
11日に行われたチーズの品評会で、ヤギのチーズが金賞に選ばれました。手掛けるのは会社を辞め、東京の山あいでヤギを育てながら1人でチーズ作りに取り組む男性です。世界も認めた味の秘密を取材しました。
世界大会でトップ14に
都心から車で90分の東京・あきる野市。その山あいにあるのが「養沢ヤギ牧場」です。
ここで、およそ40頭のヤギをほぼ1人で育てているのが堀周さん(36)。東京で酪農に新規参入したのは堀さんがおよそ30年ぶりです。
養沢ヤギ牧場 堀周さん
「『ヤギのチーズってこんな感じなんだ、おいしいね』と最初の入り口になれたら、それが僕の役目かなと」
堀さんは、育てたヤギのミルクでチーズを作っています。このチーズが世界をうならせました。
審査員
「フランス産かと思ったでしょう。違います。このチーズが作られたのは日本です!」
チーズの世界大会で「トップ14」に選ばれたのです。世界に認められた味は、一体どう作られているのか。1人の酪農家の山あいの暮らしを追いました。
ヤギの小屋も手作り
東京・港区の西麻布にあるイタリア料理店「草片 cusavilla」で味わえる、ちょっと珍しい一皿がヤギのチーズを使った野菜サラダです。
客
「おいしいです。思ったよりも癖がなくて」
このチーズが作られているのも同じ東京。あきる野市で酪農を営む堀さんの一日は、朝8時から始まります。
「子ヤギ小屋、餌(えさ)からいきますか」
まずは、40頭のヤギへの餌やり。20キロの干し草を担ぎ、何度も小屋を往復します。40頭が暮らすこの小屋も堀さんが自分で作りました。
「最初に完璧な設計図があるわけではなくて、大まかな頭の中の構想と、やりながら僕の中で鮮明になってくる」
「自分で考えて、自分の手で作る」そんな堀さんは、なぜ東京でヤギを飼うことになったのか。原点には、会社員時代のある思いがありました。
堀さんはあきる野市で生まれ育ちました。2013年に大学を卒業すると、大手建材メーカーに就職。しかし、3年で会社を辞めて「脱サラ」しました。
「自立した生き方をしたい。あまりよそに依存したり頼ったりしないで生きていけるスタイル、そういうのに憧れて」
そんな時、テレビで見かけた酪農家の姿が堀さんの目指す生き方と重なりました。
「こういう生き方がいいなと思って憧れたのが最初で、そこから時間をかけて自分の頭で整理して」
2016年、北海道でチーズ作りを学び酪農家になることを決断します。そして、堀さんが選んだのはウシではなくヤギでした。
「飼育から搾乳してチーズまで作るという、そこを全部ちゃんと自分の手でやりたいところから、ヤギのミルクを自分で育てて自分で加工して販売できるという意味で、日本においてはそういうヤギのミルクの生産者がいないから」
選んだ理由は、他にもあります。東京で酪農を始めようとしても広い平地は多くありませんが、堀さんは次のように話します。
「(牧場を)やれる場所は少ないけど、客が多いほうが飼育とか製造に力を入れて、販売は少し客のそばで楽できる。(傾斜が急で)使えない山をヤギで活用することに良さがあるのかなと」
そして2019年、あきる野市の使われていない傾斜地を買い取り、翌年、牧場を切り開きヤギを飼い始めます。そんな堀さんを支えるのが、妻の麻衣さん(38)。最初は不安もあったといいます。
麻衣さん
「自営業って不安定なイメージが強かったので、手放しに『どうぞどうぞ』という気にはならなかったけど、でも結構本人しっかりして考えるタイプなので、信頼している」
堀さんが最初に迎えたヤギがミーちゃんです。
堀さん
「当時、ヤギ人気が結構高くて全然買えなかった。なんとか1頭だけ手に入ったのが彼女。大事な一番のパートナー」
ヤギに優しく「手搾り」
春が来ると、牧場に新しい命が生まれます。
「よし、女の子かな?」
母ヤギからミルクが出始めると、いよいよチーズ作りが始まります。堀さんは機械ではなく手で搾ります。
「機械で吸い取るより、負担がない。搾りすぎることが手だとないので」
こうして搾ったミルクは、チーズ工房へ。まずミルクを加熱・殺菌し、冷やします。堀さんは、大切にしていることについて次のように話します。
「ミルクが良ければ結構何とでもなるっていうか、(工房の作業は)良さをそがないようにチーズまで仕上げることに徹している。良いミルクを出してもらえるように、ヤギのお世話を頑張ることですかね」
その後、乳酸菌などを加えて水切り。形を整え、2週間ほど熟成させると完成です。その味は、口どけが柔らかで、程よい酸味があります。
ただ、ここまで来るには数えきれない失敗がありました。
「おいしくないチーズを作った時はすごい心が折れた。ヤギにも申し訳ないし、売れないし、作る時間や搾乳に時間をかけて、ようやく生産物ができたのに商品にならない」
それでも…。
「ヤギをほったらかして休むわけにはいかないので」
ヤギは支え合うパートナー
そんな日々を積み重ねる中、大きな転機が訪れました。去年11月、スイス・ベルンで開催されたチーズの世界大会「World Cheese Awards 2025」。46カ国から5244品が出品され、その中で堀さんのチーズが世界のベスト14に選ばれたのです。
審査員
「素晴らしいチーズだと思います。とてもなめらかでホイップクリームのような食感が楽しめます」
男性審査員
「フランス産かと思ったでしょう。違います。このチーズが作られたのは日本です!」
また、今年10月10日から11日にかけて行われた「ジャパンチーズアワード2026」では山羊乳部門で金賞と部門賞を受賞。そんな堀さんのチーズを、牧場が始まった頃から使い続けているシェフがいます。
草片 cusavilla
帖地華菜恵シェフ
「(東京で)ヤギを育てている方がいるということに驚いて、どんな人がチーズ作っているんだろうって。一人でしていてすごいなと思って」
堀さんのチーズは、春は濃厚、夏はさっぱり。その時期ならではの味わいが楽しめるのも魅力です。
帖地シェフ
「季節によってミルキーさも変わる。(料理を変えて)ずっと使っている」
客
「すごくマイルドでおいしいです。良いミルクの感じがすごく伝わります。東京でこういう良いチーズが作られているというのを聞いて、うれしく思いました」
酪農家として歩み始めて6年。会社を辞めてまで探した「自立した生き方」。その隣には、いつもヤギがいます。
堀さん
「(ヤギは)家族のような、従業員のような、でも支え合うパートナーであるそういう関係性なので、何考えているか付き合ってきて、なんとなく分かっている気ではいます。そんな中でも、よりもっと気付いてあげることがないかなと意識しながらやっています」
(「グッド!モーニング」2026年10月12日放送分より)
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