いよいよ12月となり、格闘技の世界が年末イベントの話題で盛り上がる季節がやってきた。年末といえば、格闘技が一年で最も“世間”と勝負する時でもある。それだけに、内容よりも話題性重視、いわば“飛び道具”的なカードも数多くマッチメイクされている。その究極の例が、曙vsボブ・サップだ。
昨年に続いて12月29日と31日に開催されるRIZIN・さいたまスーパーアリーナ大会でも、話題性重視のカードが用意されている。ギャビ・ガルシアvs神取忍、桜井“マッハ”速人vs坂田亘がそれだ。
柔術世界王者のガルシアに対するは“ミスター女子プロレス”こと52歳の神取。坂田はタレント・小池栄子の夫としても知られる選手で、久しぶりの試合出場にあたって夫婦で記者会見に出席したことも物議を醸した。
この2試合、どう考えても“トップアスリート同士の闘い”とはいえない。真面目な格闘技ファンほど嫌悪感を抱くのではないか。ただ、紅白歌合戦を“裏”に回してテレビ中継される大会では、こういった試合が話題性、視聴率要員として必要なのだろう。
RIZINの“本筋”は、あくまでシビアなマッチメイク。そう思いたいし、今大会には実際に格闘技ファンも納得できるようなカードも数多く組まれている。
その筆頭が、川尻達也の日本マット復帰だ。修斗、PRIDE、DREAMと常に最前線で闘い続けてきた川尻。近年はUFCと契約して海外で闘っていたが、この秋に自ら望んで契約を解除。RIZIN参戦を果たすことになった。
それだけ日本格闘技界への愛着が深かったということだろう。といって「ちやほやされたいとは思わないし、ヌルい試合をするつもりもない」というのが川尻らしいところ。なんとクロン・グレイシーとの対戦をアピールし、実現することに。
“400戦無敗”として知られるヒクソン・グレイシーの息子であるクロン。MMA(総合格闘技)でのキャリアは浅いものの、9月大会では所英男に完勝を収めており、その実力は相当にハイレベルだ。そういう厳しい相手だからこそ、川尻は対戦を望んだのである。一方で、格闘家として“グレイシー一族”の幻想に触れてみたいという思いもあったようだ。
また年末RIZINでは、所英男vs山本アーセンも実現。これもキャリアの差がある闘いだが、母の山本美憂をはじめ山本“KID”徳郁ら格闘一家で育ったアーセンの潜在能力は誰もが認めるところ。所もその実力を「僕が優っているのはキャリアくらい」と認めている。
もちろん、そのキャリアの差を見せ付けられる可能性もあるだけに、アーセンにとっては厳しいマッチメイク。所も連敗はできないし、ましてやキャリア1年のルーキーに負けられないはず。やはりこれもシビアなマッチメイクだ。
また北岡悟がRIZIN初参戦を果たし、ダロン・クルックシャンクとの実力者対決に臨む一戦も格闘技ファンにはたまらない。さらにDEEP王者・和田竜光や元谷友貴といった、格闘技界の未来を担う若い選手たちの活躍にも期待がかかる。
高田延彦統括本部長いわく、彼らは「やればできる選手たち。目立ってほしいし、スターになってほしい」。シビアな闘いの中でファイターが輝きを放った時こそ、格闘技本来の魅力がテレビの向こうにも伝わるはずだ。
文・橋本宗洋