■「不安を抑えようとすると、かえってひどくさせていた」家族の巻き込みと悪循環
強迫性障害の夫と長年生活を共にしてきた美喜子さんは、夫の症状について「忘れ物確認がひどくて、飲食店で帰るたびに確認し続ける。店員さんから『何か忘れ物ですか』と声をかけられるほどで、私が恥ずかしくて喧嘩になっていた」と話す。車を運転中に突然「人を引いたかもしれない」と言い出すこともたびたびあり、結婚当初は「じゃあ見に行こう」と一緒に戻ったこともあった。「深夜に道路をライトで照らしながら二人で確認し、絶叫して大喧嘩になって帰った」。
夫は小学校2年生ごろから約50年間、強迫性障害と向き合ってきたが、美喜子さんと結婚した時点では改善していたため、「病気じゃない」と本人は主張していた。美喜子さんは薬を使わない治療を探したが、「ことごとく断られた」と振り返る。
原井氏のクリニックで行動療法を受けたことが転機となった。その際に「巻き込み」という概念を初めて知ったという。「当時は私が確認してあげたり、やめてと言えば解消されると思っていたが、それが巻き込みだと聞いた。私がひどくさせていた」。
原井氏も「不安を抑えようとしていると、かえって大変なことが起きる。不安を抑えると巻き込みが起き、もっと症状が増悪していく」と説明する。強迫行為は一種「量の病気」であり、「家の中に他の人がいる、場合によってはペットを入れる、外で人前にいる時間が長い方が症状は出にくい。一人でいると大抵悪化する」。
美喜子さん自身も、夫の強迫に毎日向き合う中で心が病んでしまい、「共依存のような関係性になってしまった」。そこから脱却するために自分なりに研究し行き着いた答えが「自分に集中すること」だった。「私の人生は夫に依存していたので、自分で生きることに集中した。距離感を取り直し、自分の人生を立て直そうと思った」。
また、強迫性障害の当事者のポジティブな側面にも言及した。「夫は確認マン。私がそそっかしくてミスをすると、すぐ見つけてくれる。定年間際でやっと監査の仕事が回ってきて、ものすごい適任。大工仕事をさせると1ミリの単位でピタッと合わせる。強迫の悪いところばかりに目を向けるのではなく、ものすごい天才性があると思っている。いいところをポジティブに捉えてあげることをずっとやってきた」。
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