2006年3月3日、高知県・旧春野町で起きたスクールバスと白バイの衝突死亡事故。そこに残されていた1組のブレーキ痕がスクールバスに過失があるという決定的な証拠となった。一審の高知地裁では、スクールバスの運転手に対し禁固1年4ヶ月の実刑判決。しかし、その後ブレーキ痕をめぐる数々の疑問が噴出した。

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 事故は道路脇の駐車場から出たスクールバスが右折しようと道に出た中央分離帯付近で、右方向からきた白バイと衝突したというもの。スクールバスに乗っていた遠足帰りの中学生22人と教師ら3人には怪我はなかった。この事故でバスを運転していた片岡晴彦元運転手が安全確認を怠り、車道に侵入したとして業務上過失致死罪に問われた。

 裁判での被告側の主張は、「左右の安全を十分に確認してから国道に入った。左から来る車をやり過ごすため道路中央で停止中に白バイが突っ込んできた」というもの。一方、検察側の主張は「安全確認を怠り、国道の中央分離帯に向けて低速で進行中、白バイに気づかないまま白バイと衝突。急ブレーキをかけ白バイをおよそ3メートルひきずりながら進んで停止した」というものだった。

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 バスに乗っていた中学生らは当時「停止していたと思います」「中央分離帯でずっと待っていて、そろそろいけるかなって思っていたところに白バイが当たった」と証言している。さらに、事故の瞬間を目撃した人物がいた。事故の時バスのすぐ後ろの車に乗っていた中学校の校長だ。品川元校長は「バスは止まっていました。私の目の前で見えました」と証言した。

 集まった数々の証言にも、裁判所の判断は「第三者であるということだけで、その供述が信用できるわけではない」。また裁判官が信用したのは、事故の反対車線を走行中にスクールバス、白バイを通りすがりに目撃したという、白バイ隊員の証言だった。「目視でバスは時速10km、白バイは法廷速度の時速60km以内だった」。裁判所はこの白バイ隊員の証言を有効とした理由について「常日頃から目視の訓練をやっている白バイ隊員の証言は信用性がある」と説明した。

 さらに、検察側が出してきたのは130枚以上に及ぶ実況見分の時の写真だ。そこには検察が決定的証拠だと主張する、1組のブレーキ痕が写っていた。長さは右側が約1m、左側が約1.2m程度。検察側はバスが急ブレーキをかけた証拠だと主張。それに対して、片岡元運転手は「バスの運転手はブレーキに一番神経を使う。絶対と言い切れる。急ブレーキはかけません。ブレーキ痕がつくわけがない」と話した。検察側の主張は、時速5kmから10kmで走行中に白バイと衝突し、急ブレーキをかけたがひきずりながら停止したというもの。

 これらの証拠写真について交通事故事案鑑定人の石川和夫氏は「タイヤにはどの車種にも必ず溝がある」と指摘。しかし写真にはその溝が写っていなかった。「誰かが何かの目的で、そこに描いたと考えざるを得ない」。実際に片岡元運転手を支援する人たちが行った実験によると、飲料水を用いてブラシで地面をこすれば写真のようなブレーキ痕は容易に作れるという。

 弁護側は専門家の証言をもとに、捏造の可能性を指摘した。しかし、検察側は「事故後、野次馬やマスコミがたくさんいる中、ブレーキ痕を作ることはあり得ない」と主張。さらに高知県警は自ら異例とした会見を行い、「捏造、飲料水で塗ったということは絶対にあり得んことであります」と断言した。

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 長年、この事件の取材を続けてきた瀬戸内海放送の山下洋平氏は、実際に事件の起きた現場で、対向車線の白バイ隊員の証言に基づく速度で走る実験を行った。山下氏は実験をもとにこう話す。「現場の手前は緩やかなカーブになっていて、交差点が見えてからブレーキをかけると十分止まれる」。さらに法定速度が60キロの道は、75メートル前にはドライバーの目から見通しが立たないといけないという法律もあるという。

 多くの疑問点を残しながら高知地裁、高裁で禁固1年4ヶ月の判決。上告するも最高裁は棄却し、片岡元運転手の実刑が確定した。刑を終えた片岡さんは、2010年2月に出所も改めて無実を訴え、裁判のやり直しを求める再審請求を行っている。片岡さんは「結局(事故の時バスに乗っていた)22名の子どもたちのためにも、真実だけはこういう事故であったと世に出したい。それが自分に今課せられた義務ではないか」と話した。

 これまで弁護団、検察、地裁による三者協議が続けられる中で、裁判所から証拠写真のネガフィルムを入手。フィルム鑑定の権威である千葉大学名誉教授の三宅洋一氏に鑑定を依頼した。三宅氏は警察庁科学警察研究所の顧問をしていた鑑定の第一人者でもある。

 その結果について石川氏は「三宅先生自身の写真解析ソフトを使うと、より鮮明に痕跡が浮かび上がる。三宅先生自身もスリップ痕ではなく絵である。何らかの液体で描いたものであると鑑定書で断言されています」。さらに光学顕微鏡などで解析されたネガの中に、画像そのものを作り替えた合成写真もあったという。

 再審請求には新規かつ明白な証拠があればという条件がある。11年もの歳月が経ち写真解析などの技術も進化している中、弁護側はブレーキ痕が捏造されたのではないかという様々な鑑定結果を出している。

 しかし裁判所側は「証拠の捏造が出来るわけがない」の一点張り。現在も最高裁に特別抗告を出しているが、再審請求が認められる目処はたっていない。(AbemaTV/AbemaPrimeより)

(C)AbemaTV

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