金正男氏の殺害事件から2週間。金正恩委員長の関与など謎の解明が待たれる中、"ある内部資料"で、深刻な北朝鮮の実態が浮き彫りになった。

「群衆政治事業指導案」と書かれた11枚の書類には、「朴は2010年10月から2015年8月まで、7回にわたり自宅といろんな場所で麻薬の原料を購入、昼も夜もなく麻薬を製造し、2400ドルを搾取した」と書かれている。
この他、「新義州の李は2013年7月から2016年4月まで、いろんな相手に中国のお金65元を渡して麻薬を密輸し、麻薬3.6キログラムを27回にわたり使用する罪を犯した」「無職の朴はお金に目がくらんだ人々と共謀し10回にわたり5キログラムの麻薬を製造する犯罪を犯し、10人の不純な人々と数百グラムの麻薬を2000回使用する犯罪を犯した」などの資料も存在。金正恩体制下で深刻な麻薬汚染が広がっている様子が具体的に記されているのだ

北朝鮮の情報を分析している日本大学国際関係学部の川口智彦准教授は、この内部資料について「取り締まりに苦労しているところが見える。資料の後半では自首を促している」と読み解く。覚せい剤を日本に密輸する"北朝鮮ルート"は日本の警察当局も警戒しており、北朝鮮での麻薬問題は、日本も無関係ではない。

北朝鮮では、当局が他国のアダルト動画の取り締まりにも手を焼いているようだ。
別の資料には、「運動機材の工場の労働者・金は2009年8月から2014年12月まで、朴のメモリに入力されていた敵国のアダルト動画を1本もらって視聴し、さらに傀儡テレビドラマ2本と傀儡不純出版物50冊が入力されていたカードをもらい、視聴し流布させた」、「紡績工場の労働者・崔は腐りきっている資本主義のアダルト動画に映っていた世紀末的な方法を習得し、アダルト動画を再現したみだらな性行為をし、5名の女性と11グラムの麻薬を使いながら携帯で4回に渡り動画を撮影し、制作した」などと記されている。
アダルト動画で逮捕された者の多くは、中国との国境付近に住む人々だという。川口准教授は「スマホで性行為を撮影している。そういうものを買える層の人たちが、こういうことをやっている。経済状態は悪くない」と分析。

韓国の統一研究院によると、北朝鮮では2000年から2014年までの間に、麻薬取引や韓国ドラマの不正な流通などで、1382人が公開処刑されたという。
今回、明らかになった北朝鮮の実情について「最近の出来事ではない」と話すのは、現在は韓国に住む脱北者の金柱聖さん。内部資料のような情報をもとに、住民たちを対象にした講演や学習も常に行われていたという。
北朝鮮の麻薬問題について金さんは「以前は国家が関与していた」と話す。「北朝鮮の国家機構自体が、以前のように人民たちに食料から何から一切を供給しないようになってしまった。だから、北朝鮮民は生きていかなければならないため、商売の手立てとしてこの麻薬に手を出した」とのだという。
また、中朝国境を通じて外部のアダルトコンテンツなどが流入したのは、1990年代の半ばごろからだというが、それ以前からヨーロッパの方から入って来ていたそうで、「上層部の人間はそういった外部の文化には触れていたが、一般庶民がこういう風に大幅に触れるようになったのは、2000年度以降、構造が市場化されてから」だという。

なぜ、北朝鮮国内でアダルトビデオの規制が必要なのか。
「北朝鮮ではアダルトビデオだけでなく、外部文化のような録画物や音楽、雑誌などが"反動的な出版物"と決められている。それを見ることは反動分子として、ひどい場合は銃殺されることもあった」(金さん)
つまり、統制のため、なるべく国外の情報に触れさせないことの一環のようだ。ただ、「北朝鮮の芸術、踊り、歌とかそういうのは、以前の北朝鮮よりかは垢抜けしてきている」と、金正恩体制になってからの変化もあるようだ。
いずれにせよ、内部資料の18のケースに登場する人々は「無慈悲に掃討した、公開処刑をした」と、みな同じ結末をたどっている。
金さんは「自首をすると許してあげるというが、北朝鮮での自首というのは大目に見てくれるというようなことではない。こういう資料が出た後に、必ずどこかの地域で銃殺が行われる。絶対に見せしめというのはある」と話した。