
アメリカとイランの双方が、戦闘終結に向けて合意したと発表しました。覚書の署名式は19日にも行われるとしていますが、果たして。
【画像】“合意”受け入れたイランの思惑 核問題は“先送り”…アメリカの事情
攻撃開始107日でついに…

合意成立の知らせを受け、週明けのマーケットは早速大きく反応しました。15の日経平均株価は6万9000円の大台に。3000円以上値を上げ、最高値更新です。
イランへの攻撃開始から107日。この間、トランプ大統領が「間近」と何十回も繰り返してはかなわなかった合意が、ようやく成立です。これで本当にホルムズ海峡は元に戻り、情勢は安定するのでしょうか。すでに不穏な動きが出ています。
80歳誕生日に合意発表

14日、ワシントンは様変わりしていました。80歳の誕生日を迎えたトランプ大統領。ホワイトハウスにはアリーナが設置され、アメリカの独立250周年を記念する総合格闘技イベントが行われていました。盛大な誕生日会です。これに間に合わせるかのように開始3時間前、SNSでイランとの合意を発表。ホルムズ海峡は全面的に開放され、アメリカ軍による封鎖も解くとしました。
イランも合意を発表しました。

イラン ガリババディ外務次官
「レバノンを含む全ての戦線で、戦闘が即時かつ恒久的に終結します」
仲介国パキスタンの首相によると、覚書の署名式は19日にスイス・ジュネーブで行われるといいます。

イラン ペゼシュキアン大統領
「国家安全最高保障評議会で圧倒的多数で承認された。我々は最高指導者のいかなる決定にも従う」
“合意内容”食い違いと先送り?

誕生日にイランとの合意にこぎつけ、フランスでのG7サミットに向かったトランプ大統領。ただ、それが本当に“成果”と呼べるものかは不透明です。
イラン ガリババディ外務次官
「敵は停戦の要求をせざるを得ず、我々の“懸案事項の全て”が覚書草案に盛り込まれる」
イラン側で報じられた覚書の主な内容は、こうです。
【イラン側が報じた“覚書”】
・レバノンを含む全ての戦線で、即時かつ恒久的に戦闘停止。
・海上封鎖の完全解除(30日以内)
・ホルムズ海峡の開放(30日以内)
・アメリカの制裁の完全解除
・イラン復興計画の提示義務
・核問題の合意に向けた交渉(60日間)
一方のアメリカは、覚書の中身について詳しい情報を出していません。

そもそもイラン攻撃の前には何の問題もなく船が通っていたホルムズ海峡。トランプ大統領もイラン側も19日の署名後に開放されるとしています。ただ、気になるのは“通航料”徴収の行方です。

トランプ大統領は「通航料なし」としましたが、イラン外務省の報道官は…。

イラン外務省 バガイ報道官
「これまで言ってきた通り、通航料を求めてはいないが、提供されるサービスに対して費用が徴収される」
核問題についても今後60日間の交渉期間が設けられただけで、問題が先送りされたに過ぎません。
レバノン攻撃停止 イスラエル受け入れず

そして、今回の合意の危うさが最も表面化しているのがイスラエルの動きです。国境を接するレバノン南部では合意後もイスラエル軍による攻撃とみられる煙が上がっています。イスラエル軍は合意の直前にも、親イラン組織ヒズボラを標的としてレバノンを攻撃。アメリカとイスラエルの間の溝が戦闘終結に影を落としています。
トランプ大統領(Axios・14日)
「ビビ(ネタニヤフ首相)の、あのふざけた攻撃はなんだ?頭に来た。判断力のかけらもない。本人には伝えた」
イスラエルのカッツ国防相は「レバノンから撤退しない。国民の防衛には妥協しない」としています。

レバノン市民
「停戦なんて何の意味もない。アメリカもイスラエルも世界を欺いている。停戦の度にベイルート近郊が攻撃されるんだ」
イスラエルの市民からも合意に疑問を呈する声が…。

イスラエル市民
「イランの勝ちです。資金を得て政権は維持されます。破滅的です」
◆アメリカ・イランの双方が戦闘終結に向けて合意しました。イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授、G7サミットが開催されるフランス・エビアンにいる梶川幸司ワシントン支局長に聞きます。

(Q.このタイミングでの合意、G7は一つの要因となっているのでしょうか)
梶川幸司ワシントン支局長
「トランプ大統領にとって、イラン攻撃への協力に消極的だったヨーロッパの国々の首脳と初めて一堂に顔を合わせる機会となります。イギリスやフランスは、戦闘が終結した後ならば、ホルムズ海峡の機雷掃海などに協力するとしてきました。CNNは、当局者の話として、トランプ大統領がサミットの場で、各国にアメリカへの協力を果たすよう、強気の姿勢で臨むためにも、その前に、覚書をまとめたかったと伝えています」
(Q.いま伝えられているところによると、トランプ大統領がずっとこだわってきたイランの“核問題”は先送りされているだけという格好になっていますが、そのあたりはどうなのでしょうか)
梶川幸司ワシントン支局長
「トランプ大統領としては、戦いの“大義”という意味で、この核問題をいい加減に扱うわけにはいかないのですけれども、中間選挙まで5カ月を切るなかで、ガソリン価格の高止まりにつながる、このホルムズ海峡の封鎖をいつまでも放置することはできないという事情がありました。アメリカメディアからは、戦いでアメリカが得たものはあったのかという厳しい評価、そして、共和党の保守派からは、イランへの譲歩に懸念が示されていますが、トランプ大統領としては、たとえ批判を受けても、もはや“より悪くない選択肢”を選ぶしかない。そうした状態に追い込まれていたと言えます」

(Q.アメリカとイランの間では、これまで何度も停戦に向けた動きがありましたが、合意には至りませんでした。今回、イランが合意を受け入れたことをどう見ますか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「それなりにイラン側がのめる条件に、アメリカ側が降りて来たんだというように、私には見えるんです。これまで報じられている、アメリカ側での報道、イラン側での報道、それぞれ突き合わせてみても、相当、かい離しているわけですから、どう考えても、両者の間での折り合いはつかないはずなんですけれども、これが仮に、それぞれ真正の要求であったとしたら、今回、イラン側が応じたということから見れば、イラン側の要求に、それなりにアメリカ側が寄り添ったというところで判断するしかないですね」
(Q.それは資産の凍結解除とかですか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「ある意味でいうと、最終段階といわれたところで、イラン側がこだわっていたのが、凍結資産の返却。一部であれ、全部であれ。そこのところにずいぶん、こだわりを見せていました。一部の報道では、UAEから資金の移転があったのではないかということすらもいわれていました。このあたりからすると、イラン側に一定の譲歩を示して、同時に、交渉は真剣に行うんだということを示した可能性があります」

覚書の内容について、両政府からまだ正式に発表されていませんが、イランの複数の通信社は、このように報じています。
【戦闘・アメリカ軍】
・レバノンを含むすべての戦線で、即時かつ恒久的に戦闘停止
・イラン周辺からアメリカ軍は撤退する
【ホルムズ海峡】
・航行管理はイランとオマーンで、料金を徴収する
・アメリカは、海上封鎖を即時解除する
【経済】
・アメリカは、イランの資産240億ドルの凍結を解除する
・アメリカおよびその同盟国は、イランの復興計画の提示義務を負う(最低3000億ドル規模)
【核開発】
・ウラン濃縮など核問題については、最終合意に向け、60日間で交渉する
(Q.アメリカなどが最低3000億ドル、日本円にすると50兆円近くになりますが、その規模のイランの復興計画の提示義務を負うとはどういうことですか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「非常に奇異に移ると思うんですけれども、従来は、戦時賠償というところにこだわっていたときがありますが、もちろんこれはアメリカ、イスラエル共に払うはずもない。しかし、ここで復興ということにしておけば、この復興計画、例えば、民生用のインフラ設備なども多数破壊されていますので、こういうところにお金をつけるんだということであったとしたら、アメリカやイスラエルが恐れているミサイル開発をやってしまうのではないかとか、核開発にまた金を振り向けてしまうのではないかというような懸念は、一応、払拭することができそうなのです。これは、あくまでもレトリックなんですけども、言葉の上ですが、賠償金にほとんど等しいものを違う形で取ろうということだと思います」
(Q.これ、イランにかなり有利な条件になっているように見えるのではないでしょうか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「これ、イラン側から出ている報道ですので、当然、自分たちが不利な条件であるということはもちろん出さないわけですけど、仮に、このような状況で交渉が進んだとすれば、アメリカ側が、相当、イラン側の要求に屈した。あるいは、譲歩せざるを得なかったということになります」
(Q.そもそも、アメリカが十分な国際的な理解もない状況の中で突き進んだ、そのツケを払わざるを得ない状況になったのかなとも見えるのですが、どうでしょうか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「ある意味、自分で墓穴を掘ったという感じにも見えますし、イスラエルにとっても、それは同じだと思うんですね。結局、レバノンに手を出しているということが、レバノンとの停戦を、結局、含めることをイランが主張し、そこで、アメリカからきつい言葉を浴びせられるというようなところに自らを追い込んでしまいました」

(Q.アメリカにとって大事な核問題は60日間の先送りに過ぎません。この核の問題について、イランが全面的にアメリカの要求に屈することはあり得るのか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「考えられないですね。特に、『ウラン濃縮の権利を放棄しろ』あるいは『ウラン濃縮設備を全廃しろ』。こういったことについてはまるっきりテコでも動かないと思いますし、高濃縮ウランを薄める、希釈することについては同意できる範囲だとしても、それをアメリカに引き渡せとかは、なかなか受け入れられないですね」
(Q.この60日間で落とし所が見つかるかどうかは、まだ予断を許さない)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「そうですね。かつてのイラン核合意も1年半以上かけて、核のことだけに関してかかった話ですから、すぐに出てくる答えはないと思います」
今回の覚書をめぐっては気になる発言があります。

イラン ペゼシュキアン大統領
「国家安全最高保障評議会で圧倒的多数で承認され、今も今後の方針について協議している。我々は最高指導者のいかなる決定にも従う」
(Q.これはまだ最終承認されていないということなのか。どういう意図なのか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「もちろん、そのように含みを残しているとも言えるんですが、私は、大統領があえてこういう言い方をしたことの一つの狙いとして、イランの体制は前の最高指導者、アリ・ハメネイ師を失っても、今も変わらず機能しているんだと、同様の機能を果たしているんだと強調したいんだと思っています」
(Q.体制は緩んでいないということのアピールしているのですか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「例えば、体制の中で意見相違があるとか、対立があるというものも含めて、全部払拭して、今までどおりの機能を果たしていると言いたいんだと思います」
(Q.イランの発言としてはあまり不思議な文脈ではない)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「あえてここで言うかというのはもちろんありますが、そこの点は、外部でイラン国内の対立があるとか、私は軍部が全権を握っていると見ているわけですけど、そうでもないと打ち消しているんだと思います」

(Q.調印式が19日に開かれますが、今後、懸念点があるとすればどういったことでしょうか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「やはり大きいのは、イスラエルの動きで、レバノンの空爆や攻撃を続けているということ。これが、ある種の導火線になって、またイランとイスラエル間の交戦、さらには、アメリカがそこに介入するというようなことになったら、今の雰囲気は、吹き飛んでしまうかもしれないということがあります。あと、もう一つは、19日を終えても、本当にホルムズ海峡が正常化に向かうのかということ。これは、本当に今は言葉の上、19日を経れば、紙の上だけど、それが、海の上で本当に実現するのかということです」
(Q.ネタニヤフ首相はこれまでも、トランプ大統領が釘を刺しても、レバノンへの攻撃を止めませんでした。19日の可能性としては大いにあるのか、それとも懸念の方が多いのか。どうでしょうか)
慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「私は、まだ懸念の方が多いですね。それまでの間、何が起きるかわからない。結果として、19日がまた流れてしまう。あるいは先送りされてしまうということも、私は排除していません」
