一時的に寒さをしのぐ場所として利用
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遠藤さん
「(寒さが)ひどい…ひどい…」

 寒さをしのぐ休憩場所がないと、低体温症になる危険も…。

遠藤さん
「あしたも、(別の)仕事だぞ。まいった」
「光雲閣(温泉旅館)を改築してるから、これの手伝い」
「(Q.また体力を使う作業?)当然だべ」

武田さん
「職人さんだから」

危険と隣り合わせの清掃作業

源泉が、8キロも離れている理由
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 そもそも、なぜ源泉と温泉街が8キロも離れているのでしょうか。

 かつては源泉のすぐそばにあった温泉街ですが、江戸時代の土砂災害で宿舎が全滅。さらにその後、2度にわたって移転先でも大火事によって壊滅的な被害を受けました。

 そのたびに源泉から遠ざかるように場所を変え、1906年に源泉から8キロ離れた現在の岳温泉に移転したのです。

点検口が全部で20カ所
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 数々の苦難を乗り越えてきた岳温泉を守るべく、湯守たちはパイプの清掃に。危険と隣り合わせの作業が始まりました。

 温泉をふもとまで送るパイプには点検口が全部で20カ所。しかし、雪に埋もれて全く見えません。

点検口の目印
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矢吹さん
「5メートル50センチの竹ざお、まだ出てますね。2メートルくらい埋まっていますね」

 点検口の目印である竹ざおを頼りに、雪を掘り進めていきます。

矢吹さん
「ここ点検口」

危険な空間
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 すると、温泉の熱によって雪が溶けてできた空間が。この空間こそが危険だとリーダーの武田さんは指摘します。

武田さん
「温泉で一番危ないのはガス。ガスはとても強くて硫化水素で。(大量に)吸うと助からない」

作業には細心の注意が必要
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 火山ガスの一種で有毒な硫化水素。温泉熱で溶けた空間にたまりやすく、作業には細心の注意が必要です。

武田さん
「ほかの温泉地で(死亡)事故起きている。風がなく、ガスがたまっている時に、中にうっかり入ると(硫化水素ガスを)吸う可能性がある。無風の時は入らないのが我々の鉄則」

 この日の二本松市の最大瞬間風速は、14.7メートル。山の上はそれ以上です。硫化水素中毒のリスクは低くなりますが、強い風の中での作業は過酷です。

強い寒波でパイプが…

 まずは、源泉のお湯の状態を確認。定規を使ってお湯の量を測っていきますが、湯量が通常よりも少ないといいます。

矢吹さん
「18センチない。17センチちょいだ」
「お湯少ないです」

 一体、何が起きているのでしょうか。

武田さん
「(暖かくなり)雪が溶けて染み込んでくると(湯量が)増える。(雪どけ水が)染み込んでこないと(湯量が)少なくなる。(清掃が)大変なんですよ」

湯量が少ないと…
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 氷点下の気温が続くと雪がなかなか溶けず、地中にしみ込む水分量も減少。湯量が少なくなるとパイプの中に空間ができ、温泉成分の酸化が進み詰まりやすくなるのだといいます。

 強い寒波により氷点下の気温が続いた影響で、パイプが詰まりやすい状態に…。

「特製のタワシ」
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 そこで湯守たちが用意したのは、ロープにくくりつけた「特製のタワシ」です。

矢吹さん
「そこにタワシあるんで、タワシもってきてください」

 これを上流から流して、パイプ内にこびりついた温泉成分を取り除いていきます。

何回も点検口から特製タワシを投入し、清掃を繰り返す
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遠藤さん
「流せ!」

矢吹さん
「ロープ!」

 およそ50メートル離れたもう一つの点検口へ移動し、タワシがついたロープを引っ張り出していきます。湯守たちは休むことなく、何回も点検口から特製タワシを投入し、清掃を繰り返します。すると…。

武田さん
「(Q.すごい色ですね)これがみんなパイプについていた」

パイプに付着していた温泉成分「湯の花」
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 およそ1時間で清掃は完了。これが、パイプに付着していた温泉成分「湯の花」です。

 清掃によって湯の花を含んだ真っ白な温泉が、40分ほどかけ、ふもとの温泉街へ。

湯守たちの“努力の結晶”
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 客たちを魅了するミルキー温泉は、湯守たちの“努力の結晶”だったのです。

温泉客
「湯加減最高ですよ。(湯守たちが)陰で活躍しているのをつくづく感じます」

湯守の存在は…
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「ながめの館 光雲閣」女将 大内啓子さん
「岳温泉全体で本当に湯守さんという存在は、昔から大切な存在に感じております」

 街の宝である温泉を守り続けるため、冬本番を迎えるこれからも、湯守たちの奮闘は続きます。

(2026年2月2日放送分より)

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