坪井智也、圧倒的勝利「ノーマス」目指す 教科書の基本を100%出すボクシング 最速タイ5戦目で世界王座へ

 松岡修造さんの特集、ボクシングを紹介します。数字に注目してください。辰吉丈一郎選手は8戦目、井岡一翔選手は7戦目、井上尚弥選手は6戦目で世界王者になりました。

 そして、5戦目で世界タイトルを狙うのが、坪井智也選手(30)。坪井選手が目指しているのは、圧倒的勝利「ノーマス」です。

最速タイ5戦目で世界王座へ

 敵を寄せ付けないスピードとテクニック。考え方も独特です。

「(Q.こういう戦いで勝ちたいという基本は?)試合においては圧倒的に勝てればいい。こういうボクシングをして勝ちたいはない。自分のボクシングはない。その中でノーマスを狙う、圧倒的に」
「(Q.ノーマス?)相手が『もう無理です』。KOとかTKOじゃなくて、相手がコーナーから出てこない」
「(Q.もうかなわない、GIVE UPって?)そういう展開に持っていきたい」

 「ノーマス」とは、スペイン語で「もうたくさんだ」とも訳される言葉。1980年、ロベルト・デュランと“シュガー”・レイ・レナードのスーパースター対決で、劣勢だった王者デュランが試合途中に突如「ノーマス」と発し、戦いを放棄しました。

 以来、実力差などを理由に棄権する行為そのものを指す言葉としてボクシング界では知られています。

「(Q.KOの方がいいんじゃないですか?)いや、それが違うんです。僕がやりたいのは、12ラウンドを通して相手に何もさせない。もう1回やっても、勝てないと思わせたいんで。KOだったら『あのパンチもらってなかったら勝てたかも」と思えるじゃないですか」
「(Q.なぜそれを“圧倒”っていう捉え方をする?)確かにボクシングを見ているファンからしたらそう。ボクサーだとKOよりも圧倒されるのが嫌。心が折れるっていうか、KOだと多分、心は折れない」

教科書の基本を100%出す

 「ノーマス」で勝つには何が重要か。答えは、坪井選手の練習にありました。

 それは、試合のスピード感とは真逆のゆっくりとした動きでした。

「(Q.意外とゆっくりですよね?)もちろん速くやる時もありますけど、ゆっくり動作を確認して、ただやみくもにやればいいってわけではない」
「(Q.“坪井智也のボクシング”とは?)“基本”です。構えた時のガードの位置、ポジショニング、前の手の出し方、右ストレートの出し方。ボクシングを始めた子どもたちがやっているようなこと、鏡の前でやっているようなことを100%以上にすべてして、それをリングで出すだけ」
「(Q.教科書なんですか?)教科書に書いて全部できるようにして、それをリングの中でつなげていく」

 それは、教科書に載っている基本を100%出すボクシング。試合映像を見ると、打たれるリスクを避け、主導権を持ち続けるため、距離を保ち、顔とボディーを巧みに打ち分けていることが分かります。

 そして、今はまだ基本の一部しか出していないといいます。

「戦略のパターンを用意するが、1個目がうまくはまってしまえば、2・3・4・5個目の戦略を出す必要がない」
「(Q.1のイメージが分かるような説明は?構えて前の手、後ろの手、前の手のボディー、右ストレート。打つところを変えて、相手を支配。下見せてて上、上見せてて下。目のフェイント、足のフェイント、体のフェイントを使って、1の段階で戦う」
「(Q.レベル1で戦って全然いけるなら、レベル2には上げない?)上げる必要はない。レベル差のある相手に高技術なフェイントかけても、引っかからない場合ってありませんか?」
「(Q.訳分からない行動を取っちゃう?)フェイントをしても相手が引っかからず撃たれる場合がある」
「(Q.プロになってレベル2出したことは?)今のところはない」

数年前までは違うスタイル

 ただ、数年前までは全く違うスタイルだったといいます。

「もともと気性が荒いボクシングをずっとしていた。ただ、ぶん殴り合うボクシングをずっとして生き残ってきた」
「計画性もない。カーンってなって、ぶん殴りにいって勝つか負けるか」
「(Q.基本から外れてた?)全然外れてましたね」

 2019年、東京オリンピック出場をかけた試合。ゴングが鳴るやいなや、激しく前に出る坪井選手。前に前にと圧力をかけ続けるスタイルは、現在とは違います。

 攻め手にはやり、逆に打ち込まれる場面もありました。

 結果は、わずかの差で敗北。オリンピック出場をかけた大一番での挫折。坪井選手が変わるきっかけでした。

「『俺、全然だめだ』。一から変えるしかない。“ただ単純に殴り合って勝つスポーツ”ではないと気がついた。基本から」

世界初挑戦「圧倒したい」

 基本に立ち返ってからの2年後、手にしたのが、日本人初のアマチュア世界選手権での金メダル。さらに、その4年後、プロで坪井選手の名を知らしめたのが、元世界王者のカルロス・クアドラスとの対決でした。

 序盤から試合を支配した坪井選手に後半、セコンドの田中繊大トレーナーが「もうそろそろ終わらせてあげな」と、意外な言葉をかけます。

 一方的な展開に相手を気遣ったともとれる異例の言葉。まさに「ノーマス」な試合。そして、27日に世界初挑戦を迎えます。

「圧倒したい。タイトルマッチだから、勝てば相手もチャンピオンなので、死に物狂いでくる。その気持ちを折りたい」
「(Q.“ノーマス”トモヤになりたい?」なりたいです」

「基本がどれだけ強いか」

 ボクシングは本能的な荒々しい戦いの世界だと思ったら、基本という教科書がありました。

 松岡さんは取材してどう感じましたか?

「僕は聞いていて、ある意味『ノーマス』状態になった。驚きばっかりですから。こんな勝負の捉え方をする人が初めてで。勝つのが前提で、どうやって圧倒していくか。その圧倒の捉え方も新鮮で。特別な技術や特別な武器は必要ないんだという。当たり前の技術にある基本というのを、誰もやらないぐらい当たり前のようにやる。この基本というものが、どれだけ強いものなのかというのを教えてくれました」

(2026年9月25日放送分より)

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