■「5年で60円」の円安進行と過去最高を更新する企業利益・税収
2021年に100~110円台だった為替相場は、直近で1ドル163円台後半まで進行し、5年間で約60円の円安となった。この間、企業の経常利益は114.7兆円と過去最高を記録し、国の一般会計税収も75.2兆円に達するなど、高水準となっている。政府債務を金融資産を差し引いた純債務ベースで見ると、GDP比は130%台まで低下しているなど、マクロ経済の数値には改善が見られる。
アセットマネジメントOneのチーフエコノミストである村上尚己氏は、現在の円安水準について次のように見解を述べる。「経済全体で見れば、やはりプラスの方が大きい。企業が円安によって利益を増やしているのは紛れもない事実であり、株式市場でも株高が続いている。今の日本経済の状況であれば円安はメリットの方が大きい。この5年間で60円という変動は大きく見えるが、長い視点で見ると日本は円高過ぎた。それが正常に戻っている過程であり、日本経済が良くなりつつある中で起きている、必要で避けられない円安だと考えた方がいい。インバウンドにメリットがあるのは誰が見ても明らかだが、円高でデフレになって競争力がなくなり、工場が海外に出ていってしまった状況が、今は逆転している。円安が続きそうだということで企業の行動が変わり、海外の工場を日本に戻してきている」
また、元経済企画庁の官僚で元参議院議員の金子洋一氏は、国としての視点から次のように指摘した。
「円安は政府が儲かる。日本全体をハッピーにするためには、円安で政府が減税をして消費者に還元をすればいい。今の政権が考えているような消費税の減税はやるべきだ。牛肉やエネルギーなどの輸入品が高い状況であるから、そこを減税して消費者に還元してあげることが必要だ」。
一方で、マクロ経済の好調さが家計や中小企業に波及していないという指摘もある。元日銀審議委員の白井さゆり氏は、企業業績の拡大の背景について次のように解説した。
「プラスを享受している人もいれば、マイナスで苦しんでいる人もいるので、単純なプラスマイナスではない。物価が上がり円安になることで、企業は稼ぐ力が変わっていなくても、海外や国内で稼いだお金を円換算すると大きく見える。だから法人税収が増え、株も上がっている。物価が上がっているため消費税もおのずと増え、所得税などもあって税収が増加している。表向きには政府の財政は良く見えるが、家計から見ると実質的にはインフレ税を納めている状態であり、苦しい。だから減税で家計に還元しようという意見には同意する」。
さらに企業の利益と賃金の関係についても触れる。
「企業に関しても、利益はあるが賃金はせいぜい3%程度しか増えていない。海外の利益を全て日本に持ってきているわけではなく、数年経てば円高になる可能性もあるため、恒常的に賃金を上げることには躊躇する。名目的に全体的に物価が上がっているから良く見えるだけであり、輸出がどんどん増えて輸出大国になっているわけではない。一番苦しいのは、原材料やエネルギーの高騰、人手不足で賃金が上がっているのに価格転嫁できない大多数の中小企業と、実質所得が減っている家計だ」。
また、コラムニスト・河崎環氏も企業の体質改善を求める。
「為替が劇的に変わったことによって、輸出企業などが儲かっているように思えるが、彼らの体質が変わったわけでも、儲かる業界になったわけでもない。そこに甘えることは絶対にできない。今後日本企業が海外でしっかりと稼ぎ続けていくことができるようにトランスフォームしていくための資源として今の利益を使ってくれるならいいが、まだ『棚からぼたもち』的に上から落ちてきたものに対して、どうにかこれで首が繋がるという状態にしているように思う」。
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