【内田篤人W杯総括】スペインの「組織力」が示した新時代 「困った時に戻れる原点」が日本に必要な理由

 内田篤人さんに北中米ワールドカップ全104試合の中から、現場で見てきた世界のサッカーを独自の目線で振り返ってもらいます。題して「内田篤人視点で振り返るワールドカップ」です。

流れ変わるハイドレーションブレイク

 まずは「ハイドレーションブレイク」です。前後半の途中にそれぞれ3分間、水分補給を目的に設けられました。

「今大会を象徴するようなシーンだったと思います。実は、3分間が試合に大きく影響していました」

 スイス対ボスニア・ヘルツェゴビナの試合。0対0のまま迎えた後半のハイドレーションブレイク。ここでスイスが動きます。後半29分、交代で入ったばかりのマンザンビ選手(20)がゴールを決めます!

「この試合はハイドレーションブレイクがあるため、監督はここまであえて交代を待ちました。ハイドレーションブレイクを有効に使ったいい例でした」

 一方で、ドイツとキュラソーの試合では、キュラソーが歴史的初ゴールで同点に追いつきます。サポーターも大盛り上がりです!そんな中、ハイドレーションブレイクに入ります。

「この勢いの中、そのまま勝ち越したいところだったんですが、キュラソーにとってはいい勢いを止められた時間になってしまいました」

 その後、ドイツに突き放され、キュラソーは敗れましたが、まさにハイドレーションブレイクがマイナスのほうに働いてしまったパターンでした。

「終わってからいろいろ考えることはあるかもしれませんが、日本のようにボードを使って戦術確認をしたり、ハイドレーションブレイクの3分間をうまく使ったチームが勝ちに近づいていた気もします」

メッシの駆け引き

 史上最多ゴールが生まれた今大会。ここからは、内田さんの視点で「スーパープレー」を見ていきます。

 まずはアルゼンチンのメッシ選手(39)。今大会8ゴール4アシストと大活躍でした。一番警戒されているのに、なぜこんなに点が奪えるのでしょうか?

「動かない。技術的に落ちないトラップがあるからもそうなんですけど、ボールを受ける前の動きにすごさがあるんです。オフサイドポジションで、ふらふら歩いているんです。チャンスになると、ディフェンスラインまで戻って動き出すんです。オフサイドポジションというのは、ディフェンスはマークができないんです。意識が薄れるんです。メッシは歩いていても、味方と相手を見て常に隙を狙っている。ただ、この技術があったからこそなんです」

最強コンビ 異次元の連携

 そして、今大会の得点王、フランスのエムバペ選手(27)。その裏にいたのが、7アシストでアシスト王のオリーセ選手(24)です。

 エムバペ選手の10ゴールのうち、なんと半分の5ゴールをオリーセ選手がアシストしていたんです。

 3位決定戦の2人のゴールでは、異次元の連携を見せました。

「このゴールを解説すると、3人の関係性。一直線に並びながらもスルーして、戻してワンツー。これをミニゲームではみんなよくやるんですけど、ワールドカップの本大会で脱力したイメージ、そしてこのテクニックをオリーセがエムバペと共有するっていうのが、とんでもないレベルってことです」

 オリーセ選手が記録した7アシストは、サッカーの王様ペレ選手の記録を56年ぶりに塗り替えました。

逆転呼び込む大胆選手交代

 ここからは「名采配」を紹介します。

「ポルトガル代表、マルティネス監督の大胆な選手交代が光りました」

 負けたら終わりの決勝トーナメント初戦、クロアチア戦。1点を追う後半17分、なんと一気に4人を交代しました。

「4人代わるとチームがかなり変わります。というのは、フィールドプレーヤー10人で、ほぼほぼ半分が代わりますから。まさに勝負に出た采配でした」

 その直後、代わったラモス選手(25)がプレス。相手のミスを誘い、コーナーキックを得ます。そのコーナーキックから、今度は相手のファウルでPKを獲得しました。これをクリスティアーノ・ロナウド選手(41)が決めて同点としました。

「交代で入った選手のプレスから得点につながりました」

 さらに、延長も見えてきた後半36分、ここでも驚きの采配をします。

「エースのロナウドを下げたんです。こういう影響力のある選手を下げるというのは、チームとしてもリスクはあります。ここでも勝負に出た采配です。そして、先ほど途中交代で入ったラモスが、ロナウドのいたポジションに入りました」

 同点のまま後半アディショナルタイム。これを決めたのはラモス選手でした!

「リスクもあった2度の選手交代が、逆転勝利を呼び込みました」

ハーフタイムの決断で撃破

 続いては、初のベスト8と大躍進を遂げたノルウェー。ブラジルをハーランド選手の2ゴールで撃破しました。

「実は、これもソルバッケン監督の名采配が光った試合でした。前半、ノルウェーは中央のエリアで攻撃を続けていました。ただ、ブラジルの守備をなかなか崩せずに、逆にボールを奪われて、カウンターを食らう場面が多かったんです」

 そこで、ソルバッケン監督はハーフタイムに、なんと両サイドの選手を交代しました。

「よりドリブルで前に運べる選手に代えました。サイド攻撃を使っていくという戦術に変更したんです」

 すると後半、途中出場の左サイド、シェルドルップ選手(22)が持ち運び、ハーランド選手が決めました!サイドが起点となり、先制点が生まれます。

 さらに、またシェルドルップ選手がボールを持つと…。

「ドリブルを警戒して、ディフェンダーが引き付けられてます。そのおかげで、フリーになったハーランド選手がパスを受けて、とんでもないゴールを決めました。ここも、早い時間帯に戦術変更した監督の名采配でした」

 ブラジル撃破には、こんな背景があったのです。

ここから世界の勢力図は?

 改めて今大会を振り返り、世界のサッカーというのをどう見ましたか?

「今のはやりというのは、フランスやイングランドのように高さ・強さ・速さ、身体能力を前面に押し出したサッカースタイルが主流になっていたんですが、個の力だけに頼らずに組織力でも圧倒したスペインは非常に強かったです。そういったはやりに流されずにスペインらしさを出した、貫いていった結果のワールドカップ優勝。サッカーのトレンドの分岐点になった大会だったと言われるかもしれません」

 個の力は日本の選手たちも大事だと言っていましたが、個の力の象徴とも言えるブラジルがベスト16で敗退。どこが絶対的に強いというのではなく、群雄割拠みたいな時代になってくるのでしょうか?

「勝ったチームが強い。その戦術がだんだん浸透していくことにはなるんですが、世界的には今後、対スペインという戦術もどんどん変わっていくのかなと。ただスペインは対策されても若い選手が非常に多いので、しばらくはスペインが強い時代が続くのかなという予想です」

日本が目指すサッカーは?

 ヤマル選手は19歳。そういう中で、日本が世界に追い付き追い越すために、組織が強かったスペインから学べるところはあるのでしょうか?

「ちょっとプレースタイルが違うのかなと。日本は前線からボールを追いかけてプレスに行って、そこから奪ってすばやくショートカウンター。ただ、今後もこのサッカーでもいいのか。日本はどういうサッカーをして確立していくのか。うまくいかなくなった時に戻れる原点のような、日本はこのサッカースタイルなんだというものも必要なのかなと思います」
「スペインはボールを保持するというスタイルが確立されています。その中で育成年代から各ポジションのプレーモデルが一貫している。誰が出ても誰がどこに出ても土台ができているので、崩れない。そういう日本の土台を作ることが大切なのかなと。はやりに左右されないというのは、大きいかなと思います」

 森保ジャパンの8年間というのは、どのように振り返りますか?

「日本サッカーをグッと成長させてくれたと思います。ただ、今の時代はいろんな方がいろんな意見を述べられるんですけど、その時の難しさとか肌で感じるものは、その場の監督でしか分からないものがあって。僕らにはちょっとまだ分かりません。決勝を目の前で見てましたけど、日本人としての悔しさもあります。この大会をどう分析して日本サッカーにつなげていくのかは、非常に大切だと思います」

(2026年7月22日放送分より)

外部リンク
このまま画像を見る
続きは広告を見た後にご覧いただけます
クリックして広告を見る