
異次元の弱点発見能力がある新型AI「クロード・ミュトス」を開発したアンソロピック社。トランプ政権と因縁もあり、背景にはAIの軍事利用があるとみられている。まずは、ミュトスを生み出したアンソロピック社について見ていく。
【画像】新型AI「ミュトス」登場 アンソロピック急成長 軍事利用めぐり波紋も
アンソロピック拡大
アンソロピック社はアメリカのAI企業である。先月の段階で、企業価値の評価額は約154兆円。これは「チャットGPT」を手掛けるオープンAIの約135兆円を上回り、トヨタの時価総額約45兆円の約3倍以上である。
さらに今月1日、アメリカ証券取引委員会にIPO=新規株式公開を申請したと発表した。この秋にも上場するとみられている。
そんなアンソロピック社が4月に発表し、世界に衝撃を与えたのが新型AI「クロード・ミュトス」である。
最大の特徴は、システムの弱点を発見する能力が非常に高いことである。そのため使い方次第ではサイバー攻撃などに悪用されてしまう懸念があり、これまでおよそ50の組織と企業にのみアクセス、つまり利用が許されてきた。
そうした中、アンソロピック社は2日、「ミュトス」のアクセス権、つまり利用する権利を15カ国以上、およそ200の企業と組織に拡大すると発表した。これには日本政府も含まれ、社名などは明らかにされていないが、国内大手金融機関も対象となっている。
トップのアモデイ兄妹とは
新型AI「クロード・ミュトス」を発表したアンソロピック社のトップとは、どんな人物なのだろうか。
共同創業者兼CEOは兄のダリオ・アモデイ氏で、主にAIの開発を担当している。
同じく共同創業者兼社長が妹のダニエラ・アモデイ氏で、主に経営を担当している。
このアモデイ兄妹は、生成AI「チャットGPT」を開発したオープンAIの出身である。2016年に兄のダリオ氏がオープンAIに入社。そして2020年、ダリオ氏はAI発達のきっかけともいえる「スケーリング則」の発見に大きく貢献した。
スケーリング則とは、AIに大量の情報を与えて学習させることで発達速度が上がるという法則である。この発見によりAIの開発競争が加速したとされる。
そして、こうしたオープンAIに目を付けたのがマイクロソフトである。2019年に10億ドル、当時のレートで日本円にして約1090億円を投資し、さらに2023年には約1.4兆円を出資するなどAIの開発を後押しした。
しかしオープンAIの内部では問題も起きていた。
AIの安全性を巡って社内で対立が発生したとされる。フォーブスによると、アモデイ氏はAIの安全性を重視していた一方、サム・アルトマン氏ら幹部は安全強化よりも事業拡大を重視していたという。
アメリカのタイム誌によると、2020年にアモデイ兄妹と5人の上級スタッフがオープンAIを辞職した。その後2021年、この7人でアンソロピック社を創業した。
こうした経緯が関係しているのか、今年2月、インドで開かれたAIサミットで撮影された写真では、各AI企業のトップが手を取り合ってアピールする中、アモデイ氏とオープンAIのアルトマンCEOだけが手を取っていなかった。一部メディアは「視線交わさず」「握手拒否」などと伝えている。
では、なぜアモデイ兄妹はそこまで安全性にこだわるのか。兄のダリオ氏は今年、自身のブログに「テクノロジーの思春期」というエッセイを投稿し、AIは今が思春期のような大事な時期で、良い方向にも悪い方向にも進む可能性があると指摘している。
この中でダリオ氏は「AIは5000万人の天才たちよりはるかに有能だ」として、強い警鐘を鳴らしている。
軍事利用問題を巡り確執も
躍進するアンソロピック社だが、トランプ政権との因縁もささやかれている。背景にAIの軍事利用があるという。
1月、アメリカ軍がベネズエラの首都カラカスを電撃的に急襲し、当時のマドゥロ大統領を拘束した。この作戦でアメリカは、アンソロピック社が開発した「クロード・ミュトス」とは異なるAIを使用していた。
その後、国防総省はアンソロピック社に対し、アメリカ軍のあらゆる活動で同社のAIを利用できるよう要求したが、アンソロピック社はこれを拒否した。
というのもアンソロピック社では安全対策として、AI利用の例外規定、つまり利用してはいけない用途を定めていたためである。
1つ目は「国民の監視」である。異なる公的情報源から個人情報を自動で取得し統合するもので、移民の取り締まりなどへの利用を制限するためだとみられている。
2つ目は「自律型兵器」である。人間が判断せずに標的の選定や攻撃を自動化するものである。
こうした理由から、2月26日、ダリオ氏は「良心に従い国防総省の要求に応じることはできない」とする公式声明を出した。
ダリオ氏の声明から2日後の2月28日、トランプ大統領はSNSで怒りをあらわにした。
「アンソロピック社の左翼狂信者たち」という言葉を使い、「我々はアンソロピック社の技術を必要としていないし、欲しくもない。そして二度と彼らと取引することはない!」と投稿。同じ日、アメリカのすべての連邦機関に対し、アンソロピック社の技術を使用するのを直ちに中止するよう指示した。
ただ、その同じ日、アメリカはイランへの大規模空爆を開始した。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、この空爆にもアンソロピック社の「ミュトス」とは異なるAIが利用されていたという。入手情報の正確性の評価、攻撃目標の位置特定、戦闘シナリオのシミュレーションなどに使われていた。
さらにUAEのシンクタンクのレポートによると、当時のイラン最高指導者ハメネイ師の斬首作戦について、標的の捕捉から攻撃、戦果の判定、つまり生死の確認までを11分23秒で完遂したとされる。この作戦でもアンソロピック社のAIが使われたという。
高度なAIが、大規模な軍事力に取って代わる可能性を示した形である。
(2026年6月5日放送分より)
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