
奈良県橿原市の「大和八木駅」から和歌山県の「新宮駅」まで、およそ170キロを結ぶ“日本一長い路線バス”「八木新宮線」。所要時間はなんと、6時間半ほど。沿線は熊野古道ゆかりの地なども通り、全国のみならず海外からも殺到!一体、皆さんは「どこへ向かい」「どんな旅」をするのか?“日本一長い路線バス旅”を追跡。
バス停は168カ所
ノルウェーから来た人
「日本一長い路線バスって聞いて、ぜひ乗ってみたくなった。景色が最高だよ」
乗客(70代)
「北海道と千葉と大阪と」
「一回乗ってみたかった」
奈良県から出発する、一見ごく普通の路線バスですが…。なぜか日本全国からに加え、多くの外国人が続々と乗車します。
運転手
「本日は“日本一長い路線バス”新宮行き特急バスをご利用頂きまして誠にありがとうございます」
日本一長い路線バス・八木新宮線は、奈良県橿原市の大和八木駅から和歌山県の新宮駅まで、およそ170キロを結びます。
バス停は168カ所。熊野古道ゆかりの地なども通り、所要時間はなんと6時間半ほどに。ちなみに運賃は全区間で6150円です。
ドイツから来た人
「興味深いしクールだよ。移動そのものが美しいよ」
日本一長い吊り橋
出発から2時間ほど経つと車窓からの景色が一変。市街地から自然豊かな山の中に…。十津川村は日本一大きな村として知られ、その広さは東京23区以上です。
スペインからやって来た国際結婚カップル。あやさん(53)は奈良出身、山々に囲まれたこの景色を夫・ポルさん(49)に見せたいと路線バスに。次々と変わる風景に釘付けのポルさん。感動したのが山の彩りです。
あやさん
「今のシーズンだからこそピンクも緑もある。パッチワークみたいとポルが」
さらに、あやさんがこのバスに乗りたかった大きな理由が、90番目のバス停・上野地から徒歩2分の「谷瀬の吊り橋」です。
「ちょっと怖いのかな。揺れると怖そう」
長さ297メートル高さ54メートル。生活用としては日本一長い吊り橋でもある絶景スポット。地元出身のあやさんですが、実はここを渡るのは初めて。1人では怖い、けど、いつか大切な人と渡りたかったそう。
「うわーちょっと待ってポル」
「もう私が揺れているのか、橋が揺れているのか分からない」
なにしろ高さ50メートル以上。下に目を向けると、また揺れ出します。ポルさんの手をしっかりにぎり、往復12分かけ、なんとか渡り切りました…が…。
「パルドナ(ごめんね)。指が逆にグワーッて。こう持っていたから」
「(Q.指が折れなくてよかった)もっと速く行ったら『折るで』って」
年下夫のポルさんは、あやさんをしっかり守りました。
「良き経験。谷瀬だけは渡っておけって。渡ってきましたって言えるから、よかった」
実は、こんな唯一無二のスポットが点在することが“日本一長い路線バス”の人気の秘密です。
世界遺産の温泉
こちらもヨーロッパからのカップル。どうしても行きたい場所があるとか。
イギリスから来たフィリップさん
「日本で一番古く、歴史ある温泉があると聞いたんだ」
ベルギーから来たレニーさん
「世界でも珍しい温泉だと。ぜひ入ってみたいんです」
婚約中の2人。世界的にも珍しい温泉に入りたいと、ここまでやってきました。そこは世界遺産だといいます。
和歌山県田辺市にある「湯の峰温泉」。開湯から1800年、日本最古という温泉の一つです。
熊野古道を巡礼する人が道中ここで身を清め、旅の疲れを癒やしたといわれています。
レニーさん
「あそこで卵をゆでることができるんですよね?」
2人が足を止めたのは、誰でも卵や野菜をゆでて楽しむことができる湯筒(ゆづつ)です。
レニーさん
「湧き出る温泉でゆで卵を作るなんて、特別な体験です」
「カンパイ」
「すごく風味がある。初めてでゆで時間が分からなかったけど、とてもおいしい」
フィリップさん
「すごくユニークなクッキングだよね」
さらに、レニーさんがあるものを発見。温泉街にハチ公?!レニーさんが見たものは、たぬきの信楽焼。いやいやレニーさん、これはハチ公ではありませんよ。
レニーさん
「(Q.たぬき。ラクーン?)タヌキ」
フィリップさん
「アライグマみたいな」
「幸運のお守りみたいなものかな?」
フィリップさん、それは大正解!そして、2人がここまで来た目的が、この谷合いに湧き出る天然温泉「つぼ湯」。世界でも珍しい“入浴ができる世界遺産”なんです。
最大30分貸し切り利用ができる、世界遺産の温泉。2人はたっぷり満喫したそうです。念願の温泉いかがでしたか?
フィリップさん
「すごくリフレッシュできた」
レニーさん
「歴史を感じました。これまでたくさんの人が使ってきた特別な何かを感じるお湯でした」
2人は路線バスの旅を続けます。
フィリップさん
「日本は新幹線の速さが有名だけど、ゆっくりバスで田舎の道を走って景色を見るのもすごくいい」
束の間の非日常時間
奈良と和歌山、紀伊半島を縦断する日本一長い路線バス。この日出会ったのは、神戸から来たナオミさん(49)です。
「(Q.おひとりで来た?)そうなんです。旅が好きで、家族に全部任せてきました」
「(Q.お子さんも?)はい、3人」
子どもたちが手がかからなくなったことを一つの区切りに、以前から見たかった“ある絶景”を目当てに路線バスの旅に来ました。124番目のバス停を降ります。
その場所は、ここからさらに山を1時間登った、人呼んで“天空の集落”。トンネルをくぐり、吊り橋を渡り、ゆるやかなハイキングの始まり…かと思いきや。スタートして20分、様子が一変。急勾配の険しい山道に…。
この道をひたすら登り続けること40分。ようやく、標高400メートル“天空の郷”果無(はてなし)集落。目の前には、世界遺産の熊野古道小辺路(こへち)。しだれ桜に水仙など、日本の原風景が広がります。
「花はかわいいし、きれい。空も近いし山もステキ。好きなものがいっぱいあった」
家族に背中を押されてやってきた束の間の非日常の時間。
「都会にはない絶景が心にしみました。気持ちよかったです」
熟練の運転手
狭く入り組んだ山道では、対向車との遭遇もしばしば…。でも、熟練の運転手が、巧みなハンドルさばきで対応します。
乗客(70代)
「慣れているとはいえ、すごい」
運転手
「右側に見えるのが十二滝。高さ57メートル」
乗客
「でかい」
道中の観光ガイドもこなします。
乗客
「運転手さんは交代されるんですか?」
取材スタッフ
「ずっと運転ですね」
乗客
「6時間!?」
片道170キロを運転したら、現地の営業所で宿泊。翌日、6時間半かけ戻ります。
八木新宮線ドライバー 間野泰博さん
「年間150日くらい泊まっていますね」
この道26年の間野さん。「日本一長い路線」を担当ゆえの“良いこと”も。
「妻とけんかしたことがない。ちょうどエエ距離を保てている」
まさに、亭主元気で留守がいい!?…のようです。
自分で温泉を掘る?
この日、車内でこんな情報を得ました。
ノルウェーから来た人
「川にある温泉なんだけど、掘り出すらしい。クールだよね」
オーストラリアから来た人
「今朝、温泉を掘った。アメイジング」
温泉を掘る?そのバス停は、和歌山県田辺市に入っての、その名も「川湯温泉」。スコップで河原を掘る人々。全国でも珍しい源泉が湧き出ている川なんです。自分だけのオリジナル露天風呂が作れる知る人ぞ知る名湯。
利用者
「いいお湯。ぜいたくですね」
利用者
「硫黄(硫化水素)の香りがしていい」
イタリアからの投稿
「自分たちで温泉掘ってみよう」
海外のSNSでも「ユニークすぎる秘湯」と話題。個性的な温泉が多いのもこの路線バスの魅力です。
ニュージーランドから来た人
「とても素敵な場所だと思って、絶対来たかった」
「思っていたより熱いけど」
「のぼせても川に入れば大丈夫」
家族3世代「祖父消えた」?
この日、始発から乗車した奈良から来た3世代の家族。
祖父 慶司さん(78)
「プランしてくれたんで、この旅を」
誠くん(10)
「新宮(終点)まで行きます。僕は今日はもうのんびりバスの旅をしているだけ」
乗りモノ好きで、お母さんとおじいちゃんにお願いしてやってきた10歳の。
「(Q.6時間だよ)余裕、余裕。卒業式の練習で1時間半くらい余裕で座っていた。楽です。これ、リラックスが大事」
余裕の誠くんですが、この後思いがけず焦る事態になるんです。
停車したのは、あの谷瀬の吊り橋があるバス停。
運転手
「発車時間は33分。時間までに帰られないお客様はここ上野地が気に入ってしまったと判断させていただきまして、置いていきますのでご注意ください」
停車時間は20分。日本一の吊り橋をお母さんと楽しむ誠くん。吊り橋を往復し戻ってくると。
「これ逃したら次のバス15時までない(2時間半後)。どうしよう。ヤバいなぁ」
運転手
「おじいちゃんまだ帰って来ん?」
母
「何してん、あの人は」
出発が2分後にもかかわらず、戻ってこないおじいちゃん。まさか、この場所が気に入ってしまったのでしょうか。
誠くん
「待ってもらえます?待てないですよね」
と出発まで1分、おじいちゃんがダッシュで戻ってきました。
なんとかバスの中へ…。
誠くん
「間に合ったー」
母
「頼むわ」
誠くん
「15時までないんですよね」
慶司さん
「すみませんでした」
80代夫婦「珍道中」車内で“出会い”
日本一長い路線バスの旅のリピーターだという80代の夫婦。なぜ、何度も路線バスの旅を?
五味尚子さん(82)
「これが楽しみ。一駅ずつ止まって、村を回って温泉地を回って、遊園地気分」
終点まで乗り続けるという夫婦。今回はぜひ体験してほしいと、ある友人を招待。
尚子さん
「彼が台湾の方」
台湾からやってきたリーさん(61)はバイオリニスト、音楽活動で知り合ったといいますが…。
尚子さん
「(Q.何語で会話する?)イングリッシュ」
リーさん
「身ぶり手ぶり、言葉が通じなくても友達になれる」
尚子さん
「珍道中」
お互い言葉は通じなくても笑顔でコミュニケーション。バス停での休憩時間には足湯も体験。でも…こんなコトも。
夫 健さん(81)
「プリーズ」
リーさん
「フォーミー?」
健さん
「イエス。フォーユー」
リーさん
「サンキューレイター」
夫婦がリーさんにすすめたのが特産品の柿の葉寿司。しかし、食べ方までは説明できず、初体験のリーさんは…まさかの葉っぱごと。
リーさん
「葉っぱは食べないの?構わないよ。気に入ったよ」
そんな中、車内ではこんな出会いもありました。
尚子さん
「カメラマン?素晴らしいカメラ」
オーストリアからやってきた女性。尚子さんの笑顔を写真に収めたくなったのだそう。
オーストリアから来た人
「アナタたちは知り合い?」
リーさん
「そうだよ。でも僕は日本語を話せない。2人は素敵な人たちです」
普通の路線バスではなかなかない、新たな出会い。これが何度も乗りたくなる魅力だといいます。
尚子さん
「出会いがね、色々あって。おしゃべりしたら色々興味が広がるのが面白い。それだけでワクワクする」
6時間半の路線バスの旅も無事終点に着きました。
尚子さん
「もう素晴らしかった。今日もまた一度も寝ずに2人とも」
リーさん
「ベリーハッピー」
(2026年4月23日放送分より)
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