
北海道・知床沖の観光船沈没事故で、釧路地裁は17日、業務上過失致死の罪に問われている運航会社社長の桂田精一被告(62)に対し、求刑通り、禁錮5年の実刑判決を言い渡しました。
“刑の上限”も…複雑な家族の思い “陸上の社長”に禁錮5年の理由 知床沈没事故
スーツを身に着け「息子と一緒に」
この事故では、乗客乗員20人が死亡、乗客6人がいまだ行方不明です。
行方がわからない6人のうちの1人、小柳宝大さん。
父親は、裁判のたびに、毎回、宝大さんのものを身につけ、裁判に臨んでいました。
小柳宝大さんの父親
「スーツとカッターシャツ、ネクタイも持ってきています。宝大のネクタイです。一緒に裁判を受ける」
復元データに残された船内の様子
宝大さんが、観光船『KAZU1』に乗り込む際に撮られた1枚の写真。ほかの乗客家族からもらったといいます。
その写真が残されていたデジタルカメラは、事故から2年以上が経った2024年8月、行方不明者を捜索していたボランティアが見つけました。
そのカメラの持ち主、優さん(当時34)は、千葉県の自宅から1人で北海道へ旅行に出かけ、事故に遭いました。一度は復元が不可能とされたデータも、国内外の企業4社の協力により、すべて取り出すことに成功。新たに復元されたデータの中には、KAZU1の船内から撮影されたものもありました。
出港から約5分、プユニ岬付近の様子を映したものです。海は穏やかに見えます。その1時間後、カシュニの滝を通過した際には、岩に打ちつける波が白くなっているのがわかります。
そして、その後の映像です。
優さんの家族
「結構、波が荒れてませんか。だから、みんな船内にいる。泣き声が聞こえる。優は、撮っていたんだ、こういうの。よくやった優。物が落ちて散乱している」
その後、KAZU1とは連絡が取れなくなりました。
「事故は予見できた」「安全軽視」
裁判の争点は、桂田被告が、運航管理者として危険を予見できたかどうかです。
裁判でも流された浸水する30分前に撮影された映像。釧路地裁は、出発時に強風・波浪注意報が出ていたことを指摘しました。
裁判長
「運航基準を明らかに超える強風や高波が予想される状況で運航させることは、人が死亡する事故を発生させる恐れのある行為であったといえる。そして、そのような事故が発生することは、被告にとって、容易に予見できたというべきである」
さらに、事故が発生した際に、事務所にいなかったことなどから、安全な運航に対する意識が薄かったとしました。
裁判長
「事務所を離れることが常態化していたこと。無線機のアンテナが故障して、船舶からの無線連絡を受けられない状況にあることを認識しながら、本件当日の運航を行わせたこと。安全を軽視する平素からの態度が形となって表れたものとみるべき」
釧路地裁は、検察の求刑通り、禁錮5年を言い渡しました。
“刑の上限”も…家族の複雑な思い
息子のスーツを着て判決を聞いた小柳さん。
小柳宝大さんの父親
「良かったなと思う反面、精一杯で(禁錮)5年だから、悲しい気持ちも同時に出た。それ以上は求刑できないから仕方がないが、本当、悲しい」
優さんの父親
「どれだけ無念の中で、命を落としていったのかという考えたときに、一番、上限の数字を勝ち取れたと息子に報告したい。桂田被告が誠意を見せる、最後のチャンスだと思う。素直に受け入れて、刑に服して、償いと反省の日々を送る。桂田被告の最後の誠意だと思います」
桂田被告は、判決を不服として控訴しています。
“陸上の社長”に禁錮5年の理由
判決で、裁判長は「強風と高波で安全な航行に支障をきたし、事故が発生することを桂田被告は予見できたのに、出航を中止せず、漫然と航行させた過失により、船を沈没させた」と判断しました。そのうえで、量刑について「桂田被告は、経験の浅い船長に判断を任せ、事務所を離れることが常態化していた」と指摘。法廷で、謝罪や反省の弁を述べたことについても「表面的との評価を免れない」として、求刑通り、業務上過失致死罪の法定刑の上限、禁錮5年の実刑判決を言い渡しました。
◆今回の判決、どう受け止めればいいのでしょうか。海難事件に詳しい戸田総合法律事務所の小館佑介弁護士に聞きました。
小館さんは「船舶の運航において、特に、船長の権限が強いため、海難事故では、船長の責任を問われるケースが多く、“陸上の責任者”の責任を問うのは難しかった。今回は、判決で被告の責任に厳しく言及していて、実刑判決にまで踏み込んだのは、異例ともいえる」といいます。
この“異例な判決”が及ぼす影響について、小館さんは「事業者にとって、運航基準を作るだけでなく、それを現場で実際に機能させる必要性を、改めて認識させるものといえる。同種事故の再発防止につながる契機になってほしい」と話します。
