ベルリンを現地取材
国外を舞台にした非合法工作の生々しさを、駒木記者は2019年にドイツの首都ベルリンで白昼堂々と発生した暗殺事件の現地取材から説き起こす。市民が憩うのどかな公園で、チェチェン独立派の元司令官ハンゴシビリ氏が、自転車に乗ったロシア人工作員ワジム・クラシコフに追われ射殺された。事件を追った現地のジャーナリスト、シュテーバー氏によると、犯人は倒れた被害者に確実に絶命したことを確認するために3発目の銃弾を放ったという。クラシコフは偽名のパスポートを所持して「ただの観光客」を装い、裁判でも一貫して容疑を否認していたが、英国の調査機関「ベリングキャット」などの執念深い調査により、ロシア連邦保安局(FSB)の工作員であることが暴露された。ドイツの裁判所は「ロシア政府の指示による殺害」と断定して終身刑を言い渡した。のちに欧米との身柄交換で帰国したクラシコフを、モスクワの空港でプーチン氏自らが出迎えてハグを交わし、その忠誠を公然と称賛する異様な光景が世界に配信された。
なぜプーチン大統領は公の場で非合法な工作活動をこれほど賞賛するのか。駒木記者は、ロシアの軍事情報機関の事情に詳しいイギリスの研究者、マーク・ガレオッティ氏に取材を行い、その深層を分析している。ガレオッティ氏によると、旧ソ連のKGB出身であるプーチン氏は、情報機関に対して強い愛着と尊重を抱いており、工作員たちを「新しい貴族」と呼んで最も優秀な人々だと捉えているという。国家が外交特権のない過酷な環境で活動する「非合法工作員」の身柄回収に多大な努力を払うことは、スパイ活動への強い依存の裏返しであると同時に、工作員に「国は決して見捨てない」という強いメッセージを送り、組織の忠誠心を維持するための極めて有益な政治的手段なのだとガレオッティ氏は語る。
ロシアの情報機関は大きく3つに分類されると駒木記者は整理する。国内治安や防諜を担い、ベルリンの暗殺事件にも深く関与したとされる最大の中枢「FSB(連邦保安局)」。外国を舞台に情報収集や裏の工作を担う対外情報部門「SVR(海外情報局)」。両局はKGBの流れをくむ組織だ。そして、KGBとは別に旧ソ連軍時代から軍独自の情報機関として存続する「GRU(軍参謀本部情報総局)」である。
「お宅の回線は特殊なので、ADSLを繋ぐことはできません」